50.白ウサギと海と男たちの青春
わいわい、と。賑わう声が途切れない。
海の方向に顔を向けると、大きく肌を露出させた女性たちがはしゃぎ回る姿があった。
スタッフたちも参加して、スイカ割りやビーチバレーなど、海らしい遊びを続けていた。
うん、みんな楽しそうだなぁ。中には嬉しさのあまり泣き出してしまっている仲間の姿もある。
「いらっしゃいませ〜」
そんな中、俺は海の家の側で水着を売り出していた。
……メイド服の姿(夏服ver)で。
何でも、イベント当日に水着を持ってないプレイヤーのための措置が必要だと考えたらしい。
だから俺はこうして商場であるシートの上に乗って、多種多様な水着を販売している。
そして、楽しそうなみんなの姿を眺めていた。
「おーうゼン、どうだ売れ行きは?」
そうしていると、カイトが様子を見に来た。
下に水着、上は地肌にパーカーを着込んでいる。
「ぼちぼち。あれ、持ち場を離れてていいの?」
「おう、今は休憩時間だから他のやつに任せてるよ。ほれ」
すっ、と何かを目の前に差し出される。
それは、飲み物の入った紙コップだった。中身は紫色、グレープジュースだった。
「ありがと。……あ、そういやさ、おじさんどこ行ったか知らない?」
「おじさん? ……ああ、あのヒゲのおっさんか。さっき『まだまだ修行が足りねえ』とか呟いて、どっか行ったぞ」
うう。またお礼を言い忘れちゃった……。
いつか恩返ししたいな。
「……やって、良かったな……」
ぽつり、とカイトの口から小さな声が。
声のトーンとは裏腹に、そこからは大きな嬉しさが感じ取れた。
「そ、そんなに水着が見たかったの?」
「ん? んー……まあそれもあるんだけどさ。こうやって同じ目的を持ったやつらと行動して、協力し合って、喜び合って……何つーか、凄え楽しかった」
カイトの言葉に、俺は大きく頷いた。
「うん。色々あったけど、楽しかったよね」
「ああ、改めてVRMMOをやってて良かったと思うぜ。また、何か企画を考えようかな」
「その時はまた俺もスタッフになるの?」
「もちろんだ。だからもう少し鍛えておけよ? ユニークモンスター討伐イベントなんて企画を考えた時に、弱いままじゃさすがにアレだろ?」
「むむ失敬な。俺、さっきの戦い頑張ったのに」
「たまたま運良くバーストが出現しただけだろ?」
「ぬぐぐ……」
「そんな奇跡はそうそう起きなぶッ!?」
カイトの言葉が、止まった。
いや止められたんだ。……脳天に落とされた踵によって。
「――ゼンをイジメないでください」
それは、少女の声だった。
隣のカイトがハッと瞬時に理解した顔を作ったことから、そのプレイヤーの正体はすぐに分かった。
「何しやがんだ!」
カイトが怒りに満ち溢れた表情のまま振り返り、
「このや――」
直後、表情と体を硬直させた。
不思議に思い、俺も後ろを振り返る。
「わっ……!」
そこに立っていたのはやはり、ナギだった。
しかしなぜカイトが硬直し、俺が感嘆の声をこぼしたのかというと、彼女が水着を着ていたからだ。
ナギは先日、商場で購入してくれたフリル状の布で覆った黒のビキニを身につけていた。
普段身につけているドレス姿では分からなかった華奢で、だが出るところは出る美しいスタイルを大きく露出させていた。まるでアイドルみたいだ……!
「凄く似合ってるよナギ。せくしー!」
「ふふっ、ありがとう。なんだか照れちゃいますね」
ナギは、照れくさそうに微笑んだ。
そのまま、俺の横のカイトに目を向けて、
「ねえ」
それだけ尋ねると、カイトはやっと意識を取り戻した。
だがナギを直視せず、横を向いてしまう。
「……何だよ」
少し時間を置いて、ぶっきらぼうに言葉を返した。
その態度に、ぷくりとナギは頬を膨らませる。
「感想とか……ないんですか?」
「…………」
「そう、ですか……」
いつも平静を保っているナギだったが、今日は露骨に寂しそうな顔を作っていた。
彼女は横を向いたままのカイトから顔をそらすと、後ろを向いた。そして歩き出そうとする。
ま、マズい。このままじゃ帰っちゃう。
ナギはきっとカイトのために水着を選んで、カイトに喜んで欲しかったのに……!
