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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
 【第二章】白ウサギと海と男たちの青春
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43.男たちと人魚

 これで、俺たちはクエストをクリアした。


 ログを確認するとブーメランのスキルレベルが二つ上がったことが分かったが……今はそれを素直に喜ぶことはできなかった。


 ……まだもう一つ、クリアしていないことがあったからだ。


「あっ、あそこ……あの場所を見てみろ!」


 カイトが指差す先は、リザードゾンビが消滅した場所……部屋の中央だった。


 先ほどまで溜まっていた皮膚は敵が消滅すると同時にすべて綺麗さっぱりと消え去っており、そこには大きな円形の泉があった。


 そして、そこから七色の光が放たれていたのだ。



 ――ボボボッ。



 何やら沸き立つような音が耳に届く。

 それは次第に音量を増し、増して、増していく。


 やがて、爆発音と共に水面が持ち上がった。それは少しして止まると、ポタポタ音を立てながら量を減らし『中に入っていた人物』を露わにさせていく。


「「おお……!」」


 俺たちはその美しさに、思わず感嘆の声をこぼす。


 下半身を覆う二股に分かれたピンク色の尾部は、七色の光によって宝石のような輝きを見せていたからだ。


「「おおお……!」」


 そして髪。腰あたりまであるウェーブがかった金色のそれは、驚愕するほどに艶やかで、自然と目を奪われてしまう。


「「おおおお!!」」


 最後に、上半身。


 何も遮ることなく曝け出された綺麗な肢体。


 中でも盛り上がった胸元は、ごくりと唾を飲み込むほどに立派だった。


「おお……おおおっ!」


 それはゴツゴツと岩のように硬そうで、拳を叩きつけたらこちらが折れてしまいそうなほどだった。


 また、肩も同じように盛り上がり、腕や腹筋も屈強に鍛え上げられている。


「お……?」


 視線を上に持ち上げると、ちょうど水が晴れその顔立ちが確認できた。


 そこには、くりくりと可愛らしい大きな青い瞳。


 ……それと、あと少しで両方が繋がりそうなほどに長くそして太い眉毛。


 鼻と口の下には髪と同じ金色の髭がふさふさと設けられている。


「お、お……」


 つまり、それは♀ではなかった。


 俺たちと同じ……むしろ俺たちよりも♂らしい♂だった。


 やがて頭上に、彼の名前が表示される。



人魚マーマン



 ……ええと、確か女性の姿をしたものは人魚マーメイドというんだっけ。


 そういやクエストにはルビが振ってなかったなぁ。


「………………」


 すっかり黙り込む俺たちを置いて、人魚はその口を開いた。


「よくぞここまで来た」


 野太い。


「勇気ある者たちよ、よくぞここまで来た。我は今とても機嫌が良いのでな、褒美を」

「そうか、俺たちは今とても機嫌が悪いんだ」


 カイトはそう言い、ぱちん、と指を鳴らす。


 すると、何も伝えられていないにも関わらず、スタッフたちはそれそわれ武器を引き抜いた。もちろん俺もだ。……なぜかゲイタだけは何もせず、ただ人魚を見つめていたけど。


「では、さらばだ。勇敢な者たちよ」

「逃すか! 全員かかれえッ!」


「「うがあああああッ!!」」

「「ふざけんなああッ!!」」


 俺たちが次に流した涙は、赤い血の色をしていた。





 サブダンジョンの外に出ると、人魚の姿を拝めずに散っていった男たちの姿があった。


 羨んだり恨んだりせず、心の底から俺たちがクエストをクリアしたことを喜んでくれる彼ら。人魚の容姿について聞かれたが、真実は伝えないでおいた。


 ……どんな行動に出るか分からないし……。


 まぁ、何がともあれ。



「「――海ぃぃッ!!」」



 俺とカイトは、生き返った海に飛び込んでいた。


 冷たくて塩っぱくて……間違いない、本物の海だ!


「スゲえ! 元に戻ってる!」


 その声は、チャラ男NPCのものだった。


 彼は海の近くまでやって来て、瞳を輝かせていた。


「ありがとうッス! これで店を再開できるッス!」


 チャラ男NPCは俺たちに頭をぺこぺこと下げた。


 やがて、何かを思い出したかのように振り返り、急いで海の家に戻っていった。



【初心者水着レシピ】ランク:F

効果

使用すると『初心者水着』の作成法を覚える。



 眼前に表示されるクエストの報酬。

 水着……恐らく裁縫かな?


「あーっ!」


 急なカイトの叫び声に、びくりと全身が揺れる。


 な、何だ急に……どうしたんだ?


「や、やべえ重要なこと忘れてた……」


 深刻な顔を作るカイト。

 彼はそのまま、震える唇を動かした。


「水着……水着だ! 一番準備しなきゃいけねえモンじゃねえか! くそっ、イベント会場に意識を向け過ぎた! ここはリアルと別だったじゃねえか……!」


 ……そうか!

 リアルなら普通に買いにいけば良いけど、仮想世界ではそうはいかない。防具屋に置いてあるのは色気のないラッシュガードだけだ。


 俺たちが求める極上の景色は、自分の手で作り出さなければならない。


「それじゃ、早く作りにいこう!」

「お、おう……そうしたいのは山々なんだが……」


 一呼吸置いて、カイトは言った。


「実はな? まさか海がこんな事態になってると思わなくて、イベント内容もスタッフと相談してとっくに決まってるからよ。なんも問題ねえと思って……今週末にもイベントを行う予定って記事を投稿しちゃってたり……」

「ええっ! 今日、金曜日だよ!?」


 ほ、ほとんど時間がない!


 ……それに『初心者』と書かれているレシピはスキルレベルが低くても作れるものが記載されているが、代わりに能力や形に派手さはない。俺たちが望むものは、そこに書かれてはいないだろう。


 加えて、最悪ここに書かれているものを作成しようにも、時間的に間に合うかどうか……。


「まさか一番の目的を忘れるなんて……!」

「末代までの恥!」

「そもそもお前で途切れるだろ」


 途端に、俺たちの歓声は消え去った。


 ……そうだよ、これじゃ意味がない。俺たちは何のために頑張ってきたんだ……!


 だから、言わないと!


「諦めちゃダメだよ!」

「ゼン……?」

「まだ希望は残されているんだから!」


 その言葉に、静まり返る仲間たち。


 俺はアイテムポーチを開くと、あるアイテムを物体化させて、空高く掲げる。



 ――『秘伝水着レシピ』。

 そう名前の刻まれた、一冊の本を。



「ひ、秘伝だと!?」

「どうしてそんな代物を……!?」


 中でも大きな反応を見せたカイトとアニキさん。


 俺は、力強く答えた。


「さっきのボーナスクエストの報酬だよ! みんなの手元にもあるはず! 協力して作業を行えば、必ず間に合う! 俺たちの願いも叶うよ!」

「願いが叶う、か。良い言葉だ」


 それは、ゲイタの声だった。


 ……でも言葉とは裏腹に表情が悔しそうだったのは、なぜだろう?


 彼は少しして表情を戻すと、顔を上げて、


「今から指揮を取らせてもらう!」


 そう声を張り上げた。


 表情に困惑の色を宿していたスタッフたちは、それぞれ顔を見合わせて、少し悩む素振りを見せて、


 やがて、高らかな雄叫びを轟かせた。



突然なのですが、諸事情があって次回からの更新が遅くなります……。

勝手を申し訳ありません!

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