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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
 【第二章】白ウサギと海と男たちの青春
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49.ラストバトル②

 次に俺たちの鼓膜を揺るがしたのは、


 ドバンッ!!


 と、爆音と共に舞い上がる砂浜だった。


 やがて砂埃が晴れた先にあったのは、敵の巨体だった。


 見上げなければ頂上が見えないほどに巨大な怪物は、普通だったら腰を抜かしてしまうくらいに驚愕するだろうけど、今は不思議と平気だった。


 弱って、見えたのだ。


 やっぱり陸だからか、今までの威圧が感じ取れない。微弱な俺でも『勝てそう』と思えるくらいに。


「こうなれば情けねえもんだなぁ」


 隣に立つカイトも、同じ意見を持っていた。


「カイト、時間がねえ。早く指示出せ」


 アニキの言葉に、カイトは大きく頷いた。

 そして周囲のスタッフたちを見渡し、こう告げた。


「これで終わりにするぞ! 野郎ども!」

「「おうッ!」」


 咆哮で応え、武器を手に取るスタッフたち。


「「…………」」


 加えて対照的に二名、別の反応を見せる仲間たちがいた。


 お互いに難しそうな顔を作るのは、おじさんとゲイタだった。


「どうしたの? 二人とも」


 気になったのでそう尋ねてみると、すぐに返答はなかった。


 二人は少しの間何かを考え込んだ後、変わらず額に眉を寄せたまま、口を開いた。


「いや……ユニークモンスターってのはこんなモンなのかと思ってな。さすがに歯応えがなさ過ぎる」

「憎たらしいですが、同感ですね。海の中にいる間は攻撃し辛いし、回復効果まで持っているとなれば、僕たちのように海の中から追い出そうと考えるプレイヤーは多く存在すると思います。開発側がそれを見越しているとは――」


「「――うわああああああッ!?」」


 ゲイタの言葉を、絶叫が遮る。

 反射的に顔を向けると、そこには、



『ルギッ! ギイイッ、シャアア――ッ!!』



 奇声を放ちながら上空に舞う、敵の姿が。


 どうやっても身動きの取れなさそうな重量感のある巨体は一直線に上がっていくと、やがて動きを止めた。


 そして頭を地面に向け、


『グルギィッ!!』


 急降下を始めた。


「ぜ、全員! 下が」


 カイトが指示を伝え終える前に、再び爆発したかのように舞い上がる砂の大地。


 衝撃によって空高い吹き飛ばされる仲間たちの姿がたくさん目に入る。す、凄まじい威力だ……!


「うわあっ!」


 俺もまた、風圧によって背中から倒れそうになる。


「危ないゼン君! 僕の胸に」


 その背後に、両手を広げたゲイタが立ち塞がり、


「おっと、気をつけろ」


 彼の胸に抱き止められる前に、おじさんの大きな手が俺の衣服の襟元を掴んだ。

 そのまま猫のように持ち上げられ、元の位置に戻してくれる。


「ありがと、おじさん」

「ギギ……ギ、ギィ……!」

「さっきも言ったろ? 礼は後にしやがれ」


 おじさんはそう言うと、俺の頭に優しく手を置いた。


「ギギギギ!」

「あ、ゲイタもありがと!」

「ギとんでもない!」


 パァッ、と明るい笑顔を見せるゲイタ。


 あれ、歯軋りも消えたな。それにしても酷い音だった……まるで憎しみを表現するかのように。


「――さて、面白くなってきたじゃねえの」


 そんなことを気にしていると、おじさんが大剣を肩に担ぎながら前に歩き出した。


 やっぱり真正面から戦うつもりなんだ……!


 何だかウズウズしてきた!


