【番外編】白ウサギとかまくら①
更新が遅れてしまい申し訳ございません!
※今回のお話は本編とは別です。
本編はまだ少し時間がかかります……すみません!
――これは、とある冬の日のお話。
ざくざく。
白い地面に足を埋めながら、不思議と心地良い音を立てて俺は進んでいく。
よく訪れるこの場所……ビルディックは建物や木々に煌びやかな飾り付けが施され、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「もうクリスマスになるんだなぁ……」
呟くと同時に、白い息が吐き出される。
露出した肌には寒い風が当たるけど、運営から支給された毛糸のコートとマフラー、それに耳当てを身に付けているため、それほど苦しくない。暖房効果でもあるのかな?
……うーん、それにしてもカップルが多いな。一人でいるプレイヤーなんて俺ぐらいだ。
カイトとナギは出かける予定があるらしくて、ハナビさんも病院で行われるクリスマス会の手伝いをしなきゃならないそうで、アニキさんたちは地元のワルたちと宴があるとかなんとか。
あ、あれっ? 暇なの俺だけ?
それに、ぼっちなのも俺だけだ……。
「寂しいなぁ」
旅を続けようかな、と考えたけど……何だか今日はそんな気分になれないでいた。
何かこう、ビビっ、とくるものがないかな。
「おーい。そこの嬢ちゃーん」
思わず、声の方向を見てしまう。
……だってみんな俺を嬢ちゃんって呼ぶんだもん!
そして案の定、俺にかけられた声だった。
「悪いな急に声かけて、怖くないか?」
声をかけてきたのは、若い男性だった。
その手には一本のスコップが握られている。
「いえ! 全然大丈夫ですよ」
「それは良かった。……んで、実はコレなんだが」
「スコップ……ですね」
「ああ、今ちょっとアイテムポーチがいっぱいになっちまってさ。処分に困ってたんだよ。良かったら貰ってやってくれないか? タダでいいからさ」
【初心者用のスコップ】ランク:F
効果
ATK+1
①雪、土を掘ることができる。
②雪、土を固めることができる。
スコップ、か。……おお武器にもなるのか。
あまり旅に使い道はなさそうだけど、無償で譲ってもらえるなら――
――固める?
効果を眺めていると、ある一点で視線が止まった。
雪を固めるってことは……アレができるんじゃ!
雪国育ちじゃない人間なら一度は作ってみたいと願う……『かまくら』ってやつを!
「どうかな? やっぱりお古は嫌か?」
「喜んで! むしろ大好物です!」
「お、おう……変わってるな。嬢ちゃん」
そんなこんなで、譲ってもらえた。
さぁ作るぞー!
▽
雪に埋もれた一望の丘には今、敵MOBが出現しない。
何でも『雪で遊びたいからモンスターを消してほしい』とプレイヤーたちから要望が来たらしいのだ。
それを望む声が多かったため、そう設定されたわけで。今ではキャッキャとはしゃぎ声がフィールド内に絶え間なく放たれ続けている。
俺はその人たちの邪魔にならないよう、人の少ないフィールド奥にやって来た。
「……よし!」
早速、行動に移ろう。
まずは、スコップで辺りの雪をかき集める。特にスキルは必要としないようで、現実のように疲れることなく楽々と作業を進めることができた。
……でも、細かい作り方がわからない。
とりあえず、それっぽく作ってみようか。
まずは集めた雪を山のように形を整えていく。
ズボッ。
手が埋まった。
こ、これじゃ固められない……。そういえば雪玉を固くするのに水を使った覚えがあったような。
……でも、水なんて持ってない。相応のスキルも取得してないし……。
――いや、待てよ?
確かスコップの効果に固めると書いてあったよね。
もしかして……これを使えば?
そう考えた俺は、ぺちぺちとスコップで雪を叩いてみる。……すると減り込まず、固めることができた。
「やった!」
ウキウキとしながら、ぺちぺちを続けていく。
少し時間はかかったけど、俺の背よりも少し高い硬質な山が出来上がった。
「よし、次は……入り口かな?」
スコップを槍のように持ち替え、鋭利な先端を山に向ける。
そして、勢いよく突き出した。
「てやー!」
ザクッ! と、良い音を立てて突き刺さるスコップ。
よしよし。これで後は掘っていけば、
――ド、ボボボボボッッ!!
山が崩壊した。
「ええっ!?」
それはもう、一瞬の出来事だった。
突き刺したスコップに体重を乗せて、穴を開けるように引き抜いたと同時に、すべてが崩れた。
……そして俺もまた、膝から崩れ落ちる。
「くぅ、もう一回!」
もう一度雪を集め固め、元の状態に戻す。
だが、今度は安易にスコップを刺せなかった。
「このままじゃ崩れちゃうんだよなぁ……」
入り口が作れないんじゃ何も始まらない。
何か良い手はないかな……。
「お困りのようだな。導かれし子兎よ」
「! その声は……」
振り返った先には、この寒さにも関わらず、屈強な上半身をほとんど露出させた皮製の鎧を着込んだ大男の姿が。あの無精髭は間違いない。
「おじさん!」
「十二点だ」
判断するや否や、冷たい一言を放たれた。
「ただ雪を集めて山にすりゃ良いってモンじゃねえ。これじゃ崩れるに決まってらぁ」
のしのし、とおじさんは雪の山に近づくと、
「十二点ッ!!」
思い切り蹴り飛ばした。
「俺のかまくらあああぁッ!!」
「バカ野郎! あんなものかまくらじゃねえ! なまくらだボケナス!」
おじさんは俺を睨みつけた後にウィンドウを開くと、すぐにスコップを物体化させた。
木っ端微塵になった雪を数秒で集め終えると、それには触れず、側の地面にスコップで円を描く。そしてその場所に集めた雪を落としていった。
「嬢ちゃん、そいつを固めてくれ」
「あっ、はい!」
言われた通りスコップで叩いていく。
その上に雪が乗り、それもまた固めていく。
やがて身長よりも高くなり手が届かなくなったので、おじさんに肩車でかまくらの上に乗せてもらった。
雪の上だというのに、カチカチだった。
そのままおじさんが雪を投げ入れてくるので、それを同じように固めていく。
やがて飛び降りていいと言われた頃には、その高さはおじさんよりも巨大になっていた。
「外側は全部固めたぜ。ほら掘ってみろ」
「うん」
先ほど同様に突き刺し、抉っていく。
その箇所はボロボロとこぼれ出したけど、他はビクともしなかった。
「問題ねえだろ?」
「す、凄い! 全然崩れないや! おじさんって、もしかして東北出身の人ですか?」
「ふ……あの頃の俺はまだ命知らずだったな」
あの頃?
つまり結構前のことだったのかな。今は別の場所に住んでるとか。
「ほら時間がなくなるぞ」
「うん」
俺は人っ子一人分の入り口を設けると、そのまま掘り進んでいく。うーん、これはかなり時間がかかりそうだ。
「さあ掘り進め……欲望のままにな!」
「はい!」
よくわからなかったけど、とりあえず手を動かす。
掘って掘って、掘って掘って掘って……掘って!
どのくらい時間が経過したかは覚えていない。
けど、これだけは言える。
「かまくら……完成だー!」
目の前に立つ、プリンのような形をした巨大な物体を見て、俺は拳を天に突き立てた。
明日、もう一話更新致します!




