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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第三章】白ウサギと水の都
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52.財宝の地図

「ふへぇ……」


 どれくらい漕ぎ続けていただろうか。

 まだ街の中身を把握していない俺には、今ここがどこだかよくわからない。


 理解していることは、裏路地にある建物の一つの中に身を潜めているということだ。ゴンドラは乗り捨てる形になっちゃったけど……そういや漕ぎ手さんは大丈夫かな?


「ふぃ〜、なんとか一難は去ったわね」


 汗を拭う動作を見せる蜜柑色の髪の少女。


 薄いジャケットを地肌の上に着込んでおり、胸元にビキニ、下には黒いホットパンツと露出が多い。


「えーっと、そんで?」


 彼女はパチパチとさせた目で俺を見て、


「……君、誰だっけ?」

「こっちのセリフなんですけど……」


 今さらだけど何でこんなことになったんだろう。


「ま、何でもいいや。助けてくれてありがとね。あたしはクリスって言うの。君は?」

「ゼン、です。……あの、クリスさん」

「クリスでいいわ。敬語もナシナシ。歳近いでしょ?」

「うん、それじゃクリス。どうしてさっき追われてたの?」

「あー……ちょっとね」


 なはは、とクリスは苦笑いしながら空中をタップ。


 すると彼女の手元に一つ、紙切れが出現した。


 ひっくり返し、こちらに見せつけてくる。


 それは地図のようだった。水に覆われた街が中央に描かれており、近くに灯台があった。その場所には赤い丸が刻まれている。


「これ、『財宝の地図』っていうアイテムなの。これが原因で一悶着あってさ〜」


 うーん、イヤな予感。


「このアイテム、クエスト限定アイテムなのよ。あるNPCから受け取れるんだけど……『選択』ができるの」

「選択?」

「そ。純粋にクエストを進めるか、それとも無視してアイテムを売っちゃうか」

クリスは呆れたように肩をすくめて、

「この街限定なんだけど、この地図は中々高額で売れるんだ。クエストの報酬は謎だけど、あまり良い評判を聞かないの。売った方がかなり得らしいわ」


 それでね? とクリスは続けた。


「あたしは報酬が気になったんだけど……仲間たちはその逆でね。多数決で圧倒的に負けだったの」


 ふーむ、追ってきたのは仲間だったのか。


 ……ますますイヤな予感が。


「だからね、あたしは」


 キラリ、とクリスの瞳が光ったような気がした。


「――これを盗んで逃げたの」

「謝ろう」

「待って、あたしの話を聞いて」


 あまりにも真剣な表情だったので、それ以上何も言えなかった。


「どうしてもクエストを受けたい理由があったの」

「なるほど」


 うん、その言葉に間違いはないんだろうな。


 さて……と。


「……あれっ、どこ行くの?」

「へ? いや街の観光に戻ろうかと……」

「え、ちょっ、ちょっ? 待って?」


 どうしたんだろう、凄い慌てようだ。


 ……あ、そっか。俺の顔は仲間の人たちに知られているかもしれないもんね。見つかったらクリスの居場所を聞かれるに違いない。


「大丈夫だよ。クリスの居場所は言わないから」

「ち、違うの。一緒に来てくれないの?」

「!」


 い、イヤな予感の正体はこれか!

 これは絶対、厄介ごとに巻き込まれる……!


「……失礼します」


 逃げるように扉へ向かう。


 困っているなら手助けしたいけど、これはどう考えてもクリスが悪いし……頑張れ!


「待ってえ! 一人にしないでええええッ!!」


 足を掴まれた。


「うわあっ! やめっ、俺は旅がしたいんだああ!」

「イヤだああ! 心細いいいいッ!!」


 わ、わぁ、号泣だよこの人。


「ひょわっ!?」


 ……と思いきや急に手を離してくれた。


 そのせいで派手に転んだけど、出口に近づけた。


 早く逃げよう! さよならっ!



「――いいの?」



 反射的に俺の足は止まった。


 振り返ると、そこには下劣な笑みがあった。


「今あたしのフレンド……つまりさっきの仲間たちに一括であなたの特徴を書いて送ったわ。進んでクエストに協力してくれると付け加えてね」

「げ、外道ッ……!」

「フハハハハなんとでも言いなさあい! さあ、痛い目を見たくなかったらあたしとクエストを受けるのよ! 君に拒否権はないわ!」


 今日から犯罪者の仲間になりました。

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