「おじさん、俺も協力します!」

「ふん、好きにしろ」


 俺は腰からブーメランを引き抜くと、おじさんの背中を追った。


「中年なのかい!? やっぱり無精髭なのかい!?」


 すると、後方から嘆くような声が。


 お、俺に聞いているのかな? ……うーん、でもよく質問の意味が分からない。


 とりあえず頷いておこう。そうしよう。


「オオォン!」


 ゲイタは、泣き叫びながら地面に崩れ落ちた。


 ……あ、あれ? ひょっとして俺のせい?


「気にするな、戦いに犠牲はつきものだ」


 おじさんは特に気にせずそう言い、足を進める。


 俺は少し迷った後、その背中を追った。……ごめんゲイタ、必ず後で謝るから……!


「――そういや、敵に近づいて良いんですか?」


 ゲイタの犠牲を思考から今だけ捨て、俺は尋ねる。


「そりゃ近づかなきゃ攻撃ができんからな」

「でも、空から突進して来ますよ?」

「剣で防げば良い」

「な、なるほど。……じゃ、攻撃手段は?」

「防いだ後に斬る」


 お、おじさんだからこそ言える戦法だなぁ……。


 けど効果的なのは間違いない。おじさんは敵の攻撃を防ぐ力があるし、スピードにも対応している。


 ……これ、俺の出番あるのかな?


「見えてきたぞ」


 おじさんが指差す先、砂埃がようやく薄れてきたその場所に『一回り小さな』影があった。


 俺の背丈より少し大きなそれは、背ビレ、だった。


 他の部位はすべて地面の中に埋まってしまっている。さっき空高くからダイブしたから埋まっちゃったのかな?


「わぷ」


 そう考えていると、おじさんの背中にぶつかった。

 い、いつの間にか足を止めていたのか。


「妙、だな……」


 おじさんから、珍しく難しそうな声が。


 妙? 妙なことって……



 ザザザザザザッ!!



 大量の砂が抉れる豪快な音が聞こえた瞬間、俺はおじさんに担がれていた。


 どうやら横に跳んだようで、強い熱風が頬を叩く。


「な、何が……」

「見てみろ」


 おじさんが顎で場所を示す。そこは今まで俺たちが立ち止まっていた位置だった。


 遥か後方まで、一直線に巨大な溝ができあがっている。


 その道の先を追いかけるように振り返ると、



 ザザザザザザッ!!



 新たな道を開発する背ビレが、こちらに向かって突撃を開始していた。


 再び、おじさんに担がれて回避に成功する。


 ……何だか凄く申し訳ない。


 それにしても、砂浜の中も変わらず泳げるなんて、理不尽過ぎる……。

 俺たちの努力は一体何だったんだ……!


「嬢ちゃん、見ろ」


 そんなことを気に留めてなさそうな広い心を持つおじさんは、遠去かっていく背ビレを指差した。


 指示された通り、ジッと見つめてみる。


 すると、激しい速度で突き進むその上部にHPゲージが出現した。先ほどまで海の中にいたため、体力が全快に近い――


「……減って、る?」


 そう、ダメージを負っていたのだ。

 回復が追いつかなかった……というわけじゃない。


 それはなぜか?


 ――今、減少を続けているからだ。


「もしかして、海の中は回復するけど」

「ああ。砂地の中だと減少するんだろうな」


おじさんが続きを代弁してくれる。


……つまり、だ。


このまま敵の攻撃に耐え続けていれば、自然に敵の体力はゼロになる。勝てる!


「……でも、おじさんはそれを望まないよね」


 そう呟きがこぼれたのは、おじさんが地を蹴り、背ビレを追いかけていたからだ。


 大剣の重さがあるからか距離は縮まらないけど、プレイヤー離れした足の速さを見せつけてくれる。


 ……本当に不思議だ。何時間くらいゲームの中で鍛え続けているんだろう?


