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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第三章】白ウサギと水の都
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56.財宝

「えっ、あたしが逃げ出すって分かってたの!?」


 場所は変わって、ウォーデルの入り口。


「アホか、何年付き合ってると思ってんだ」

「アンタの考えなんてお見通しよ」


 呆れたように肩をすくめる仲間たち。


 その気になるワードに、俺は口を開いた。


「もしかしてみんな、リアルでも知り合い?」

「おうよ、俗に言う幼馴染ってやつだな」

「別に地図盗んだくらいで怒らないわよ。それに目的が目的だしね。わかままだけど優しい子なのよ」

「ち、ちょっとやめてよ恥ずかしい……」


 うーん、愛されてるなぁ。


 ……でもあれ? じゃあ何であの時……。


「どうしたの?」

「あ、いや。クリスが俺が乗ってたゴンドラに飛び降りてきた時、みんな怒ってた気がして……」

「ああなるほどな」

「なるほどね」


 仲間たちはニコニコと笑みを浮かべて、


「そりゃ俺たちのクリスが他人に取られたからな」

「ええ許せないわ、女の子だから良かったけど」


 男です、とは言えなかった。


「あ、あの〜……もし俺が男だったら?」

「塔の上から蹴り落としてたな」

「ボロ雑巾に変えた後でね」


 大変なことになりました。


「あ、違うのよみんな、この子可愛いけど実は」

「わあああああああああ!!」


 急いでクリスの口を塞ぐ。


 それだけでは不審に思われるので、俺は目標を指差した。


「ほ、ほら女の子だよっ! 俺と同じ女の子!」


 虚しい。


 で、でもみんなの意識が女の子に向いてくれた。


 みんなで歩み寄っていく。


「うわはぁ……!」


 少女は、瞳を輝かせてその場所に立っていた。


 視線は俺たちにではなく、その後ろに向けられていた。


 続くようにして、後ろを振り返る。


「「うおお……!」」


 そして、同じように感嘆の声をこぼした。


 その先にあったのは、ビルのような建物。先ほどの塔で見た時と変わらず膨大な水を放出している。


 だから『それは』作られていた。


 均等に並べられた七色のアーチ。つまり、虹を。


 それはそれは巨大で、立派としか言いようがなかった。


「おお、これはこれは……」

「何ともまぁ素晴らしい」

「ほっほっほ」


 周りのNPCも足を止め、笑顔で虹を眺めていた。


「そっかぁ……!」


 すると、急に少女が口を開いた。


「これが、お父さんの財宝なんだね」

「えっ?」


 首を傾げるクリスに、少女は「ふふ」と笑って、


「街のみんなの笑顔が、お父さんの財宝だったの」

「……ええと?」



 クエスト『七色の財宝』クリア!



 更新されるログ。


「えっ、待って?」



【虹のマグカップ】GET!



 報酬を受け取った。


「……嘘でしょ?」


 ちらりと少女を見るクリス。


 対する少女は、にこりと笑ってそれに応えた。


「…………」


 クリス、絶句。


 な、何か声をかけてあげようか。


「い、いやぁ……優しいお父さんだったんだね」

「とんだクソ親父じゃない!」


 娘さんの前ですよ!


「何これ特にオチとかもないの? これで終わり!? 財宝は!? 宝箱があって金貨があって! それをおすそ分けしてもらえる感じじゃないの!? 何よマグカップって……意味分かんないし安物じゃない!」

「俺は嬉しい」

「黙ってなさい物好きオカマウサギ!」

「酷い!」


 い、言っていいことと悪いことがあるぞ!


「こんなっ、こんなことならあたしはっ……!」


 力強く笑顔の少女を指差すクリス。


 けど、すぐに言葉は出なかった。そのままぷるぷると震え、やがて指を下ろした。


「ね? 優しい子でしょ?」

「うん」


 俺は、迷いなく頷くしかなかった。


「うっ、うるさーい!」


 ブンブンと拳を振り回すクリス、逃げる仲間たち。


 それはそれは眩しく美しく、とても微笑ましい光景だった。


「……財宝、か」


 ぽつりと呟いて、少女を見る。

 やはり彼女は、にこりと幸せそうに笑った。


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