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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
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3.始まりの大地

 両親は帰りが遅くなるとのことで、パンに野菜とハムを挟むという簡単なサンドイッチを完成させ平らげた俺は、シャワーを済ますと再びVRマシンを身につけた。


 時刻は夜の九時頃。


『PT組みませんかー!』

『一緒に武具の素材集めに行きましょう!』

『うぅ……ぐっ、誰か……女の子……カモンプリーズぅ……』


 フィールド入り口のベンチで目を覚ますと、相変わらず騒がしい光景があった。

 でも、心なしか数は減っているような……。


「……よし、行こう」


 バックパックを背負い直し、プレイヤーの間を抜けていく。


 やっとの思いで、俺はフィールドにたどり着くことができた。


「……わっ……!」


 切り変わった視界の先を見て、自然と口から声がこぼれ出す。


 それは、初めてこの世界にログインした時と同様に、景色に見惚れてしまったからだ。


 遮っていた建物は姿を消し、気持ちいほどにスッキリと晴れた周囲。石畳の地面は消え去り、代わりに切り揃えられた短い草原が広がっていた。


 眼前で興奮からか叫びに近い声を上げたり、武器を振り回して暴れるプレイヤーたちの姿がなければ、ピクニックでもしたい場所だ。


 マップを確認すると、このフィールドは『始まりの大地』というらしい。


「……うおっ、眩しい……」


 空から降り注ぐ眩しい日差しが、瞳を刺激する。


 見れば雲一つない透き通った青空が、遥か彼方まで広がっていた。……現実では夜なので変に違和感を覚えてしまうなぁ。


 何でも【セカンド・ワールド】の世界は一時間で昼夜が逆転するらしい。それと時刻によって出現するMOBや獲得できないアイテムがあるとか。


「……よし!」


 俺はそこで考えを切ると、歩き出した。


 大きく弧を描いてMOB狩りに勤しむプレイヤーたちを避けるように進んでいく。……だが、歩いても歩いてもプレイヤーの数が減ることはなかった。やっぱりサービス初日は凄いなぁ。


 だから俺は、進む方向を変えた。


 今まで真っ直ぐに歩いていたため、向きを左に九十度回転させる。本来、始まりの街を背中にして進むのが通常のルートだそうだけど、それじゃつまらない。じっくり探索しながら進んでいこう。


 サクサクと草の地面を踏み鳴らして歩いていく。


 次第にプレイヤーたちの姿が見えなくなっていき、時々フィールドを駆け抜ける風の音がよく聞こえるようになってきた。


 息苦しさから解放され、気持ちが軽やかになる。心なしか空気も美味しくなったような。


「よーし!」


 不意に走りたくなった俺は、足腰に力を込めて、


「――待て、嬢ちゃん!」


 前方に向かって、派手に転んだ。


 草まみれになった顔を上げ、声の方向を見ると、そこには筋肉質で大柄な男が立っていた。それだけで威圧感があるが、他にも右目に深い傷が刻まれていたり無精髭を生やしていることから、ただ者ではないオーラを感じてしまう。


 俺と同じ皮の装備を身につけたその人物は、俺が進もうとしていた先を指差して言った。


「あそこ、分かるか?」


 示された方向を見ると、柵があった。


 ここからではまだ小さく見えるそれは、俺から見て左右にびっしりと伸びている。


「アレを超えると、MOBの強さが変化する。ここらにいる初心者用の雑魚とはわけが違え、まだ俺たちには踏み込めねえ未知の領域だ」


 男はギロリと柵の向こうを睨みつける。

 やがて、くるりと振り返った。


「まだその時じゃねえ。今は正規ルートで自分を鍛え抜け。焦ったところで良い結果は出てこない。自分の死期を早めるだけだ」

「は、はぁ」

「忠告したぜ嬢ちゃん。……それじゃ、またどこかで会えることを祈っているよ。アディオス」

「ど、どうも……あでぃおす」


 男は最後に、ふっ、と笑うとこの場を去っていった。


 ……それにしても、何者だったんだろう。


「さて、と……」


 俺は立ち上がり、改めて柵に目を向けた。


 ……確かに先ほどの人の言う通りなら、今の俺が足を踏み入れたところで八つ裂きにされるだけだ。


 だから俺は、


「行くか」


 その先に向かって歩き出した。


 いや、知らない大人の言うことは聞いちゃダメって小さい頃から言われてきたしね?


 柵を越えてみると、変わらず草原が広がっていた。


 だけど、気を抜かず慎重に進んでいこう。MOBが出現したらすぐ逃げられるように。


「……お?」


 そんな時、だった。前方に建物を発見したのは。


 ファンタジー世界に似つかない和風な小屋。開きっ放しの扉の横には赤いベンチが設けられ、日除けに番傘が置かれている。それはまるで、茶屋のようだった。


 そして、そこには一人のプレイヤーがいた。


 漆黒のポニーテールが特徴的な、落ち着いた印象のある美女。大人びて見えるけど……歳は俺より少し上くらいかな?


「あら?」


 美女が俺の存在に気づいたようだ。


 少しだけ目を丸くさせていた彼女だったが、やがて優しく微笑んだ。


「こんにちは。ウサギさん」



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