5.プチイベント情報
翌日、平日ということで俺こと篠崎善は制服に着替えた。
ベッドの上に置かれたVRマシンを名残惜しく眺めながらも、何とか登校する。
教室につくと、中は【セカンド・ワールド】の話題で溢れ返っていた。
紛れる前に、とりあえず自分の席に向かう。
「よう、善!」
荷物を置くと、前の席の男子生徒が振り向く。
高校デビューだからと染め上げた金色の髪に、ひし形のピアス。丸坊主だった中学時代の面影はどこにもない。
「おはよ。海斗」
海斗こと沢村海斗に、俺は軽く挨拶を返す。対照的な風貌の俺たちだが、これでも小学校からの付き合いであったりする。
「おう! なあどこまで進んだ? 俺はもう次の都市に到着したぜ! レベルも二桁に乗ったし!」
「は、早いな……」
【セカンド・ワールド】には幾つもの都市が存在する。最初ログイン開始地点だった始まりの街も都市の一つで、それぞれが大規模な面積を誇る。
「それで、お前はどんな感じ?」
「あー……うん、それが……」
とりあえず、俺は昨日の出来事を報告する。
すると海斗は案の定、大笑いを見せた。
「ぶっは、まだレベル1!? それに戦いもせずに死んだとか! 相変わらず面白えな!」
「べ、別に俺は海斗みたいにガンガン冒険していくタイプじゃないし……それに笑いどころはそこじゃなくて、女の子みたいな見た目になったところだと思うんだけどな」
「いや、それは別に」
真顔で首を横に振るう海斗。
「つーかお前、女じゃん」
「男です!」
「どっちでも変わんねえよ。だってお前、中学の頃……ぶ、くく……お前のことをよく知らない他のクラスの男子から告白されてさ。男だと真実を伝えたら……そ、それでも……かま、構わないから付き合ってく……ぐふ……くれって……」
「や、やめろォ! やめろおおォッ!!」
せ、せっかく記憶が薄れてきたというのに!
あの時の恐怖を鮮明に思い出し、ガタガタと身体が震え出す。
「わ、悪かった。ちょっとした冗談っつーか……そ、そうだ善! これ見てみろ!」
すっ、とスマートフォンを差し出してくる海斗。
画面には何かゲームの公式サイト……おお【セカンド・ワールド】のものだ。
「ん? なになに……イベント情報?」
「ああ。言っても、別に大したモンじゃねえんだけどな。フィールドの一部で行われるプチイベントだ」
そう言うと、海斗はイベント情報をタップ。
すぐ切り変わった画面には、
「……打上花火?」
そう、色彩豊かな花火の写真があった。
『仮想花火大会!』
写真の上部に被さるように、だが邪魔にならない程度にポップ体でそう文字が刻まれている。
「何でも無事サービスが開始されたことを祝って、盛大に打ち上げるそうだ。確かに今は七月だし季節的にも丁度良いしな。……ま、俺は行かねえけど」
「へええ面白そう……って、見に行かないの?」
「んー……イマイチ興味沸かねえんだよな。それに、ぼーっと眺めてる時間が勿体ねえ。スキルのレベル上げに費やした方がマシだな」
「戦闘狂め」
「俺にとっちゃ褒め言葉だわ。……んで、落ち着いたか? お前こういったモン好きだろ?」
「うん」
静まった手を伸ばし、海斗のスマートフォンを拝借する。
画面を下にスライドさせていくと、詳しい詳細とイベント日が掲載されていた。
「今週の土曜日……ってことは三日後だ。開始時刻は夜の八時から、か」
しっかりと頭の中にインプットする。
……うーん、楽しみだ。仮想世界での花火はどんな感じなんだろう? あれだけリアリティのある世界を作り出せるのだから、凄く期待ができる。
早く土曜日にならないかなー。