39.ボーナスクエスト
驚くことに、俺たちがチャラ男NPCに顔を合わせる前に全員がクエストを受注していたらしい。
――カイトなら絶対に受ける。
――俺たちが認めた男なら必ず。
ずっと、そんな思いを抱いていたとか。
カイトはそれを聞いて、加えて期待通りの行動を見せたことで、絆がさらに深まった様子を見せていた。
高まる士気の中、俺たちは新たなサブダンジョン(フィールド同士を繋ぐもの以外を表す)に向かった。
そして、呆然とするしかなかった。
ご丁寧に、海の上に桟橋が立てかけられ、その先に浮水の洞窟は配置されている。
クエストの内容を再確認してみると、このサブダンジョンの推奨レベルは『9』だということが分かった。でもカイトのスキルはそのレベルを上回っているだろうし、他の仲間たちも安全にそして俺たちよりも早く迷いの森を抜けた実力者たちだ。それほど苦戦はしないはず。
――と、思っていたんだけど。
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【ボーナス・クエスト】人魚の笑顔
推奨レベル:18
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洞窟の入り口付近に足を踏み入れると、そんなウィンドウが自然と開かれたのだ。
「ボーナス……クエスト、だと……?」
スタッフメンバーの中から、声がこぼれだす。
ボーナスクエスト。
それはサブダンジョンにて『稀』に行われる特別なクエストだ。
内容としては、通常のダンジョンよりもMOBのレベルが跳ね上がり、クリアが困難となる。だがいつもより珍しい道具が手に入ったりするし、クエストに示された位置に辿り着けば、報酬も手に入る。スキルのレベル上げにも持ってこいだ。
……けど、デメリットもある。
「確かこれって……」
「ああ……ダンジョン内で死亡したら、二度とクエストは受けられねえんだ」
誰かが代弁してくれた通り、ボーナスクエストは中に対象のダンジョンでHPがゼロになると、クエストは破棄される。次にまた出現した際にしか入ることはできなくなってしまう。
ボーナスクエストの期限は……明日の朝までか。今日中は諦めた方が良いかな?
「ね、カイト……」
「何……だ、と……!」
我らがリーダーに事を伝えようとすると、その人物はぶるぶると一点に集中して硬直していた。
視線の先には、ウィンドウが。
どうやらボーナスクエストに関してのものだと思うけど……何をそんなに?
再度ウィンドウに目を向けると、シークバーが画面端にあることが分かった。それに触れて下にスライドさせていく。
切り替わった画面には、ボーナスクエストの詳細が書かれていた。……『今しがた、ダンジョンの奥に住まう美しい人魚が姿を表した。煌びやかな裸体を宿すその者に語りかけよ』……と。
「美しい人魚……裸体……!?」
目を見開きながら、カイトは呟く。
「裸体っ!」
「裸体だって!?」
「裸体だと!?」
周りも同じように確認して叫んでいた。
……裸体だけにしか興味を示していないけど。
「リーダー、行くしかねえよ!」
「俺たち全員で挑めば何も問題ないぜ!」
全員。
誰かがそう言ったように、ボーナスクエストにはパーティ制限がない。ここにいる二十名で突撃することができるというわけだ。
「しかし通常よりレベルが倍か……厳しいな」
ぽつり、とゲイタが呟く。
それに対して、スタッフたちが声を荒げた。
「臆したかゲイタァ!」
「それでも男か貴様ぁッ!」
「別にそういうわけじゃないさ。ただーー」
ゲイタは冷静に、こう言った。
「クエストの対象モンスターの通常よりレベルも上がっている可能性がある。道中、激戦を避けられないだろうし……そこで体力を消費して呆気なく全滅ということもあるだろう。僕はオススメしないな」
「やってみなきゃ分からねえだろ!」
飛んできた野次に、ゲイタは軽く頷いて、
「そうだね、実際にやってみなきゃ分からない。……だが、無理をして挑む必要はないと思う」
うん、俺たちの目的はあくまでイベント。
人魚は……二の……次。そう、二の次なんだ。
「ゼン君もそうは思わないかい?」
「えっ……」
――うん!
と、即座に答えられない自分がいた。
……何だかんだで、ちょっと気になっていたりしたからだ。綺麗な人魚の存在に。裸体はその……お、置いといて……人魚をこの目で見てみたい。
「え、ええと……」
……本心を伝えなら、怒るかな。
でも俺は嘘が下手だって自覚しているし、誤魔化してもバレちゃうよね……。
「どうしたんだい?」
「い、いや、そのー……挑んでみたいなって」
「分かった。行こう」
そりゃ怒る……って、ええッ!?
「い、いいの!?」
「別に挑みたくないわけじゃないしね。それに君が願うなら僕はそれに従うよ」
「あ、ありがと……」
ぞくり。
可笑しいなぁ、また寒気が。……風邪かな?
「っしゃあ! じゃあ気を取り直して……会いに行ってやるか! 裸の人魚によぉ!」
「「「おお――ッッ!!」」」
大陸を揺らさんばかりの多大な咆哮。
もー、みんな本来の目的を分かっているのか!?
……と言いつつ、俺も拳を天に突き立てていたりするんだけど。




