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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
 【第二章】白ウサギと海と男たちの青春
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36.迷いの森②

 迷いの森。


 名の通り、このダンジョンは思考を混乱させる。


 何でも、出口に繋がるルートは一つだけ。そこから一歩でも外れると、入り口に戻されてしまうというルールになっている。


 現にカイトとアニキさんが咆哮と共に辺りを駆け回っていたが、すぐにダンジョンの入り口から戻ってきた。


「どうなってんだこりゃあ!?」

「こんなんぜってえクリアできねえじゃん!」


 この二人、似ているなぁ。


 ……でも確かに、ぎゃーぎゃー喚き立てたい気持ちは分かる。


「何か目ぼしいものとかなかった?」


 とりあえず、二人にそう尋ねてみる。


 こういった場所には、開発者側が何か道を切り開くヒントを置いてくれているはずだ。……多分。


「俺んところにゃ何もなかったぜ」

「あー……そういや」


 アニキに続いたカイトが、髪をポリポリ掻いて、


「俺の進んだ場所には『松明』があったぞ。まぁその先に進んでいったら戻されたけどな」

「松明……?」


 何気なく、入り口にあるそれに目を向ける。


 すると、同じようにジッと松明を見つめるゲイタの姿があった。


「何か気づいたの?」


 そう尋ねてみると、彼はうーむと声をこぼして、


「この松明の周り……妙に明るくないか?」


 そう、答えた。


 ……言われてみれば、確かに、だ。


 燃え盛る松明は、空に細い煙を上げながらパチパチと音を響かせている。


 そして辺りを照らして――いるのだけど、ゲイタの言った通り火の側は明るい。それは当然な理由だけど……周りと比べて綺麗というか……。


「……そうか、霧がないんだ!」


 俺の言葉に、ゲイタもまた頷いた。


 火の周囲には俺たちを取り囲むようにして揺蕩たゆたう霧が一切なかったのだ。


 つまり――



【木の枝】ランク:F

効果

ーー



 俺はアイテムポーチを開き、そのアイテムを手元に物体化させた。


 そして枝の先っぽに、松明の火を点火させる。


「これで霧を払いながら進むってことか!」

「恐らくそうだろうね。出口に戻されてしまう原因は、この霧だろうし」

「よーし!」


 俺は再び駆け回ろうとする脳筋二人を呼び止めると、この件を伝え、木の枝を手渡した。


「おおっ、マジだ! 霧が晴れてくぞ!」

「実は俺もそうじゃねえかと思ってたんだよ」


 ご機嫌そうに言いながら、木の枝を振るって森の中を進み始める二人。

 俺とゲイタも枝に火をつけて、その背中を追う。


 ……いやぁ、それにしてもこうやってみんなで未知のエリアを進んでいくのも楽しいな。旅は普通一人でやるものだと思っていたけど、こういうのも悪くない。


 そうウキウキと心を弾ませながら、霧の中を進み――



 ――ダンジョンの入り口に、戻ってきた。



「ゼン! テメェ全然違うじゃねえかお荷物!」

「やっぱりな! そう思ってたんだ俺はよぉ!」

「んにぉぉぉ――!」


 双方から頬を、むにーっ、と抓られる。


 く、くそお! やっぱり旅は一人に限るぞっ!


「……しかし、こうなると……分からないな」


 ジタバタ暴れていると、ゲイタの声が。


「松明がカギになると思っていたんだが……」


 その言葉に、二人の手から解放された。


「そうじゃん! もう何も手がねえ……」

「悪いが、俺の頭はもうパンク寸前だぜ」


 すっかり諦めモードに入ったことで。


 ……でも、気持ちは分かる。周りを幾ら見渡しても、二つの松明しか目ぼしいものはない。

やっぱり、カギはこれだと思うんだけど……。


「……ん?」


 そんな時、俺の視線があるものを捉えた。


 モクモク……、と。


 それは、炎から上がる細く白い煙。真っ直ぐ中に放たれ、空高く続いている。


 体を仰け反らせていくと、その煙が青空に向かっていくのが分かった。


「……ん、ん?」


 いや可笑しい。青空が見えるはずがない。生い茂る木々たちの葉によって、遮られているはずなのだから……。


 考えながらも注目すると、やはり葉の隙間から微かに青空は見えていた。しかもそれは細長く、まるで道のようだった。途切れることなく、遥か先まで繋がっている。


 ……不思議なことに、そこから明るい光がダンジョン内に落ちてこない。だからその存在に気づかなかったのか。


 やがて視線の高さを通常に戻し、少し先にある松明に向ける。そしてもう一度見上げてみると、入り口の松明が示す青空の道に繋がっていた。


「……もしかして、これ……」

「ん、どしたゼン?」


 カイトの言葉は、俺の耳に届かなかった。


 俺は青空の道を見つめながら二つめの松明まで向かうと、足を止めることなく進んでいく。空の道から外れないよう、ゆっくり、ゆっくりと……。


 そして、先ほどまで踏み入れるとダンジョンの入り口まで戻ってしまう距離を容易く超えた。


「分かったよー!」


 振り返り、もうすっかり見えなくなった三人に向けて、俺は声を張り上げた。


 やがて、驚いた顔を作って三人は俺が立つ場所までやって来た。


「……なるほど。霧に目を奪われていたわけか」


 最初に口を開いたのは、ゲイタ。


 恐らく、周囲の霧をどうにかすることだけを考えて他への注意を疎かにしてしまった、と言いたいのだろう。


 ……俺もそうだったからだ。


 道を発見したのはただの運。松明をどう利用するか、それだけしか考えていなかったし……。


「凄えなゼン。さすが俺が見込んだだけはある」

「ま、俺は最初から分かっていたんだがな」


 どの口が言うんだろう。


 ……まぁ、今はとりあえず先に進もうか。


 カイトが情報を他のチームに渡し終えてから、俺たちは歩き始めた。



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