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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
21/94

20.弓矢は近接武器

 ゲーム内時刻が夜に変わった頃、PTを組んだ俺とハナビさんは、始まりの大地に踏み入れた。


 相変わらずそこでは、プレイヤーたちが荒々しくMOBを狩っていた。


 そんな彼らを見つめながら、ハナビさんが口を開く。


「ここはあの人たちのお陰で難なく突破できるんだけど、緑の休息場を抜けてからが……」

「続きの大地ですか? ……あれ? でも、あそこもここと同じ感じだったような」

「そうなんだけど……あそこには追尾型のモンスターがいるの。一定の範囲まで近づくと、次のエリアまで追いかけ続けてきて……見つからないように移動しようとしても、いつも進む先にPOPしてしまって。それに動きも素早いから、こっちの攻撃も当たらなくてやられちゃうのよね」


 そう言い、ハナビさんは腰辺りに携えた木製の弓に手を触れた。


 どうやら、彼女の獲物は弓矢らしい。


 ちなみに矢筒は、左の肩の後ろ側……肩甲骨辺りにぶら下がっている。


「そんなモンスターが……」


 ……それにしても、全然知らなかった。


 普通に素材集めをしてたし、普通にフィールドを一周していたっけ。たまたま運が良かったのかな。


「……よし、それじゃ行きましょうか」


 俺はそう言うと、ハナビさんの前に立った。

 そして、自分の両肩をぽんぽん叩いてみせる。


「? えーと……?」

「良かったら俺を使ってください。支えがあった方が歩きやすいと思いますよ」

「わぁ、ありがとう。迷惑かけてごめんね」

「ううん、迷惑なんてないですよ。どぞどぞ」


 肩に手を置かれたことを確認すると、俺はゆっくりと歩き出す。


「早かったら言ってくださいね」

「ええ。あ、もう少し早くしても大丈夫かも」


 そんな会話を繰り広げながら、歩いていく。そして始まりの大地は、他のプレイヤーたちのお陰で、何のハプニングもなく突破できた。


「こんなに早く休息場についちゃうなんて……」

「次もきっとすぐにクリアできますよ。……あ、何か購入するものとかあります?」

「大丈夫。……ええと、今は夕方の五時ちょっと過ぎね。病院は六時から晩御飯の予定になっているんだけど……それまでにクリアできるかしら」

「一時間もあれば、ダンジョン前までは余裕だと思いますよ。追尾型のMOBが出ても俺が対処しますから!」

「わぁ、頼もしい」


 嬉しそうに微笑むハナビさん。


 ……思わず見栄を張っちゃったけど、多分大丈夫だよね? 緑消の洞穴のMOBに比べたら、容易い相手なはず……。


 まぁそれに、続きの大地にもたくさんのプレイヤーがいるし、もしかしたら出会わない可能性だって高い。


 そうだ、何も心配することはない。





『『キュキュキュ――ッ!!』』


「で、出ちゃった。ウサギさん」


 心配だらけだった。


 MOBの出現場所はフィールド内であればランダム(柵の前まで)になっているとはいえ、まさかすぐ側に複数POPするとは思わなかった。


 レベル上げに勤しむプレイヤーたちは、どんな奇跡かこちらに背を向けてMOBを狩っているし……。


『『キュゥー!』』


 ちなみに先ほどから奇妙な……だが可愛らしくもある叫びを上げているのは、ふわふわと浮遊する球体のモンスター。頭に猫の耳が生え、後ろに黒い翼と身体に似つかないくらいに細く長い尻尾がある。顔面に鼻はなく、細い縦線の目に丸い口。まるで幼い子供が描いたキャラクターのようだ。



【フワリン】【Lv3】



 名前も、そんな感じに可愛らしい。

 数は二体。俺の前方と後方で揺れ動いている。


『キュー!』


 愛くるしい声と共に突進してきたのは、前方のフワリンからだった。


 頭から突っ込んでくる――頭突きか!


 そう考えた、直後だった。


『ギュアアッ!!』


 不気味な声を発し、身体を思い切り回転させて尻尾を振るってきたのは。

 ムチのようにしなって突き進んできたそれは、


「ごぶッ!?」


 ズパァン! と良い音を響かせて、俺の頬に命中した。

 痺れるような感覚がジワジワと伝わっていく。


「ぐ――このっ!」


 俺はブーメランを腰から引き抜くと、ムキになってそのまま振り回した。


 ブゥン! ブゥン!


