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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第三章】白ウサギと水の都
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60.コスプレ喫茶

「……どうしてこうなったんだろう」


 俺ことゼンは、全然成果が出ないため先ほどまで行っていた釣りを諦めて街に戻ってきた。


 そしてゴンドラに乗って今度こそ武具店に向かおうと思っていた。……はず、だったんだけど。


「「かーわーいーいー!!」」


 俺は今、とある職人ギルドの拠点にいた。


 その試着室、開け放たれたカーテンの中、女性プレイヤーたちの目の前で立っていた。


 ……チャイナドレス姿で。


「どうして、こうなったのかな……」

「ね、ね! このメイド服似合うんじゃない!?」

「ありきたりじゃない! この幼児服を」

「この際水着なんてどう!? 中々際どいやつ!」


 俺のことなど気にせず、盛り上がる女性陣。


 ……ええと確かゴンドラに乗っている最中、急に襲われて、ここに連れてこられたんだよね。


「うーん、あたしはシンプルに可愛い系がいいな」


 あそこにいる地図の泥棒に。


 名前はクリス、心優しくわがままな泥棒だ。


「く、クリス? 何で俺こんなことされてるの?」

「何で?」

「い、いや、こっちが聞いてるんだけど……」


 本気で首を傾げているところが不思議でならない。


 そして今度は、ムッとした顔を作ってきて、


「忘れたとは言わせないわよ」


 こちらに駆け寄り、俺の鼻先を指で突いてきた。


「――金策、よ」

「金策? ……あ、盗んだ地図の?」


 そういえば、返さなきゃいけないんだった。


「盗んだゆーな! 確かに盗んだけど! ……そ、それはそれとしてゼン、言ったわよね?」

「え、えーと?」

「金策、手伝ってくれるって」

「ああ……」


 そういや、そんなこと言ったような気がする。


「でも、これが金策に繋がるの?」

「繋がる繋がる! むしろお釣りが出るくらいよ!」


 ふふん、とクリスはドヤ顔を見せて、


「ここね、あたしのフレンドが経営してる裁縫職人のギルドなの」

「うん……そう、だよね」


 俺が今立っている場所もそうだし、周囲には様々な服が乱れなく均等に並べられている。正直、ギルドというよりもアパレルショップだ。


 でもこれが金策と結びつく、と言われても何のことだかよく分からない。服を作れってことかな。


「それともう一つ」


 クリスが部屋の端、入り口とは別の扉を指した。


「あっちにもまた別のショップがあるの」

「別の?」

「そ、ついてきて」


 腕を引かれ、扉まで連れていかれた。


 ガチャリ、と開け放たれた先にはーーなんと喫茶店があった。


 広すぎず狭すぎず、ひっそりと置かれていそうな、でも不思議とお洒落さを感じさせる……そんなお店。


「おおお……」


 しっかりとした作りに、戸惑いを隠せない。


 でもどうして裁縫ギルドと繋がっているんだろう。


「二つのギルドが手を組んだのよ」


 疑問には、クリスが答えてくれた。


「都市にはそれぞれ『空き地』があるんだけど、土地を買って建設すればマイホームができあがるシステムになってるの。ギルドに所属していればギルドハウスとして扱うこともできて……っと、細かい説明はいいか。つまり隣同士に建てられたギルドハウスを合併させたのよ。さらなる利益を望んでね」

「利益……」

「うん、名付けて――」



「「――コスプレ喫茶でーす!!」」



 それぞれ可愛らしい衣装を身につけたギルドメンバーさんたちが魅力的なポーズを取った。


 な、なるほど。確かにコスプレは効果的だ。それに衣装が気になれば隣にギルドことショップがあるし……お互いに支え合えて、高い利益も望めるな。


「今日は男のプレイヤーが多く集まってるからね、ガッポガッポ稼ぐチャンスなのよ。良い結果を出せばその分、ボーナスもくれるって!」


 クリスとしてもこれは見逃せないだろうな。


 ……けど、


「ん、どうしたの?」

「あー……いや、俺は協力できそうにないなと思って」


 喫茶店といえば料理。


 コーヒーは出せるけど、料理スキルは初心者そのもの。お店に出せる代物は難しいはずだ。


 だからといって裁縫も厳しい。お店に並べられていた商品を見たけど、俺のスキルではまだまだ作れそうにないものばかりだった。


 このイベントに、俺はいらない子だ。


「何言ってんのよ。必要不可欠に決まってるじゃない」


 と、思ったんだけど。


「はい、これ」


 クリスに何かを手渡された。


 何だろう、冊子? みたいだ……け、ど……。



『接客業の軽いマナー』



「……接客?」

「接客」

「……誰が?」

「ゼンが」

「……どんな格好で?」

「女装で」


 ここで、クリスに目を向ける


 良い笑顔がそこにあった。


 その背後にも同じような笑顔が幾つもあった。


 なるほど、そういうわけか。



「――ああっ! アレは何だ!?」



 クリスに取り押さえられた。


「そんな古典的な罠に引っかからないわよ」

「せ、せめてっ! せめて男用の衣装でええ!」

「可愛い顔して何勿体ないこと言ってんの」


 そして、ぽいっ、と放り投げられる。


 ……ギルドメンバーの人たちの元に。


「あ、あの! 俺は男なんです!」

「うん、クリスから聞いたよ」


 俺を支えたメンバーの一人が答えた。


「じ、じゃあ!」

「そうね、女装してもらわなきゃ」

「何で!?」


 い、意味が分からない!


「だって可愛い男の子がいたら女装させたくなるでしょ?」

「その通り、可愛いんだから仕方ないわよね」

「特別な層に需要あるし」


 最後のセリフに寒気を感じた。


「だ、誰かっ! 誰かああああああッ!!」

「さーて、さっきの続きよ。どんな衣装にしましょうか」

「やっぱりメイド服よ! 喫茶店だもの!」

「スク水一択!」

「助けてえええええッ!!」


 現在ギルドハウスは防音にしているらしく、俺の叫びが外に届くことはなかった。


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