ここは黙りこくる幼なじみに何か助言すべきか? それとも立ち去ろうとする幼なじみの幼なじみを止めるべきか――
ピタリ。
そんな俺の迷いを遮断させるかのように、ナギの足が止まった。
カイトが、その白く細い腕を掴んだことによって。
「……そう焦んなって」
ボソボソと、カイトの口から声が。
カイトはそこまで言うと、大きく深呼吸を繰り返した。
やがて冷静を取り戻したのか、普段の様子を取り戻し、口を再び動かし始める。
「俺が情けないやつってのは……お前が一番良く分かってるだろ? そう簡単に小っ恥ずかしいセリフを口に出せるわけねえだろうが」
「カイト……」
ナギが、振り返る。
カイトはいつもの豪快な笑顔じゃなく、優しい笑みを浮かべて、言った。
「……凄く可愛いよナギ。似合ってる」
「あ、ありがとう……」
お、中々良い雰囲気。
邪魔者は早々に撤退しておこう。
「お、おいゼン! どこ行くんだよー!」
「俺も休憩ー! お客さん来たらよろしくー!」
休憩時間が終わる頃に戻ってこよう。
とりあえず、みんなの様子を見に行こうかな。
俺は水着が眩しいビーチをチラチラ見つめながら、賑やかな砂浜を歩いていく。
……うう、それにしてもスカートのヒラヒラが気になる。休憩の間だけ着替えちゃおうかな?
「お、嬢ちゃんじゃねえか!」
そう考えていると、おじさんに似た野太い声が。
顔を上げれば、進む先にブルーシートが置かれていた。そして夏の日差しを反射する髪一つない頭部。
薄目で見ると、そこにはアニキさんがいた。
周りには舎弟さんたちの姿もある。
「そっちは休憩時間か?」
「はい。アニキさんたちはここで仕事を?」
「おうよ。イベントは男女問わず参加が認められてるからな。例えば、ナンパ目的とかで他人に迷惑をかけるような不埒なやつらをとっちめる役を引き受けた」
おお、それは適任だ。
アニキさんたちは図体が大きいし顔も怖いもんね。
「そういや嬢ちゃん、お前ぇ男だったんだよな?」
「はい」
こくりと頷く。
しかし、それを理解してくれたなら嬢ちゃん呼びは勘弁して欲しいなぁ……。
「よし、ならちょっとここで眺めてけ」
アニキさんに促され、俺はその隣に腰を下ろした。
でも眺めるって、何を――
「あははっ、ふふっ!」
「えーい! 水しぶきー!」
「きゃあ、冷たーい! やったわねー!」
俺たちの視線の先には水着姿の女性が楽しそうに遊んでいる姿があった。
うんうん、みんな楽しんでるなぁ。
「見ろよ嬢ちゃん、あの際どい水着! 下手したらこぼれ出しちまいそうだ。注目だぞ……っと、うお! あの子デケェな! 見てみろ、あんなに揺らして」
「あ、不埒だ」
「断じて違う。これはみんなの健康面を管理する仕事の一つだ。海には危険がつきものだからな」
絶対嘘だ。
言葉は真剣だけど、鼻の下が伸びてるもん。
「「わっせい! わっせい!」」
そんな気合いの入った声が聞こえてきたのは、アニキさんの下心に気づいた直後だった。
振り返ると、迷いの森の方角から荷車を引いた数人の男プレイヤーがこちらに駆けてきていた。
その人たちの顔つきはガラが悪そうで、なぜかその鋭い瞳から涙を流していた。
でも不思議なのが、その涙が悲しさや悔しさなんかじゃなく『歓喜』を表しているように見えたからだ。……凄く不気味な光景です。
「お、同胞じゃねえか」
アニキさんが手を振ると、その人たちはさらに歓喜の涙を流してスピードを増した。怖い怖い!
「「「アニキ!」」」
荷車を俺たちの手前で急ブレーキさせ、全員がアニキさんの前で頭を下げる。
そして涙を絶やさずに、こう言い放った。
「「「姉さんをお連れしやした!」」」
バッ、とシンクロした動きで荷台を示す舎弟さんたち。
俺とアニキさんは彼らに従って、その先を見た。
「「――ッ!」」
瞬間、思わず言葉を失う。
なぜなら荷台の上には、美しい女神がいたからだ。
……いや違う! あれは……人間……僅かに人間だ!
