55.サハギン・キング
鍵を獲得し、門を開ける。
その作業を繰り返し、上に進んでいく。
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【スキル】
《ブーメランLv12》《投擲Lv12》《クライミングLv1》《料理Lv1》《調合Lv4》《筋力Lv4》《裁縫Lv14》
【バースト】
《ブーメラン》
Lv5:『ウィンドエッジ』
Lv10:『リフレクト』
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同じく部屋ごとに敵MOBがいて、倒しているうちにブーメランのスキルレベルが二つ上がっていた。
「あれ?」
そして現在、三個目の長い階段を上り終えた直後。
先ほどまでと同じ、扉だらけの部屋があると思っていたんだけど……違った。壁や天井がなく、開放感のある景色が広がっていた。
「屋上、みたいね」
「だね」
頷きながら周りに目を向ける。
床は変わらずヒビの入った石畳。気になる点といえば、中央に何かハンドルの取り付けられた台座が置かれていることだろうか。
「あり、財宝は?」
クリスの言う通り、それらしきもの見当たらない。
ただ、自然と目が中央に向く。
「ゼン」
「了解です」
今まで通り、俺が歩き出す。まだ旅初めの頃に作ったポーションを飲んでHPを回復させることを忘れない。
甘くほろ苦い味で舌を潤わせながら、ゆっくりゆっくりと前に進んでいく。
そしてまた、同じように頭上から『それ』は出現した。
特に驚きは――いや、うっ、とたじろいでしまう。
【サハギン・キング】【Lv.11】
姿形は今までのサハギン。
けど、横も縦も一回り巨大だった。爪も太く長く変わっていて、破壊力がありそうだ。
他に特徴としては頭に王冠を被っていて、煌びやかなマントを羽織っている。
「こいつが……」
「最後の砦、ね……」
俺の呟きが相変わらず遠くから続く。
……さて、俺のブーメランのスキルはサハギン・キングよりも上回っている。つまり中々のダメージを与えられるわけだ、本来の使い方なら。
ま、まぁ振るって使っても効果はあるし、攻撃パターンがサハギンと同じなら対応できる。
『ギシャッ!』
袈裟懸けに振るわれた右の爪を回避。
続けて振り上げられた左もまた横に動いて避け、間合いに踏み込む。間髪入れず、腹部にブーメランを叩き付ける。
良かった、攻撃動作はあまり変わらないみたいだ。
「クリス! サイコロは?」
「さっき使ったばかりだからまだ無理! 一回使うと次に発動するまでにかなりの時間がかかるの。もうちょっと耐えてー!」
「了解!」
答えながら追撃を回避し、カウンターを与える。
自分でも地味な戦法だと思うけど気にしてはいられない。
しばらくして、HPが半分まで削れた。……あの不規則な動きが来るか……!
『シャギギッ!』
奇声を上げながらバッステップ。
そして、
『――シャギァァァァァァァァァァッッ!!』
莫大な咆哮を、天に向かって放出した。
予想外の行動に思わず立ち止まっていると、床に黒い影が現れた。それはどんどん大きくなっていく。
ちらりと上を向いてみる。
『『シャシャァァッ!!』』
空から舞い降りてきたのは、サハギンだった。
数は二体、ズシンと音を立てて俺の左右に着地する。
そのまま間を空けずに、突進を開始してきた!
「うわあっ!」
右から迫り来る爪を横に飛んで回避し、今度は左の攻撃をしゃがんで躱す。
だから、真ん中からの突きに対応できなかった。
「う、ぐっ!?」
横腹に強い違和感。
理由は突っ込んできたサハギン・キングの爪が深く突き刺さっていたからだ。けど、それで攻撃は終わらない。敵は力強く腕を振るい、俺を吹き飛ばした。
ザシュッ! と、違和感が規模を増す。
地面を転がりながら視線を落とすと、横腹が赤いエフェクトで塗りつぶされていた。
HPゲージも半分近く削り取られたッ……!
『『『シャアアアアッ!!』』』
でも後悔する時間はない、追撃が来る。
――よし、今こそあのバーストを使う時だっ!
敵の攻撃を跳ね返す、聖なる盾を!
まずブーメランを振りかぶって、
『シャッ!』
左から爪が伸びてきた。
「ひぁっ!?」
振りかぶったままの体制で体をそらす。
目の前を通過していったサハギンを気にする暇もなく今度は体をくの字に曲げる。
後頭部に襲いかかる、ブゥン! と鋭い風圧。
ほっとひと息つく間もなく、肩口を抉られる。
相手はまたも、サハギン・キングだった。
ぐぅっ、これじゃバーストを発動できない! そればかりか一方的に攻められ続けて……やられちゃう!
