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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第三章】白ウサギと水の都
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62.5.嵐の中で

 外は、それはもう酷い有様だった。


 ここビルディックは通路が狭いため鋭い風が通過し、耐え切れず吹き飛ぶプレイヤーの姿もあった。


 だが一人、建物の扉に触れる少年がいた。


 目の前の光景など気にせず、外に出ようと試みる。


「ゲイタ! 考え直して!」


 側に立つ少女が必死に叫ぶ。


 しかし変わらず、少年は風によって押さえつけられた扉に体重をかけ続ける。


 ギシギシと軋んだ音を立て、少しずつ扉が開く。


「無理よこんな嵐の中……辿り着けないわ!」

「やってみなくては分からないさ」

「ここからウォーデルまでどれくらい距離があると思っているの! 普通の天候でも徒歩で一時間近くかかるわ! それに迷いの森だって……!」

「心配いらないよ」


 答えながらググっ、と力を入れる。


 扉は少しずつ開いていき、



 ――そこで少女は、ゲイタに抱き着いた。



 ギュッと力強く、だがその体は震えていた。


「どうしても……行かなくてはならないの?」

「ああ」

「そこまでする必要があるくらい、大切な人なの?」

「ああ」

「……わたし、よりも?」

「…………」


 少しだけ間を開けて、


「……ああ」


 ゲイタは、そう答えた。


「そ、う……」


 少女がゆっくりと腕を離す。


 ゲイタはそれに対して何も反応を見せることなく、扉を開いた。


 ドゥッ!! と殴りかかるような風が放たれる。


「きゃあっ!」


 襲われた少女の体が、宙に浮く。


 そのまま、頭から床に落下する――


「あっ……」


 彼女を、優しくゲイタは支えた。


 風が止み、訪れる静寂。


「……すまない」


 ゲイタが口を開く。


「君の気持ちに……応えることはできない」

「もう……普通、この状況で言う?」


 少女は浮かび上がった涙を指で拭って、


「行って、大切な人なんでしょう?」

「ああ」


 ゲイタは彼女から離れると、扉に歩み寄った。


 鋭い風を受けても表情を変えることなく、嵐の中に向かっていく。


「ゲイタ……」


 その小さくなっていく背中に、


「ゲイタああ――ッ!!」


 少女の叫びは、届いたのだろうか。


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