 ……だが、哀れにも空を切る俺の攻撃。


 腹立たしいことに、フワリンが上手く避けるのだ。横に振れば縦に、縦に振れば横に。フェイントをかけてみたが、全て回避されてしまう。


 ――ビュッ!


 そして、こちらの打ち終わりを狙ってくる。


「うわっ!?」


 何とか首を捻って回避する。


 くそっ、誰だ可愛いなんて言ったのは! 顔も声も戦闘スタイルも全然可愛いくないぞ!


「……なるほど。そういう使い方もあるのね」


 背後から、感心したような声。


 加えて肩に重みがないことから、俺は慌てて振り返る。


 そこには、ハナビさんの背中があった。


「それじゃこれも、こんな感じに……」


 彼女はぶつぶつと呟きながら、矢筒に手を伸ばした。そこから一本の矢を取り出す。

 けど、弓は腰に身につけたままだ。


 一体何を――と疑問を覚えていると、ハナビさんの眼前から白い頭が突撃を開始していた。だが、彼女は臆することなく矢を握ったまま振り上げ、


「えい」


 フワリンの頭に突き刺した。


『ギュシ、シギャアアアアアアアアアッ!!』


 思わず耳を塞ぎたくなる絶叫。


 細い線だった目は、くわっ、と丸く見開かれ、真っ赤に充血したそれが露わになる。口もまた大きく開かれ、鋭利な牙がむき出しになっていた。


 ……こ、怖すぎる! 人によってはトラウマものだ!


「えいえい」


 そんな俺の恐怖を余所に、矢を突き刺し続けるハナビさん。


 す、凄いな……気にならないのかな。


『ギィオオッ!!』


 けど、フワリンも負けていなかった。


 もう本来の姿とはかけ離れた鬼の形相を作ると、勢いよく身を翻し、尻尾をハナビさんの顔面に叩きつけようと試みる。


「危ない!」

「大丈夫」


 ハナビさんはそう言うと、空の手を持ち上げて、


 バシッ! と。


 猛スピードで向かってきた尻尾をキャッチした。


「ッ!?」『ッ!?』


 驚愕する俺とフワリンを気に留めず、ハナビさんは再び矢を構えると、


『ぎ、ギュアアアッ――!!』


 助けてくれ――、と叫んでいるかのようなフワリンに容赦なく矢を突き刺し始めた。


 たまに折れて使い物にならなくなるけど、ストックがまだたくさんあるのか、気にせず新品の矢を取り出し攻撃を続けていく。


 一発一発は微量なダメージ量だったが、身動き取れない相手を倒すのは簡単な作業だった。


「す、凄いですね。キャッチなんて大胆な……」


 そう尋ねると、ハナビさんは優しく笑って、


「うーん……よくやられていた相手だったから。目が慣れていたのかもしれないわね」

「そ、それでも凄いですよ」


 正直な話、俺がマネをしようとすると、


 ズパァッ!


「ぶぶ、ぉッ!?」


 触れることなく、顎を跳ね上げられる。


 軌道は分かっているのに! 速すぎる……!


 攻撃力の低さに助けられたが、このままじゃ何もできずにカウンターをもらい続けるだけだ。


 つ、強い……本当に序盤のフィールドなのか!?


 そう嘆いていると、追撃が迫り来る。


「よいしょ」


 バシッ! と、頭上で炸裂音が響き、


「うおっ!?」


 俺が叫んだのは、続けて頭に柔らかい弾力が伝わったからだ。不思議と心地良い二つの感触。


「ご、ごめんなさい。ウサギさん」


 頭上から申し訳なさそうな声。


 つ、つまり角度的にこの感触は……!


「い、いえっ! ありがとうございます!」

「えっ……ど、どういたしまして?」


 そう疑問の声をこぼしながらも、ハナビさんは先ほどの炸裂音と共に掴んでいた尻尾を引き寄せる。


「よーし、捕まえた」


 ハナビさんは自分の顔の側まで今まで苦戦した敵を持ってくると、そう言った。


 これから起こる事態を察したのか、ぷるぷると震えるフワリン。対してハナビさんは柔らかく微笑んで、優しくこう告げた。


「――お仕置き♥」



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