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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第三章】白ウサギと水の都
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61.コスプレ喫茶、開店

 カランカラン、というベルの音が始まりを告げる。


「「ようこそー!」」


 華やかな声と共に、最前列の客が足を踏み入れる。


 続いてぞろぞろと列が歩き出し、すぐにストップした。


 ギルドメンバーたちは忙しなくも慣れた動きで注文し料理を運び、客と交流をしていた。


 ふと、タッタッタ、という足音が近づいてくる。


 そして開かれる目の前の扉。


「ほらゼン、出番よ」


 現れたのは白と黒のエプロンドレスに身を包んだクリスだった。露出度の多い装備の彼女しか見たことがなかったので、凄く新鮮だ。


「うぅ……ホントにやるの?」

「そりゃそうよ、お店とあたしの利益はゼンにかかってるんだから。ほら、行った行った!」


 ぐい、と腕を引かれ、俺は強制的に店の中へ。


「わ、わわっ!」


 体制が悪かったため、声を上げてしまう。


 何とか無事に足をつけたけど……店中の視線が俺に集まっていた。


 彼らはジッとこちらを見つめたまま動かない。な、何か可笑しなところがあったのかな。それか俺が男だと分かってしま、


「「「美少女だああああああああああッ!!」」」


 嬉しいやら悲しいやら。


 落ち着いた感じの店内が、動物園のように変わる。絶え間なく口笛が吹き荒れ、みんな鼻の下を伸ばしながらこっちを見つめてくる。


「そ、想像以上の反応ね。……女として泣けてくるけど」

「俺だって泣きたいよぅ」


 すっかり怯えてしまった俺の瞳が自然と横を向く。


 そこには縦長の鏡が配置されていた。


 映し出されているのは、ロングスカートのクリスとは異なるミニスカートを身につけた少女……っとお! 素で自分自身を間違えるのはダメだぁ!


 さ、さて。ここまでは海のイベントの時と同じなんだけど、今回はカチューシャとピンクのリボンまでつけられてしまっている。他にも細かい違いがあって……とりあえず、恥ずかしぃ……。


「ほら、まずは注文取ってきて。奥のお客さん」

「う、うん」


 こ、こうなったらもうヤケだ! やってやろう!


 覚悟を決め、店内を歩いていく。


「店員さん可愛いねー!」

「わぁありがとう! 嬉しいなっ!」

「店員さんこっち向いてー!」

「はーいっ」


 先ほどもらったマナーに従って、相応の答えを返す。


 そこは何とか大丈夫なんだけど……短いスカートがひらひらして、意識せずにはいられない。周りの視線も下に向けられているような気がする。


 スカートを抑えながら、何ともぎこちない動作で俺はやっと一番奥の席に辿り着いた。


 腰を下ろしていたのは、二人の男女。カップルかな?


 咳払いして声を整え、今出せる精一杯の笑顔を表情に映してから、席に駆け寄った。


 そしてくるりと横に一回転、姿勢を戻して決めポーズ!


「お帰りなさいませっ! ご主人様! お嬢様!」


 最後に、ばちこーん! とウインクを一つ。


 いやぁ恥ずかしくて今にも逃げ出したい、という衝動を何とか奥歯を噛み締めて堪える。……これがもし知り合いだったら、耐えられなかっただろう。


 やがて、お客様が口を開いた。


「ゼン……お前何してんだ?」


 なるほど、知り合いだと逆に動けなくなるのか。


「ゼン、やっぱり君はそっちの……」


 というわけでこの二人は、カイトとナギだった。


 幼馴染とその幼馴染はこの俺の姿を見て、微塵も笑顔を見せず、ただ目を見開くだけだった。


 ば、バカにされるより辛いです!


「ち、違うよ! これには色々と訳があって!」

「心配すんな、オレたち長い付き合いだろ? お前がどう変わろうが、親友であることに変わりはねえ」

「そうです。自分に素直になって良いんですよ」


 痛い、二人の優しい顔と言葉が。


 は、早くこの場所を離れよう!


 とりあえずできるだけ言い訳をし、また後で話し合うことにして俺は注文を受けた。


 最後まで二人は笑顔で、凄く泣きたくなった。


「ほら落ち込んでないの。次の注文」

「はい……」


 力なく答え、だがすぐに気合いを入れ直す。


 だってせっかく来てくれたお客さんに申し訳ないし、売り上げに悪影響が出てしまうかもしれない。


 笑顔を作り直し、店の奥には目を向けないことを心がけ、俺は別の席に向かった。


「お帰りなさいませ!」

「あら、ふふ。久しぶりウサギさん」


 目の前が真っ白になりかけた。


 ポニーテールが特徴的な彼女は、ハナビさんに間違いなかった。


「今日はずいぶんと……その、可愛いわね」

「あ、あんまり見ないでください。これには事情が」


 ――パシャ。


「何で撮るんですかあっ!」

「あ、ごめんなさい。可愛くてつい……」


 ハナビさんは出来上がった写真を見つめて、


「ふふ、可愛い」


 その笑顔に、照れ臭くなってしまう。


 ……あれ、そういえばハナビさん一人しかいないな。


「ね、ハナビさん、アニキさんたちは?」

「外で街を観光していると思うわ。こういうお店は苦手らしいの」

「なるほど。……あ。ゲイル、さんは?」

「多分リアルで用事があるのかな? 今日は姿がなかったわ。お陰でスムーズにここまで来れたの」

「な、なるほど……」

「どうしたの? そんな不安そうな顔して」


 首を傾げてみせるハナビさん。


 だから俺は、今の悩みを思い切って伝えた。


「ハナビさん、できればこの格好で働いてること、アニキさんたちには内緒にしてくれませんか?」

「あらどうして? この前は普通に女の子用の格好をしていたと思うけど……」

「い、いや、あの時は仕方なく着てるってことがみんな分かっていたから……で、でも、その……正直恥ずかしいんです。女装をしていることが」

「ふむふむ」


 納得したように頷くハナビさん。


 やがて彼女は、人差し指を突き立てて、


「じゃあ一つお願いしてもいい?」

「は、はい。どうぞ」


 ハナビさんは物体化させたカメラを持って、


「わたしと一緒に写真撮って欲しいな」

「写真、ですか?」


 そう尋ねると、ハナビさんは席を軽く叩いた。


 従って、俺は彼女の隣に腰かける。


「ちょっとごめんね」

「わふ」


 そのまま俺は、ハナビさんに抱き寄せられた。


 お互いの頬がぴとりと密着し、緊張で硬直してしまう。


「ふふ、ウサギさん凄い顔」

「ああと、ええと……」


 何とかして表情を取り戻し、シャッターを切ってもらう。一枚だけで大丈夫だそうで、名残惜しくも俺はすぐに解放された。


 それと注文を伺ったので、カウンターに向かおう。


「ありがとうウサギさん、お仕事頑張ってね」

「はいっ、ありがとうございます」


 俺は最後に頭を下げると、歩き出した。


「……ふふ嬉しい。また思い出が増えたなぁ……」


 何か幸せそうな呟きが聞こえたような。


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