56.財宝
「えっ、あたしが逃げ出すって分かってたの!?」
場所は変わって、ウォーデルの入り口。
「アホか、何年付き合ってると思ってんだ」
「アンタの考えなんてお見通しよ」
呆れたように肩をすくめる仲間たち。
その気になるワードに、俺は口を開いた。
「もしかしてみんな、リアルでも知り合い?」
「おうよ、俗に言う幼馴染ってやつだな」
「別に地図盗んだくらいで怒らないわよ。それに目的が目的だしね。わかままだけど優しい子なのよ」
「ち、ちょっとやめてよ恥ずかしい……」
うーん、愛されてるなぁ。
……でもあれ? じゃあ何であの時……。
「どうしたの?」
「あ、いや。クリスが俺が乗ってたゴンドラに飛び降りてきた時、みんな怒ってた気がして……」
「ああなるほどな」
「なるほどね」
仲間たちはニコニコと笑みを浮かべて、
「そりゃ俺たちのクリスが他人に取られたからな」
「ええ許せないわ、女の子だから良かったけど」
男です、とは言えなかった。
「あ、あの〜……もし俺が男だったら?」
「塔の上から蹴り落としてたな」
「ボロ雑巾に変えた後でね」
大変なことになりました。
「あ、違うのよみんな、この子可愛いけど実は」
「わあああああああああ!!」
急いでクリスの口を塞ぐ。
それだけでは不審に思われるので、俺は目標を指差した。
「ほ、ほら女の子だよっ! 俺と同じ女の子!」
虚しい。
で、でもみんなの意識が女の子に向いてくれた。
みんなで歩み寄っていく。
「うわはぁ……!」
少女は、瞳を輝かせてその場所に立っていた。
視線は俺たちにではなく、その後ろに向けられていた。
続くようにして、後ろを振り返る。
「「うおお……!」」
そして、同じように感嘆の声をこぼした。
その先にあったのは、ビルのような建物。先ほどの塔で見た時と変わらず膨大な水を放出している。
だから『それは』作られていた。
均等に並べられた七色のアーチ。つまり、虹を。
それはそれは巨大で、立派としか言いようがなかった。
「おお、これはこれは……」
「何ともまぁ素晴らしい」
「ほっほっほ」
周りのNPCも足を止め、笑顔で虹を眺めていた。
「そっかぁ……!」
すると、急に少女が口を開いた。
「これが、お父さんの財宝なんだね」
「えっ?」
首を傾げるクリスに、少女は「ふふ」と笑って、
「街のみんなの笑顔が、お父さんの財宝だったの」
「……ええと?」
クエスト『七色の財宝』クリア!
更新されるログ。
「えっ、待って?」
【虹のマグカップ】GET!
報酬を受け取った。
「……嘘でしょ?」
ちらりと少女を見るクリス。
対する少女は、にこりと笑ってそれに応えた。
「…………」
クリス、絶句。
な、何か声をかけてあげようか。
「い、いやぁ……優しいお父さんだったんだね」
「とんだクソ親父じゃない!」
娘さんの前ですよ!
「何これ特にオチとかもないの? これで終わり!? 財宝は!? 宝箱があって金貨があって! それをおすそ分けしてもらえる感じじゃないの!? 何よマグカップって……意味分かんないし安物じゃない!」
「俺は嬉しい」
「黙ってなさい物好きオカマウサギ!」
「酷い!」
い、言っていいことと悪いことがあるぞ!
「こんなっ、こんなことならあたしはっ……!」
力強く笑顔の少女を指差すクリス。
けど、すぐに言葉は出なかった。そのままぷるぷると震え、やがて指を下ろした。
「ね? 優しい子でしょ?」
「うん」
俺は、迷いなく頷くしかなかった。
「うっ、うるさーい!」
ブンブンと拳を振り回すクリス、逃げる仲間たち。
それはそれは眩しく美しく、とても微笑ましい光景だった。
「……財宝、か」
ぽつりと呟いて、少女を見る。
やはり彼女は、にこりと幸せそうに笑った。




