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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
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23.強力な助っ人

 ハナビさんのログアウトを見届けた後、俺は安全エリアを出て、続きの大地を歩き回った。


 ポーションをたくさん用意しておくためだ。


 前に素材集めをした際に分かったのだが、ここのフィールドのキラキラ(素材が獲得できる白い球体の光)から一度に獲得できる薬草は1〜3枚。だが、キラキラは一つじゃない。フィールド各地に存在している。


 六時以降になってプレイヤーの数がさらに増えたためか、今度はMOBと遭遇することなく歩き回ることができた。


 その結果、十二枚の薬草を入手。それらを初期調合キットによりポーションに変化させていく。



 ――《調合》Lv.UP!

 ――《調合》Lv.UP!



 その中で、調合スキルのレベルが二つ上がった。

 加えて、一つも失敗することなく六つのポーションが完成した。


 今持っている分と合わせて、数は八つ。


 ちょうど四つに分けられるので、半分をハナビさんに……いや、少し多めに渡しておこうか。


 そんなことを考えていると、ちょうど現実時間が七時前といつも落ちる時間帯だったので、俺は安全エリアまで戻ってきた。ハナビさんがログアウトを済ませた側に川の寝袋を敷き、この世界から脱出した。


 その後は、晩御飯の支度や学校の宿題を片付ける。そこから疲労感が見え始めたので、明日に影響を出さないためにも今日は早めに就寝した。


 翌日、休日ということで少し遅めの起床。


 両親はせっかくの休暇なので昼まで寝かせておいて、静かにできる限りの家事をこなす。最後に昼食を作り、両親を起こして食事を一緒に取る。


 午後に入ると、騒音が立てられなかったため午前中にできなかった掃除を始め、食事の買い出しに出かけ――


 何だかんだで、ログインしたのは夕方頃だった。


「あっ、おはよう。ウサギさん」


 寝袋から身を起こすと、緑の地面に腰掛けるハナビさんの姿があった。


「いえ……今の時間だと、こんにちはかしら」

「はは。こんにちは」


「ひゃっほー、こんにちぃ」


 俺の挨拶に続いたのは、ハナビさんの声じゃなかった。


 声の方向である横に目を向けると、寝転がってこちらを見つめる短い緑髪の男性が一人。色褪せたマントで身体を覆い隠すその姿は、見覚えがある。


「あっ。この前、馬車で会った……」

「あら覚えててくれたんだぁ〜。感激だぁねえ」


 そう言い、男性はニコリと笑った。


 側に座るハナビさんもまた、清楚に微笑んで、


「わたしもついさっきログインしたんだけど……ウサギさんが来るまでこの方が話し相手になってくれてね。ふふ、面白い人なの」

「いやっはぁ。美人にそう言われちゃうとうっれし〜なぁ」


 照れくさそうに緑髪の男性は頬を掻いた。

 だが、すぐに表情を少し暗く変える。


「それにしても大変だなぁ。足が不自由なんてねぇ〜」


 どうやら、ハナビさんの事情は聞いているみたいだ。


「ウサギちゃんが美人さんを庇う形になるんだろうけどぉ、それじゃあのダンジョンをクリアするのはむっずかしいぜー?」


 その問いには、俺が答えた。


「はい。なのでPTを組もうかと思ってて……」

「ざーんねん。ここに集まる連中ってさぁ、クリアすることを目的とすることしか頭にないのよん。休日だっしさ〜」


 そう言い、男性はダンジョン周囲を指差す。


 確かにそこには昨日の夜と同等。……いや、それ以上かもしれないくらいの人集りができていた。


「普段ゲームできないプレイヤーたちが多いからねぇ。その中では鬱憤を晴らそうとする人も少なくないしー。手伝ってくれるようなお優しいプレイヤーはそうそういないだろ〜ねぇ」

「うっ。そ、そうなんですか……?」

「んー……中にはクリアしたにも関わらずぅ、こっちに戻ってきて苦戦してる人をお手伝いしてくれちゃうヒーロー気取り……あ、いやいやお優しいプレイヤーさんもいるけど〜、あれだけクリア志願者がいたんじゃー、もう取られちゃってるだろ〜ぉね」


 そ、そんな……。


 イベント開始時刻まで、あと三時間ほど。

 二人だけでの突破となると……険しいな。俺たちは自由に行動することができないし、それぞれの武器は遠距離タイプだ。だが、一発一発にそれほどの威力はない。仕留め切れずに間合いを詰められたら、簡単にHPをゼロに変えさせられてしまう。


 でも、悩んでいる時間はない。なんとか協力してくれるプレイヤーを見つけて……それが無理なら二人で挑むしかない。失敗しても何度でも。


「そんなお二人に、ラッキーなお知らせーぃ!」


 男性が、すくっ、と立ち上がる。


 相変わらずマントで身体を隠したまま、俺とハナビさんに上からウィンクを浴びせて、


「この俺が協力をしてあっげちゃうぜぃ!」


 そう言いながら、ついにマントを取り払った。


「じゃぁーん!」


 明るい声と共に露わになった姿は、俺やハナビさんのような皮の装備でもカイトのような青銅の鎧でもなかった。


 それは、薄着、だった。


 色は闇夜に溶け込んでしまいそうな紺。衣服だけでなく薄いパンツも同色で、腰や肩に幾つかベルトが巻かれている。何だか忍装束しのびしょうぞくっぽい印象のある装備だった。


『うわっ、何だあの装備!』

『あんなの見たことねえよな。もっと先の街にある武具なのか?』

『か、かっけえ……おい、早くクリアしちまおうぜ! 俺、ああいう装備が欲しかったんだ!』


 男性の装備を見たプレイヤーたちが、騒ぎ出す。


 うーむ、彼らの話によれば、この人はかなりゲームを進めているみたいだ。……ってことは、かなり頼りになる相手なんじゃないか!? 装備もこの辺りでは見たことのない――


(……ん?)


 見たことのない装備。

 何だか、その言葉が妙に引っかかった。


 ――む。


 ……それに気づくともう一つ、『かなりゲームを進めている』という点についてもだ。


 何だっけ……何か重要なことを忘れているような。


「ん〜? どったのー、もしもーし」

「あ。い、いや何でもないです! ……そうですね。こちらとしては――」


 そこで、ちらりとハナビさんを見る。


 彼女は微笑んで、こくりと頷いた。


「――凄くありがたいです。ぜひお願いします」

「あいあいさー! 任しときなぃ!」


 親指を空に突き立て、緑髪の男性は笑った。



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