51.第三の都市
遅くなって申し訳ございません!
これより第三章開始です!
世間の学生は夏休み真っ只中。
その一人である俺ことゼンもまた、現実から離れてゲームの世界に飛び込んでいた。
昨日までイベントをやっていたことが嘘のように静かで、爽やかな波の音が耳に入り込んでくる。
砂浜に足を取られるため、ぴょんぴょん跳ねるようにして進んでいく。
まるでウサギのように、いやウサギか。
「おぉ……」
やがて俺は、水をかぶる乙女の彫刻が施された石の門の前までやって来た。
まだ見たことがないけど、その姿だけでこの先にある街の景色が何となく頭の中に映し出される。
「やあやあ暑い中ご苦労様です」
ぼーっと眺めていると、門の側に立っていた若い門番NPCがこちらに向かって敬礼を見せてきた。
真っ赤な軍服を着込んでおり、腰に剣を携えている。背が高く、屈強さが醸し出されていた。羨ましいなぁ。
「ご苦労様です」
ぺこりと頭を下げて、俺は門の下に足を踏み込む。
そして新たな景色を視界に収めた瞬間、門番NPCが最後にこう告げてきた。
「――ようこそ、水の都『ウォーデル』へ!」
爽やかな潮風に包まれる。
外壁と同じ石造りの建物が並んでおり、地面もまた頑丈な石で作られていた……けど、通路の規模はそれほど大きくなく、綺麗な水が街を支配していた。
そのためかところどころにゴンドラが設けられており、利用しているプレイヤーが多く見られた。
「綺麗な街だな〜」
ふと、街の印象がこぼれ出す。
でも自然と呟いてしまうくらいに美しい。天から降り注ぐ日差しが水面を輝かせ、宝石のような煌めきを放っている。また、建物や柱にはたくさんのライトが配置されているので、夜も美しい景色が広がっているんだろうなぁ。
ウキウキしながらバッグパックを背負い直し、歩き出す。……さて、まずは武具を新調しなきゃ。色々楽しみたいことはあるけど、今の状態じゃ今後の旅に支障が出るもんね。
それに今までお金がなくて手が出し辛かったけど、この前のイベントでかなりの報酬金をもらった。今回は贅沢に使わせてもらおう!
街の入り口にあった看板を確認し、早速武具店に向かう。どうやらゴンドラに乗る必要があるそうで、俺はその一つに乗り込んだ。
俺の他に利用するプレイヤーがいないことを理解した漕ぎ手のNPCは、ゆっくりと手元の櫂を動かす。
同じく、ゆっくりと動き出すゴンドラ。
これが不思議なもので、普通に街を眺めている時とはまた景色が別物に見えた。なんというか新鮮で、優雅な気持ちにさせてくれる。
「お?」
見れば、一台のゴンドラがこちらに向かってきていた。
それは俺の乗るゴンドラの横をゆっくりと通過しーーん? 二人の男性プレイヤーが仰向けに寝転がってるな。
「素晴らしい、絶好のパンツ覗きポイントだ」
「ああ、俺ここで死んでもいい」
「もう一往復するか?」
「笑わせるな、未来永劫と繰り返すぞ」
ゴンドラは去っていった。
「台無しだ……」
せっかく良い気分だったのに!
でも確かに、この場所は通路よりも下に位置する。寝転がって上を見れば、女性プレイヤーの下着を拝むことは簡単なのだろう。
そう考えていると、自然と顔が上を向いて、
「どっせーい!」
プレイヤーが一人、ゴンドラにダイブしてきた。
轟音。
水面が跳ね上がり、反動で空中に飛ばされて一回転した事実に気がついたのは、その謎のプレイヤーが回し蹴りで漕ぎ手を吹き飛ばした後だった。
「ええっ!?」
「狼狽えるのは後よ!」
そんな声と共に何かを放り投げられる。
……櫂だ。
「ほらぼーっとしてないの! 漕いで!」
「ど、どうし」
「いたぞ! あそこだッ!」
頭上からの声。
見ると、ちょうど配置されていた橋の上に数人のプレイヤーが立っていた。
なぜかみんな、表情を険しくさせているような?
……イヤな予感がする。
「うわああ漕いで! 死ぬ気で漕いでえっ!」
「は、はいっ!」
蜜柑色のショートカットに、どこか勝気そうな顔立ち。年齢は俺と同じかちょっと上くらい?
……と、そんなことを理解する余裕はなく、俺はただ必至にその謎の人物と一緒にゴンドラを進めていった。




