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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第三章】白ウサギと水の都
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69.白ウサギと海賊

 前方の甲板に駆けていった俺とカズさんが見たのは、右を見て硬直するプレイヤーたちの姿だった。


 同じ方角に目を向けると、少し離れた先に定期船と同じくらいの大きさである船の姿があった。


 けど、それは酷く朽ち果てていた。船体は大きく傾いていて、ドクロのマークが描かれた帆から海賊船なんだと理解できるが、まるで……、


「沈没船みたいだ……」

「ああ、その通りだ」


 ガチャリと槍を出現させたカズさんが、俺の呟きに答えた。


「公式によれば、航海中に嵐にあった海賊たちの成れの果て、の姿らしい。俺も見るのは初めてだが、多分ゾンビみてえな敵が出てくるんだろうな」


 うへぇ、と嫌な顔を作らざるを得ない。


 ……というか、まさか本当に出会う羽目になるとは。本当に確立、低いんだよね?


 でも、今回のイベントは回避が可能だ。すぐ側にある建物の中に入れば、争いに巻き込まれない。


 俺は肩を鳴らし始めた戦う気満々のカズさんからそっと離れると、忍び足で建物に向かう。


 後は頑張ってください……!


「カズ〜」


 目的地の扉が開く。


 そこから顔を出したのは、シェリーさんだった。


「姫、撮るか? 俺は準備万端だけどよ」

「もちろん、こんなチャンス滅多にありませんもの」


 シェリーさんはそう言うと、いつ氷を貼ったのか凍った床を滑ってカズさんの隣までやって来た。


 その際に二人の肩が触れて、


「「!」」


 びくりと体を震わせ、飛び上がる二人。


 さっき自分たちの想いを口に出したからかな。


 カズさんは大きく咳払いし、シェリーさんは髪をいじって調子を取り戻すと、海賊船を見据えた。


 俺はそんな二人に背を向けて、扉に向かっていく。


「ぉぶ」


 その直前で派手に転んだ。


 理由は足元、まだ床が凍っていたからだ。


「あでで……」


 何とか立ち上がり、今度こそ扉に手を伸ばす。


 ……けど、目の前にあったのは壁だった。


「あ、あれっ?」


 何度見てもやはり壁だ。扉なんて見当たらない。


 つ、つまりこれは……逃げ遅れた?


 恐る恐る振り返ると、海賊船が間近に迫ってきていた。


 いつの間にか風景が闇夜に閉ざされ、気持ちの良い青空が消滅していた。


 こ、怖い怖い! もうこれホラーゲームだよ!


 ドンッ!


 泣きそうになっていると、先ほど聞いた爆発音が。


 見れば海賊船の先端付近に配置された砲台から、黒い球体が発射されていた。


 なるほど、さっきのは大砲だったのか。


 直後、定期船に直撃し、俺は衝撃で転がった。


「わああッ!」


 やがて手すりにぶつかり、動きが止まる。


 目を開くと、目の前にカズさんとシェリーさんの姿があった。……さっき立っていた場所に戻ってきたってわけか……。


「お、ゼン! 一緒に戦ってくれんのか?」

「可愛い顔して勇敢ですねぇ」


 事故です。


 ……けど、こうなったらもう覚悟を決めるしかない。それにせっかく新しい武具を揃えたんだ。試してみたいという気持ちもあるし、やってみよう!


 二人の側に駆け寄り、ブーメランを装備する。


 すぐに海賊船が激突し、再び凄まじい振動に襲われるが、今度は予期していたことなので耐えることができた。


『『あ、ア……ア……ぉ、オ……!』』


 けど、そこで満足してはいけない。


 海賊船から、敵の群れが姿を現していた。



【クルーゾンビ】【Lv9】



 皮膚が溶けている、かつて海賊であった者たち。


 腐敗した手で握り込んだ短剣を掲げ、こちらの船に乗り込んでくる。たまに失敗してドボンドボンと水の中に落ちていくのもいるけど……倒したってことでいいのかな。


「んー……さすがに私のブログにこれは合いませんね」


 カメラを構えたままシェリーさんは数歩下がって、


「それじゃカズ」

「へいへい」


 自分よりも大きな槍を肩に担いだカズさんは、特に表情を変えることなく前に出た。


 そこはちょうど敵が乗り込んでくる場所の目の前なので、カズさんが囲まれるのは時間の問題だった。


 う、うわぁ……サバイバルホラーみたいだ……って、マズい! 助けに行かないと!


「大丈夫ですよ」


 駆け出そうとした足をシェリーさんに止められる。


「すぐに終わりますから」


 彼女は偽りない笑顔で、そう告げてきた。


 でも、と。言葉を返そうとした、その瞬間だった。



 ――。



 音は、よく分からなかった。


 何か涼やかな印象のある、そんな感じ。とりあえず理解できたことは、一つ。



 この場にいたクルーゾンビが全て消滅していた、ということだけだ。



 とにかく一瞬の出来事だったため、どうなってどうなったのかは分からない。視界に映るのは、槍を振り払った状態のカズさんだけだ。


「……ま、ウォーデル付近の敵だもんな」


 どこかつまらなそうにそう言うと、カズさんは海賊船に目を向けた。


「どうやら終わらせるには、こっちから乗り込まなきゃいけねえみたいだな。ちょっくら行って」


 そこで、カズさんの警戒が強まった。


 表情を鋭く変化させ、槍の先端を原因に向ける。


 つまり、俺の方向に。


『ァ、ゲエッ!』


 叫び声が上がったのは、その直後だった。


 場所は、カズさんの背後。海から上がってきたクルーゾンビによるものだった。


 そしてやつが叫んだ理由、それは俺のブーメランが額に激突したからだ。カズさんが臨戦態勢を取ったのは、自分の方向に攻撃が来ると察知したからだろう。


 ゆっくりと槍を下ろすカズさん。その後ろから姿を消す、HPゲージを半分失ったクルーゾンビ。最後に返ってきたブーメランを手に取る俺。


「あ、当たった……良かった……」


 そこでようやく、安心することができた。


 まだ俺の攻撃には安定感がないため、カズさんがダメージを負ってしまう危険もあったので……。


「ゼン!」


 そう考えていると、カズさんが走ってきた。


「助かったぜ、やるじゃねえか!」


 そのまま、ポンポンとリズミカルに頭を叩かれる。


「あぅ、あぅ、あぅ」

「気に入ったぜ、マジで気に入った!」


 な、何だろう。凄く嬉しそうだけど……。


「……カズは情に流されやすいんです」


 対照的に、不機嫌そうな声。


 振り返ると、むすっ、と頬を膨らませるシェリーさんが。


「今のあなたの行動は、百点満点ですね……」


 シュオオ、と彼女の体から鮮やかな音が放たれる。


 白い煙のようなものが出現して……あ、あれ? まさか氷漬けにするつもりじゃ……え、するつもり?


「ま、待ってくだしゃい!」


 あまりの恐怖に噛みながらも、俺は二人から少し距離を取った。


 そして今身につけている下半身の装備を見せびらかした。


「「?」」


 その黒いパンツを見て、二人は首を傾げて、


「あれっ、スカートじゃない、ですね……?」


 シェリーさんの方が早く気付いた。


 二人は少しだけ、いや、しばらく考え込んで、


「「……おと、こ?」」


 信じられないものを見る目で、そう尋ねてきた。


 ……慣れてきた自分がいることに泣けてくるなぁ。


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