「うおおッ!」


 ここでUターンを始めた敵の背ビレに向かって、おじさんが大きく間合いを詰めた。気合いの入った声を発しながら、大剣を振り下ろす。


ドボォ! と、巨大な砂埃が舞い上がった。


 砂地から天高く飛び上がった、敵によって。


 ……あ、あれは明らかに狙いすました攻撃だ! 海の中だと咆哮を使っていたけど、砂地の場合は飛び上がりを使うのか!


 でも、おじさんも危険を察してか、事前にバックステップを取り、攻撃を回避していた。……ただ風圧には耐えられなかったようで、体制を大きく崩していた。


 ま、マズい! ダイブ攻撃が来る!


「ふっ……!」


 俺はブーメランを振りかぶると、その場で力強く体を横に回転させる。その勢いを利用して、思い切り腕を振るった。


 指先から離れた瞬間、ゴウッ! と空気を抉るような音が放たれる。



 ――スキル《ブーメラン》Lv.5『バースト』

 ――『ウィンドエッジ』



今、効果を始めようと巨体を回転させる敵を目掛けて、くの字型の武器は透明な光を放出させた。


それは突き進んでいくにつれて規模を大きく変化させていく。まるで、巨大な敵に対抗するように。


ゴウッ!!


 音もまた迫力を増した。まるで、先ほどまで放っていた咆哮の威力をかき消すように、自分の破壊力を証明するかのように!


 そしてブーメランは突撃する。


 敵を吹き飛ばす――いや、皮膚を貫き巨体を粉砕させるために、己の体を激突させる!













 ぶよんっ。


 あ、弾かれた。


 そして変わらず落下する敵の巨体。

 おじさんの姿が砂埃で消えちゃった……。


「ゼン! お前マジで何しに来たんだよ!」

「非力どころのレベルじゃねえぞ!?」

「ちくしょー! ごめんなさい!」


 くるくると楽観的な様子で返ってくるブーメランを手に取りながら、俺は詰め寄ってきたカイトとアニキさんに頭を下げるしかなかった。というか無事だったんだ、良かった。


 そういやまだブーメランのスキルレベルは一桁だったっけ……HPを見ると微塵も削れてないし。


 バーストを使ってこれは……ちょっと傷つくなぁ。



 ザザザザザザッ!!



 でも、項垂れている場合じゃない。背ビレがまた俺たちを狙ってきている。


 けど反応してからじゃ遅い。俺たちのレベルじゃもう、そこから回避行動に移ることができない。


『ルル、ギァアア、アアィッ!?』


 ……はずなんだけど。


 敵は急に動きを止めると、その場で叫びを上げながら大きく仰け反った。そのままジタバタと暴れ始める。


 地響きが大地を揺らし、景色を砂埃が埋め尽くす。


 その中で巨大な影が見える。あれは敵のものだろう。そしてもう一つ、横に伸びる細長い影。


「うおらああああああああッ!!」


 あ、なんか嫌な予感。


 砂埃が晴れる。


 ……視界の先には、敵の横腹に剣を突き刺すおじさんの姿があった。


 元々の陸でのダメージに追加して、HPゲージがゴリゴリと削れていく。おじさんのスキルレベルの高さからか、嘘だろと言いたくなるくらい減少が激しい。


 そ、それにしても……やることが無茶苦茶だ。


「自然消滅なんてさせてやらん……! 男の美学に反する行為だ……! 男として、貴様を、責任を持って、この手で葬ってやる……!」


 男って大変なんだな。俺も男だけど。


 まあ何がともあれ、このままならあと少しで敵のHPがゼロになりそうだ。……なんか色々と荒々しい戦い方だったけど、とりあえず勝てて良かった。


 そのままHPのゲージはイエローに入り、レッドゾーンに辿り着く。そして、


 ボフンッ! と、砂の中に敵は潜り込んだ。


 大剣を突き刺していたおじさんは、頭から地面に叩きつけられた。


 首まで砂に埋まり、垂直の状態で静止する。


「おじさああああああんッ!!」


 俺の絶叫は、砂地のせいで届かないだろう。


「あ、ンの野郎!」


 直後、急いでカイトが駆け出し、


「ちくしょう! ここまで来て!」


 アニキさんが悔しそうな顔でその背中を追う。


 どちらも向かう先は、海だった。


 一体何が……と、俺は視線で二人の先を追って、


「――ッ!」


 猛ダッシュで、二つの背中を追った。


 見てしまったからだ。カイトとアニキさんの先、敵の背ビレが海に向かっていくのを。


 せっかくおじさんが作ってくれた大チャンスなのに……すべて台無しになる!


