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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
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2.旅の準備

 空中を二度タップすると出現するウィンドウにて確認したところ、ここは『始まりの街』という名前らしい。その名前に相応しく街の武具屋や道具屋には微弱でお手頃な価格の商品が並べられており、露店には調合や料理などで使用するための簡素な素材が置かれていた。


 突然だけど、俺は武器やスキルを駆使して強大な敵に立ち向かう……ことがこのゲームを購入した目的じゃない。純粋に旅がしてみたかったのだ。


 現実では長期休みじゃないと難しいし、何より準備が大変だ。金銭的問題もある。


 ――だから、VRMMOの世界を選んだ。


 現実と違って、時が来ても自宅に引き返す心配はない。その場で待機をすることができる。そしてまた、再開することができる。

 自分のペースでゆったりと、広大な世界を旅することができるのだ。


 ――よし、まずは旅の必需品を揃えよう。


 初期ゴルド(【セカンド・ワールド】での通貨)1000をその手に、俺は道具屋に足を踏み入れた。


 最初に必要だと考えたのは『皮の寝袋』。これを使用してログアウトすることで、次ログインをした際にHPを回復させることができるとか。加えて使用した最後の場所をリスポーン地として設定することもできるそうだ。値段は200。色々と便利そうだしお手頃な価格なので購入しておこう。


 他には『初期調理キット』、『初期調合キット』かな。やっぱり旅には欲しい代物だ。


 どちらも値段は300ゴルドと痛手な出費だけど、簡単な料理や調合品の素材なら初めの方のフィールドでも獲得できると説明書にあったので問題ないはず……思い切って買っちゃおう!


 財布を大いに軽くさせた俺は、次に武器ポーチの確認を始めた。


 収納されていたのは『片手剣』、『短剣』、『大剣』、『戦斧』、『槍』、『弓』、『杖』……などなど意外にも多くの種類があった。


……うーん、迷うな。どれにし――ん?


 ぴたり、と視線が止まった。


「……ブーメラン?」


 そう、それはとある遠距離武器だった。


 何故か興味を惹かれた俺は、本能のままその武器を物体オブジェクト化させた。


 手のひらに出現したのは、くの字の形をした黄色い木製の武器。



【初心者用ブーメラン】ランク:F

効果

ATK+2

①投げると、装備したプレイヤーの元に返ってくる。②《投擲》スキルのレベルが上がるごとに飛距離が伸び、遠いほど威力は落ちる(ちなみに手で持った状態での攻撃威力は最大飛距離と同じ)。③地面に落ちると武器ポーチから外れ、ドロップアイテムとなる。



 ……何というか、うん。微妙な武器だった。


 他の武器も調べてみたが、攻撃力は近接武器に劣っていた。それに、距離を取って戦えるメリットがある……と言うこともできない。


 遠距離武器には『弓』がある。説明を見てみるとこの武器にも矢がないと戦えないという弱点があるけど、代わりに色々な種類の矢が存在するとか。それに決定的な違いは、プレイヤースキルによって飛距離を伸ばすことができるところだ。ブーメランは……。


「でも、面白そうだ」


 だが、何だか不思議な魅力を感じた俺は、迷わずブーメランを装備した。



 ――スキル《ブーメラン》を取得しました。



 直後、視界右下に映るログが更新された。


 ……なるほど、武器のスキルは実際に装備することでゲットできるのか。


 ということは、後は実際にブーメランを振るったり放ったりすることで、そのスキルのレベルが上がるのだろう。そして一定値まで成長させると『バースト』を覚えることができる。


 ちなみにバーストとはいわゆる必殺技だ。例えば杖なら炎や氷を出現させたり、剣なら強大な一撃を与えたり、戦いを優位に進められるのだとか。


 ブーメランは一体どんな力を持っているのだろう? 楽しみだ。


「……さて、と」


 準備を整えた俺は、道具屋を出た。


 相変わらず人混みになっている通路を抜け、フィールドに繋がる入り口へと向かっていく。


「ん?」


 その途中に、気になるものを見つけた。


 通路の端にある露店、そこに並べられていた商品の一つである……黒いバックパック。


「おおっ……!」


 恐らくキラキラと輝いているだろう瞳でそれを捉えた俺は、値段が今の全財産と一致していることを確認すると、迷うことなく購入した。


 やっぱり旅といえばバックパック! バックパックですよ! だって一番旅してる感があるし!


 ……これは後から知ったことだけど、バックパックの内容は道具ポーチに入り切らなくなった場合の予備保管庫として利用できる。が、もしもフィールドに置き忘れたりした場合、別のプレイヤーが拾い中身を拝借することも可能だったりするのだ。それと中身が増えるほどに重みが増すらしい。《筋力》スキルが足りない初めのうちは少量で歩くことが困難になるとか。


 そんなデメリットがあることをまだ知らない俺は、背中に感じる確かなバックパックの感触に鼻歌を交えながら始まりの街の中を歩いていった。


『パーティ募集中! 大剣使い希望!』

『一緒にゴルドを稼ぎに行きませんか? あと二名募集!』

『へーい、そこの彼女! 俺とお話しなーい?』


「……うおお」


 始まり街、フィールド前入り口。


 その膨大なプレイヤーの数と呼びかけに、俺は圧倒されていた。


 考えてみれば、今日はサービス初日だった。恐らくフィールドに出ても同じような光景が広がっていることだろう。……これじゃ記念すべき旅の始まりが息苦しいものとなってしまうなぁ。


 そんなことを考えながら、俺は視界上部に意識を集中させた。そこには【19:00】(現実世界での時刻)と表示されていた。


「……一回落ちるか」


 晩御飯のことも考えて、俺は一度ログアウトすることに決めた。



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