44.水着の作成と販売とさらなる事態
大変遅くなって申し訳ございません!
俺は十人近くの仲間たちと一緒に、ビルディックへ戻ってきていた。
今は、そこの裁縫屋の中で腰を下ろしている。
ゲイタの指示の元、俺たちは班を二つに分けていた。一つはイベント会場の準備とリハーサル。もう一つは素材集めと水着の作成、そして売り出しだ。
ここにやって来た半分近くの仲間たちをフィールドに向かわせ、俺たちは黙々とミシンを動かす。レシピ通りに従って。
ちらり、と改めてレシピの詳細に目を向けてみる。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・【三角ビキニ】ランク:F
・【オフショルビキニ】ランク:F
・【パレオ】ランク:E
・【マイクロビキニ】ランク:E
・【スクール水着】ランク:S
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
もうね、凄いんですコレ。
何が凄いって水着の数。今はパラパラとページを捲っただけなのだが……十や二十じゃない。
……百を、軽く超えている。
現実に存在しているものは勿論、現実には存在していないような珍しいもの、現実に身につけることはできないくらい際どく危ないものなど。
このゲームの対象年齢は中学生くらいからなんだけど……大丈夫なのかな、過激すぎないかな。そんな心配をしてしまうものさえある。
……開発者陣営の顔を見てみたいものだ。
「うおおおお唸れ俺の腕ええ!」
「一秒でも早く! 光よりも早くッ!」
「際どい水着を完成させるんだああッ!」
……多分、俺たちに似た顔をしているんだろうな。
「――持ってきたぞテメェら!」
バン! と勢いよく開いた扉から、素材を集めに行ったスタッフたちが姿を現した。
目が血走っており、怖いのなんの。
「しゃあ! 集めに行くぞテメェら!」
「「うおおらァ!!」」
荒々しい咆哮を放ち、すぐに外へ飛び出していく。
俺らはその素材を均等に分け合うと、作業を続けた る。……今日でどれだけレベルが上がるんだろう。
▽
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【スキル】
《ブーメランLv8》《投擲Lv8》《クライミングLv1》《料理Lv1》《調合Lv4》《筋力Lv4》《裁縫Lv14》
【バースト】
《ブーメラン》
Lv5:『ウィンドエッジ』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時刻は夜の九時。
休憩を挟みながら長時間も水着作りに勤しんだ結果、裁縫スキルが突出する形となった。
……一日で、こんなに伸びるものなんだなぁ。
「んで、気になったんだけどよ」
作業を終えて一息ついていた俺たちの中の一人が、こう言い出した。
「この水着、どうやって売るんだ?」
「「?」」
……どういう意味だろう?
「いやお前らさ、水着が普通に売れると思うか?」
「は? ……まぁ上位ブロガーのイベントだしな。さっきリーダーが売り出しについての記事を投稿してきたらしいし、結構人は集まるだろうよ」
「違う違う。そうじゃなくてさ」
疑問を生んだそのプレイヤーは、首を横に振って、
「俺たちみたいなヤツが、女性用のマニアックな水着や際どい水着の売り出し係をやったらどうなる? 気持ち悪がって誰も寄り付かないと俺は思うが」
「「!」」
た、確かにっ!
……俺たちが作成したものは、すべて女性用だ! 加えれば、あまり人前で見せびらかせない代物が目立つ。というか女性用の水着を大量に持ち歩いている時点で色々アウトなんだけど。
「お、俺はイヤだぞ! 気持ち悪がられるのは!」
「そうだ! 水着も大事だけど、他にも重大なことがある!」
「イベント参加者とイチャイチャする目的がな!」
なんて瑣末な目的なんだろう。
……それはともかくとして、今はどうにか水着を購入してもらう方法を考えなきゃ!
変装? いや、誰かに頼む? ……待て待て、誰に?
ナギに言ったら怒られるだろうし、ハナビさんにお願いしたら……受けてはくれそうだけど、表情から笑顔が消えそうだ。それに正直受けさせたくない。
くそっ、せめてスタッフの中に――
「……女の子がいればなぁ」
その何気ない俺の呟きが、流れを変えた。
スタッフたちが一斉に俺に顔を向け、ビシッと指を差し始めたのだ。
「えっ! な、なになに!?」
みんなは俺を見つめたまま、一斉に言い放つ。
「「「――女だ!」」」
「男だよお!」
「ンなもん知るか! いいか? お前は女だ!」
「大体そんな見た目で男とか、ナメてんのか!?」
「男やめちまえゴラァ!」
……何で俺は怒られてるんだろう。
「とにかく、だ。売り子係は任せたぜ」
次々と、トレードの申請が飛ばされてくる。
う、うーん……本当に大丈夫なのかな。
「そんな心配な顔すんなって。……あ、どうせなら女装でもするか?」
スタッフの一人が、悍ましい提案を出し始めた。
……確か、初期装備やNPCショップの防具は異性のものしか並べられていないけど、裁縫なら作成が可能。さらに性別の壁を超えて装備もできるとか。
だ、だからといって……女装なんてっ!
「い、嫌だ! 絶対――」
「――話は聞かせてもらったよ」
背後から聞こえてきた、怜悧な声。
振り返った先には、扉に背中を預けてメガネを上げる素振りを見せるイベント指揮官の姿があった。
「げ、ゲイタ! どうしてここに!?」
「そんなことはどうでも良いだろるるうぅぅッ!」
す、凄い。興奮のあまり巻き舌になってる。
珍しく表情を綻ばせるゲイタはウィンドウを開くと、防具を次々と物体化させていく。
それはワンピースであったり、女性用の警官服だったり……な、ナース服であったり……メイド服……?
「こんなこともあろうかと、作成しておいて正解だった!」
「な、何のために!?」
「もちろん――」
ゲイタはそこで、ハッと意識を取り戻した。
こちらに背を向け、再び鼻の上で指を持ち上げて、
「い、言わせないでくれ。恥ずかしい……」
こ、これ以上に恥ずかしい事実があるの!?
「それはそれとして、さあ! どれがいいかな!?」
「ま、待って! まだ女装するとは――」