 けど、そんな思いを打ち砕くかのように敵の動きは速かった。追い……つかない!



 ――待てよ、ブーメランなら当たるんじゃ?



 そう考えが浮かんだけど、先ほどのバーストのダメージを思い出す。


 レッドゾーンに入っているものの、まだ量はある。俺の攻撃じゃ削り切れない……!


「ん?」


 そこで俺は、視界右下に違和感を感じた。

 見れば、ログが更新されている。



 ――『バースト』を取得しました。



「ッ!」


 確認するや否や、俺はウィンドウを表示させた。

 急いで、ステータスを開く。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【スキル】

《ブーメランLv10》《投擲Lv10》《クライミングLv1》《料理Lv1》《調合Lv4》《筋力Lv4》《裁縫Lv14》

【バースト】

《ブーメラン》

Lv5:『ウィンドエッジ』

Lv10:『リフレクト』

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 いつの間にかレベルが上がっていたらしく、新たなバーストが追加されていた。


 り、リフ? 何だろう、見覚えのある文字だ? 何かの英語だったっけ……いや、思い返す時間はない!


 発動条件を確認して、すぐ行動に移す。


 ええと、まずブーメランを振りかぶって、もう片方の手を放り投げる向きにかざす。これで完了だ。


「ふっ――」


 力いっぱいに、


「んッ!」


 放り投げる!


 ――ヒュルルル〜……。


 あ、あれ? 『ウィンドエッジ』のように何か変化があると思ったんだけど、特に何もない。


 普通のブーメランのまま飛んでいくブーメラン。それは敵の背ビレに追いつき、


 そのまま、追い越した。


「外したああああッ!」


 絶望するしかなかった。


 どうしてこう、大事な時に限って……! もー!


「!」


 頭を抱えようとした行動が、ピタリと止まる。


 理由は、敵を追い越したはずのブーメラン。その変化を目の当たりにしたからだ。


 敵の進行方向、海が深くなる手前の浅瀬。


 その場所で、静止していたのだ。体躯の周囲に輝かしい真っ白な光を放ちながら。

 それは円形をしていて中々に巨大だった。また、不思議と神聖さを感じるような――


 と、感想を考えているうちに、敵の背ビレが規模を増したブーメランに激突した。


 バチバチ! と、何か痺れるような音が放たれる。


 そして、ぐるん、と。

 なんたる奇跡か、敵がUターンを開始したのだ。


「……リフ、リフレクト……そうか、反射だ!」


 そう、確か『反射』という意味だった気がする。


 詳しく内容を確認してないから推測だけど、恐らく敵の攻撃を跳ね返す効果なのかな?


 そして偶然は、重なった。


 敵の進行方向には、先ほどまで追いかけていたカイトとアニキさんが立っていたのだ。


 二人は左右に分かれると、お互いに武器を構える。足腰に力を入れ、猛スピードに突進してくる三角形の物体を目掛けて――



「「――うお、おらあああァァッ!!」」



 一撃を、ぶちかました。


 おじさんには劣るものの、十分に高いスキルレベルを持つ二人の攻撃は、僅かに残った敵のHPゲージを強引に削り取った。


 砂の中に潜り込んでいたため、断末魔を迸らせたかどうか分からなかった。ただ静かに……、


 ユニークモンスター、バハムート・シャークは、俺たちの目の前から消滅した。



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