特徴的なポニーテールを白い帽子で覆い隠し、肌を大きく露出させ、その美貌をさらけ出していることから一瞬見間違えてしまった。
紐を首回りで交差させるタイプのビキニは、その内側からの反発によって悲鳴を上げている。下に巻きつけたスカートから片方だけ露わにさせた太ももが妖艶さを醸し出していた。
そして女神と勘違いした理由はなんといっても、その人物が神々しく光り輝いていたからだ。
……いや違う! あれは……日差し……反射だ! その人物の美しすぎる肌が、日差しの質を変えて反射しているんだ!
「こんにちは、ウサギさん」
最も女神に近い人間が、口を開く。
そこでようやく俺は、その人物がハナビさんだということに気づいた。
「こに、こんに……こんにち……」
「ふふっ、どうしたの? 慌てちゃって」
いや、慌てるしかないです。
こんな美貌を目の当たりにして、平然となんてしていられない。きっと隣のアニキさんも、
「…………」
あれ意外だ。真っ直ぐな瞳でハナビさんを直視している。
もしかして、さっきまで水着姿の女性を見ていたから耐性がついたのかな?
「た、大変だ! アニキ立ったまま気絶してるぞ!」
「眩しすぎたんだ! 嬉しすぎたんだ!」
「アニキイイイイイイッ!」
なるほど、そういうことなのか。
とりあえず、拝んでおこう。
「だ、大丈夫ですか?」
荷台から心配そうに、ハナビさんが腕を伸ばす。
手のひらが、優しくアニキさんの頬に当てられて、
【ご都合により強制ログアウトしました】
アニキさんは浄化された。
「「「アニキイイイイイイイイイイイッ!!」」」
もう一度、拝んでおこうかな。
▽
意識を取り戻したアニキさんがハナビさんを直視して再び浄化されたのを見届けた後、俺は散歩を再開した。
ビーチは結構広いもので、しばらく歩き続けても端まで辿り着かなかった。
賑やかな声は、今では静かなザワつきに変わり、後ろの方から聞こえてくる。振り返れば、みんなの姿が小さくなっていることだろう。
立ち止まり、進行方向に目を向ける。
遥か先まで続く砂浜の奥には、石の壁が聳え立っていた。それは海まで届き、中にある物を守るように覆い隠している。
ここからじゃどんなところなのか見えないけど、あれが次の都市だということだけは分かる。
んー、楽しみだ。どんな風景が広がっていて、その先のフィールドはどうなっているんだろうか。
考えるだけでもワクワクするなー!
「――ゼン君」
静かな、不思議とゾッとする声。
聞こえてきた方向である海を見ると、浅瀬にその人物は立っていた。
「ゲイ……」
ゲイタ、そう呼ぼうとした口が止まる。
……誰だってそうなると信じたい。知り合いが人目のないところで、一人で海藻を口の周りに付着させている姿なんて見たら。……んー、なんか無精髭を連想させるような……。
何をしてるの? とは、言えなかった。
「似合っている、かな……」
もじもじと照れくさそうな表情を見せるゲイタ。
何も、言えなかった。
「ふふ、言葉にできないほど見惚れているんだね」
違うんだ、驚愕で言葉が出ないんだ。
でも、そんな感想を言うこともできなかった。
「ところでゼン君、少し話があるんだ」
ここで、キリッと真剣な顔を作るゲイタ。
その見た目で真顔はやめて欲しい。
しかし何だろう改まって。……あ、もしかしてこの間、間違って送ってきたメールの件かな?
つまり、恋愛についての件だったりして。
「――君は今、好きな人とかいるのかい?」
おお、ビンゴだった。
……え、待って、俺の? 何で?
