40.突入
ボーナスクエスト対象のダンジョンだけあって、中はそれなりに広かった。
周囲を覆う岩の壁に、砂地の地面。端には水溜りができており、恐らく海水だろう。
「裸体!」
「ラタァイ!」
「RA・TA・Iッ!」
ここに女性がいなくて良かった、と心から思う。
さすがにこのテンションにはついていけないです。
「野郎ども、敵襲だーっ!」
先頭に立つカイトの声に、緊張が走る。
先に目を向けると、緑色の鱗を持つ人型をしたトカゲのようなモンスターの姿が複数。
どれも皮製の鎧を着込んでおり、右手に木の盾を左手に銅の剣を装備していた。
【リザードマン】【Lv16】
れ、レベル16……!?
覚悟はしていたけど、実際に見ると足が竦む。
身長が俺よりも高い時点でもう怖いのに!
『『ゲバァッ!』』
ヤツらが地を蹴ったのは、突然だった。
姿勢を低くして、勢いよく頭から突っ込んでくる。
それに対してカイトは、武器を引き抜くことなく背を向けた。そして、集うスタッフの中に逃げ込む。
「――前衛! 盾を構えてくれ!」
「「おう!」」
ゲイタの指示に、前に立つ男たちが手元の巨大な盾を、それぞれ自分の姿を隠すように立てた。
直後、ガギィッ! と。
硬い音が前方から響き渡る。
俺の身長から盾の先は見えないけど、恐らく突っ込んできたリザードマンが振るった剣が、それに激突したのだろう。
間髪入れず、ゲイタは声を張り上げる。
「そのまま押し返すんだ!」
「「おらァ!」」
『『ギャブッ!?』』
盾の先で鈍い音や、何か硬質な物が落ちた音が放たれる。恐らく背中から地面に倒れたリザードマンが武器を落としたのだろう。
「今だッ!」
「「潰せええええッ!!」」
盾役が下がり、入れ替わるように武器を持つプレイヤーたちが、無防備なリザードマンの身体をズタズタにさせていく。
【リザードマンの角】ランク:F
効果
ーー
【リザードマンの肝】ランク:F
効果
ーー
断末魔を上げる暇なく、リザードマンたちはドロップアイテムを残して消え去った。
……というか戦ってもないのに、ただ貰うだけなんて何だか申し訳ないな……。
「ねえゲイタ、何か手伝えることないかな?」
スタッフの群れの中央に立つ彼にそう尋ねると、
「僕の側にいてくれればそれで良いさ」
「う、うん。分かった……」
それで役に立てると言うのなら。
……うぅっ、また寒気が。
「ふぬううっ! 僕たちは最強だ!」
すると、急にゲイタが声を上げ始めた。
び、びっくりした……そんなタイプだったっけ?
「「お、おう……」」
みんなも困惑するような様子を見せているし。
一体、何が彼を奮い立たせたんだ?
……さて、その後は迫り来るリザードマンたちを同じ戦法で返り討ちにする作業の繰り返しだった。
何でもこのダンジョンに出現するのはリザードマンだけのようで、進むごとに武器は槍や戦斧など変化していったが苦戦することはなかった。やっぱり二十人もいれば怖くない!
……俺はただ見ているだけだったけど。
そして、ゆっくり数十分かけて洞窟を進んでいくと、洞窟には似つかない巨大な扉が目に入った。
恐らく、ここがサブダンジョンの奥……。
直前で足を止めていると、カイトがスタッフたちの中から一歩前に出て、扉に手を触れた。
「みんな、覚悟はいいか?」
そんなリーダーの問いに、
「ったりめぇだ! いつでもいいぜ!」
「俺たちに『恐怖』なんて言葉はねえ!」
「俺、このクエストを終えたら彼女を作るんだ」
盛り上がりを見せるスタッフたち。
良かった、みんなやる気満々のようだ。
カイトはその様子に、嬉しそうな顔を作り、硬く握り込んだ拳を高々と突き上げた。
「……しゃあッ! 行くぞ野郎どもォ!」
「「うおおおおーーッ!!」」
俺たちもまた、雄叫びで答える。
それにカイトは、扉を力強くて押して答えた。
ギィィ……! と扉は軋んだ音を立て、密接する岩の壁を削り、パラパラと粉を落としながら先の景色を露わにしていく。
やがて、俺たちを待ち構えていたものは――