「待たせたわねっ!」
そんな絶望を吹き飛ばす、希望。
だから俺は敵に背を向けて駆け出した。同時に俺の顔の横を通過する二つのサイコロ。
床を転がる音が聞こえてすぐに消えたけど、逃げることに必死でどの数字が出たか分からなかった。
そして、その時は来た。すべてを吹き飛ばす、
ポ、スン。
大爆発! が、まきおこ……ら、ない?
風圧が背中を襲うこともなかった。これはどういう
「ありゃま、ハズレね」
近くに立つクリスが顎に手を当て、言った。
「ハズレ?」
「うん、『ギャンブル☆インパクト』は数値でダメージと爆発量が決まるって言ったでしょ? 今回出たのは最低も最低。始まりの街付近の敵MOBにも大したダメージは与えられないわ」
へー、なるほど。
「ってことは?」
「そうね」
『『『シャァァァァァァァァァァァァッ!!』』』
「「わあああああああああああッ!!」」
俺たちは絶叫しながら逃げ出した。
けど、スピードは相手の方が上だった。
すぐに鋭い音が放たれ、背中を不快感が襲う。
「ぅあッ!」
「きゃああっ!」
クリスもまた切り裂かれたようで、二人同時に床に叩きつけられることになった。
急いで立ち上がろうとするけど、敵はそんな余裕を与えてくれるはずもない。
もう爪の先端が、目と鼻の先にあった。
――ドパンッ!!
衝撃に、視界が揺れる。
俺は仰向けに倒れ、再び地面を転がった。
「……あ、あれ?」
でも違和感はどこにもなかった。
HPゲージにも変化はない。
目の前にいたサハギンは、
『シャギィィッ!?』
俺のはるか前方に吹き飛ばされていた。
い、一体何が!?
「「うおらああああああああァァァッ!!」」
入り口付近から放たれた、荒々しい咆哮。
見れば、男女を含めた複数のプレイヤーの姿があった。……えっ、女の子も今叫んでたの?
「み、みんな……?」
隣のクリスが目を見開いて、そう呟いた。
段々とその瞳が緩み、ボロボロと涙がこぼれ出す。
「……みん、にゃぁぁ……」
「ぷっ、はは! ひっでぇ顔だなオイ!」
「戦闘苦手なくせに無理してんじゃないわよ〜」
言いながら敵に向かっていくクリスの仲間たち。
不思議なことに、表情に怒りは一切なかった。
「オラァ!」
『シャ、シャァ……』
クリスとは違い戦闘力は高いようで、仲間たちはサハギンたちを強引に追い詰めていく。
息の根を止めるまでに、時間はいらなかった。
残りは、サハギン・キング一体のみ。
『ギ、シャ……グガァァッッ!!』
それは仲間たちを倒された怒りか。
それともヤケになったのか。
鬼のような形相をこちらに向け、サハギン・キングは地を蹴った。……狙いは、俺とクリス。
こ、こっちにタゲがつけられているの!?
「わああっ、ゼン!」
「……大丈夫!」
さっきと違い、今は距離が空いている。
これなら……ブーメラン本来の力を出せる!
足に体重を乗せ、その場で力強く体を回転させる。その勢いを利用してブーメランを放り投げるッ!
――スキル《ブーメラン》Lv.5『バースト』
――『ウィンドエッジ』
『シャブェッ!?』
風を纏ったブーメランはサハギン・キングを飲み込み、後方に吹き飛ばしていく。
中央の台座にぶつかり、ハンドルに激突。
ギュルルル! と回転するハンドル。ズザザザ、と石の床の上を回転するサハギン・キング。
その姿が消滅するのと、地面が振動したのは同時だった。
「わわ、わっ、わわわわわわわわわわ」
「な、何っ!? なになになになに!?」
叫びながら俺とクリスはお互いに抱き着くしかなかった。
仲間たちもこちらに駆け寄ってきて、俺たちを覆うように、守るように覆ってくれた。
次第に振動は緩やかになり、やがて静止した。
「お、終わった……の?」
恐る恐る顔を上げるクリス。
俺も同じようにして周りを見渡してみたけど、特に変化はない。いやハンドルが止まってるくらいか。
「おい、見ろよ!」
仲間の一人が声を上げる。
彼が指差す方向には、ウォーデルの街があった。
そして、それは都市の中央に立つ建物。
NPCの少女が見つめ続けていたその場所から、膨大な量の水が吐き出されていた。
今まで下向きだった流れは真横に変わり、街の外に放出されている。
何がなんだか分からないけど、とりあえず俺たちは一旦ウォーデルに戻ることにした。
本日、20時頃にもう一話更新します!