「ずっと気になっていたんだ。中学の頃から」
「中学? 中学って……」
「――おいコラ、ゼン」
唐突に名前を呼ばれ、反射的に振り返る。
そこには商場にいたはずのカイトとナギがいた。
「いきなり逃げ出しやがってお前は……」
「気を遣ってくれてありがとう。でも、普段通りで良いんですよ? この人、あの空気に耐えられなかったみたいなんです。少しでもメンタルを保つために、君を探しにきたわけでして」
「う、うるせーな……!」
「やっと声が出てきた。さっきまでずっと黙りだったのに……ゼン君の存在は大きいですね。……あら?」
呆れた様子から一変して、目を見開くナギ。
その視線の先には、浅瀬に立つゲイタが。
「……でも……いや、もしかして……」
深く悩む素振りを見せるナギ。
少し時間を置いてから、彼女は口を開いた。
「人違いだったらごめんなさい……『早乙女圭太』君ですか?」
早乙女圭太?
それが現実でのゲイタの名前……ん?
何だ、どこかで聞いたことがあるような……?
――あなたが好きです!
唐突に、古い記憶が蘇る。
そう、あれは中学時代のこと……。
――ごめん、俺……男なんだ。
俺は、ある男子生徒から告白されたことがあった。そして断ったことがあった。
確か別のクラスの人で、俺の性別を知らなかったんだっけ。あの時は本当に可哀想な思いをさせてしまったと思う。
でもその人は、メガネをかけていたような。
……そういえば癖で、ゲイタがメガネを持ち上げるような動きを見せたことがあったな。まさか……。
「その通りだ。君は椎名雛菊さんだね」
「わ、お久しぶりです。小学校ぶりですね」
「なんだ知り合いか?」
「ええ。小学校の頃、同じクラスで……ってあれ? 確か早乙女君が向かった中学校って……」
「うん、彼らと同じなんだ」
ゲイタはそう答えると、俺とカイトを見た。
「えっ、マジで? 知ってたかゼン? ……って、うおっ!? お、お前、何つー顔してんだ!?」
マズい、マズいマズい……どんどん合致していく。
彼が……『あの彼』かもしれないという事実に。
「……あっ、そう言えば!」
ここで、カイトまでもが何かを思い出したようだ。
こ、これ以上はいけない。これ以上は……!
「苗字は知らないけど、圭太、ってやつがいることは知ってたぞ! 確か……アダ名があったよな。誰かに告ったことが原因で……ッ!?」
カイトが勢いよく俺を見る。
俺は、サッと素早く目をそらした。
けれど、カイトの記憶は活動を止めなかった。
「もしかして、ゼンが告白された相手って……」
「僕だ」
あっさりと、すべてのピースが整ってしまった。
……そうなると、今までくっついてきたり息を荒げていたりしていたのは……。
「早乙女君がゼンに? え、え? だって二人は男同士じゃ……あれ、やっぱり女の子だったの?」
ナギが混乱する気持ちは分かる。
けど、俺が男である事実には疑問を持たないで。
「そうか……ゲイタ! ゲイタだよ! 他のクラスから伝わってきたアダ名! すっかり忘れてたけど……ってことは、マジで?」
「大マジだよ」
くいっ、とメガネを持ち上げるような仕草を見せながら答えるゲイタ。
だが表情に、憎しみや悲しみなんてなかった。むしろ心の底から喜んでいるような満面の笑みだった。
「良いアダ名をくれたものだ。今ではこうしてプレイヤーネームに採用するほど気に入っているよ。お陰で偽りない本当の自分をさらけ出すことになんの抵抗を覚えることがない。感謝してもしきれないよ」
「「「…………」」」
俺たちは、顔を青くさせることしかできなかった。
「君とはもう一度話をしたかったが、生徒たちの目があるからね。僕だけじゃなく君も悪い噂が立たれると困るから、会いにいけなかった。……だが中学三年の頃、VRMMOが発売されることが話題になっただろう? その時、君たちも購入するということを盗みぎ……失礼、風の噂で耳にしてね。僕も購入をしたのさ」
再び鼻の上に手を当てながら、言葉を続けてくる。
「だがログインしたものの、君がどこにいるのか分からなかった。何か策はないかと情報を求めていると、偶然にもカイト君のブログを見つけてね。ゼン君のコメントを見つけたんだ」
「ま、待て。見つけたなんて言うけどよ、コメント数は百を軽く超えていたはずだぞ? それにユーザーの名前が書かれたものなんて一つもなかった。どうやってゼンのコメントだと理解したんだ?」
カイトの戸惑いに、ゲイタは無精髭の下で笑みを作った。
「内容さ。あんな欲望に満ち溢れたコメント欄の中で、過剰な反応ではないものを見つけたんだよ」
「けど、それだけで……」
「僕が中学の時、どれだけ彼のことを観察して学んだと思っているんだ。言動だけで本人だと理解するのは簡単さ」
ゲイタが、俺を見る。
「実際に顔を合わせた時、一瞬で君だと分かったよ。ただ、僕は現実の君の方が好きかな」
「そ、そう……」
「ところで話の続きなんだけど、やっぱり僕は」
「――ごめんなさい」
「なぜだッ!? 無精髭までつけたのにいいッ!!」
その無精髭に対する絶対的な信頼は何なの?
