52.財宝の地図
「ふへぇ……」
どれくらい漕ぎ続けていただろうか。
まだ街の中身を把握していない俺には、今ここがどこだかよくわからない。
理解していることは、裏路地にある建物の一つの中に身を潜めているということだ。ゴンドラは乗り捨てる形になっちゃったけど……そういや漕ぎ手さんは大丈夫かな?
「ふぃ〜、なんとか一難は去ったわね」
汗を拭う動作を見せる蜜柑色の髪の少女。
薄いジャケットを地肌の上に着込んでおり、胸元にビキニ、下には黒いホットパンツと露出が多い。
「えーっと、そんで?」
彼女はパチパチとさせた目で俺を見て、
「……君、誰だっけ?」
「こっちのセリフなんですけど……」
今さらだけど何でこんなことになったんだろう。
「ま、何でもいいや。助けてくれてありがとね。あたしはクリスって言うの。君は?」
「ゼン、です。……あの、クリスさん」
「クリスでいいわ。敬語もナシナシ。歳近いでしょ?」
「うん、それじゃクリス。どうしてさっき追われてたの?」
「あー……ちょっとね」
なはは、とクリスは苦笑いしながら空中をタップ。
すると彼女の手元に一つ、紙切れが出現した。
ひっくり返し、こちらに見せつけてくる。
それは地図のようだった。水に覆われた街が中央に描かれており、近くに灯台があった。その場所には赤い丸が刻まれている。
「これ、『財宝の地図』っていうアイテムなの。これが原因で一悶着あってさ〜」
うーん、イヤな予感。
「このアイテム、クエスト限定アイテムなのよ。あるNPCから受け取れるんだけど……『選択』ができるの」
「選択?」
「そ。純粋にクエストを進めるか、それとも無視してアイテムを売っちゃうか」
クリスは呆れたように肩をすくめて、
「この街限定なんだけど、この地図は中々高額で売れるんだ。クエストの報酬は謎だけど、あまり良い評判を聞かないの。売った方がかなり得らしいわ」
それでね? とクリスは続けた。
「あたしは報酬が気になったんだけど……仲間たちはその逆でね。多数決で圧倒的に負けだったの」
ふーむ、追ってきたのは仲間だったのか。
……ますますイヤな予感が。
「だからね、あたしは」
キラリ、とクリスの瞳が光ったような気がした。
「――これを盗んで逃げたの」
「謝ろう」
「待って、あたしの話を聞いて」
あまりにも真剣な表情だったので、それ以上何も言えなかった。
「どうしてもクエストを受けたい理由があったの」
「なるほど」
うん、その言葉に間違いはないんだろうな。
さて……と。
「……あれっ、どこ行くの?」
「へ? いや街の観光に戻ろうかと……」
「え、ちょっ、ちょっ? 待って?」
どうしたんだろう、凄い慌てようだ。
……あ、そっか。俺の顔は仲間の人たちに知られているかもしれないもんね。見つかったらクリスの居場所を聞かれるに違いない。
「大丈夫だよ。クリスの居場所は言わないから」
「ち、違うの。一緒に来てくれないの?」
「!」
い、イヤな予感の正体はこれか!
これは絶対、厄介ごとに巻き込まれる……!
「……失礼します」
逃げるように扉へ向かう。
困っているなら手助けしたいけど、これはどう考えてもクリスが悪いし……頑張れ!
「待ってえ! 一人にしないでええええッ!!」
足を掴まれた。
「うわあっ! やめっ、俺は旅がしたいんだああ!」
「イヤだああ! 心細いいいいッ!!」
わ、わぁ、号泣だよこの人。
「ひょわっ!?」
……と思いきや急に手を離してくれた。
そのせいで派手に転んだけど、出口に近づけた。
早く逃げよう! さよならっ!
「――いいの?」
反射的に俺の足は止まった。
振り返ると、そこには下劣な笑みがあった。
「今あたしのフレンド……つまりさっきの仲間たちに一括であなたの特徴を書いて送ったわ。進んでクエストに協力してくれると付け加えてね」
「げ、外道ッ……!」
「フハハハハなんとでも言いなさあい! さあ、痛い目を見たくなかったらあたしとクエストを受けるのよ! 君に拒否権はないわ!」
今日から犯罪者の仲間になりました。