……でも、そこまで強く俺のことを想ってくれているなんて、嬉しいと思うところもある。
けど、ゲイタを恋愛対象として見ることはできない。俺は男なんだ。
「こうなったら仕方ない……」
首を横に振るうゲイタ。
これからは親友として良い関係を築いていけたら、
「――力づくで君を物とする!」
「良かったのにいいいッ!」
瞳を怪しく光らせて地を蹴ったゲイタと同時に、俺は振り返って逃げ出した。
だがスキルレベルはゲイタの方が高いらしく、徐々に俺との差を詰めてくる。だ、誰か助けてえ!
「ゼン!」
カイトの声だ。
そう気づいた瞬間、力強く持ち上げられた。
た、助かる。カイトは俺よりも素早い動きができるし、筋力のスキルも高いはず。抱えられた方がゲイタから距離を取ることができるに違いない!
……ただ、形がお姫様抱っこなのが少し気になる。無意識にこうなってしまったんだろうけど。
「お姫様抱っこだとォ!? ぼ、僕を差し置いて!」
後ろから悔しそうな声。
「ハッ、まさか! 君もゼン君を狙って……!?」
「ち、違うわ! その妄想だけはやめろ!」
「なるほど、だからわたしの水着への反応が遅れて……」
「なるほどじゃねえよバカ野郎! お前は否定しろよナギ!」
「否定できません! こんな可愛い子と一緒にいたら、その気になる危険性があるもの!」
「なッ! お、お前まさかゼンのことが……」
「わ、わたしは別にそういうのじゃありません!」
「慌ててるところがますます怪しいぜ!」
「そう言う君だって!」
……な、何だか大変なことになってきた気がする。
ハラハラしながらしがみついていると、イベント会場まで戻ってきた。さすがカイト、速いな……って、こっちはマズい!
「どうしたのかしら、あんなに慌てて……」
「! み、見て! 彼らの後ろからモンスターが! 何アレ半魚人!? 海藻の化け物がいるわ!」
「こ、こっちに来るわよ!」
一気に騒がしさが増すイベント会場。
もー! どうしてこんなことになったんだ!?
せっかくのイベントが台無しに――
「――腕がなるわね」
なると思いきや、参加者である水着姿の女性たちが手元に武器を出現させていく。
それは剣だったり、槍だったり、棍棒だったり。
不思議と野蛮なものが多い気が……。
「せっかくこれだけ人が集まっているんだもの。やっぱりレイドバトルがやりたくなるわよね」
「ふふ、実はそろそろ暴れたいと思っていたの」
「ここに来たことを後悔させてやるわ!」
凄い、見事に戦闘狂だらけだった。
これ彼女たちにも、サブダンジョンとかユニークモンスターを手伝ってもらえば良かったんじゃ……。
いや、そんなことよりも誤解を解かなきゃ!
「ま、待って! 彼はモンスターじゃないんです!」
「みんなやっちまえ! やつは敵だ!」
「捻れた性癖を持った怪物です!」
「二人とも! 人の心を持って!」
「「「今助けに行く!」」」
「みんなも待って! 落ち着いて! ちょっと――」
そしてまた、騒ぎがビーチを包み込む。
どうやら俺たちに、平穏という時間は訪れてはくれないらしい。本当に騒がしい毎日だった。
……でも、お陰で忘れることはないだろう。
色々あった、この夏の思い
「――ゼン君! 僕を受け入れてくれっ!」
「うわあ無理ですごめんなさいッ!」
……本当に、忘れることはできないだろうな。
これにて、二章終了となります。
更新期間を開けてしまい、大変申し訳ございませんでした!
そして、改めて申し訳ないのですが……またお時間をいただきたいと思います。
長々と失礼致しました!




