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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
17/94

16.空飛ぶウサギ①

「ちょ、待てって!」


 フィールドに出た後、先ほど下りてきた山の直前でカイトに腕を掴まれた。


「一体どうしたんだっての!」

「ピンチなんだ!」

「お、おう……何がピンチなんだ?」

「フレンドがピンチなんだ!」

「どうピンチなんだ?」

「凄いピンチなんだ!」


 ――パンッ! と乾いた音。


 反射的に口を止めて、音の方向に顔を向ける。

 見れば、両手を合わせるナギの姿が。恐らく手を叩いて鳴らしたのだろう。


「はい。落ち着きました? ……それで、何がどうピンチなんです?」


 その言葉に、俺は意識をハッとさせた。

 焦りのなくなった頭を冷静に動かし、答える。


「……少し前にフレンドになった女の人が今、怪しい人たちに絡まれているみたいなんだ。もしかしたらPK集団かもしれないし、ただ単にナンパ目的かもしれない。どちらにしても、早く助けに行かなくちゃ……」

「そのフレンドさんは今どこに?」

「ええと……」


 慌てて、フレンド欄を開く。


「始まりの街、だね」

「うーん、あそこは出会い目的としてゲームを購入した人がゴロゴロいますし……そっちの可能性が高いですね」


 そうなのだ。サービスが開始されてから三日経つが、フィールドに出ることなく時間を過ごすプレイヤーが少なからず存在しているとネットで話題になっている。


 一部では『出会い厨の街』と呼ばれ始めているとか。


「どちらにせよ、すぐに助けにいかないとですね。……でも」


 ナギはそこで表情を曇らせて、


「徒歩で山頂まで行くのは、かなりの時間がかかりますよね……ダンジョンは一度クリアしていればワープができるけど、そこからまた歩いて始まりの街まで行くとなると……」


「――諦めんじゃねえ!!」


「「「わっ!?」」」


 急な大声に、俺たち三人は飛び上がった。


 ズンズンと大股で、一人の男が近づいてくる。


「前を向き続ければ……人は必ず報われる」


 尻餅をついた俺たちの間に入り込んできたのは、右目に傷のある筋肉質の男。相変わらず似合わない皮の衣服を身につけていた。


「だ、誰だこのオッサン!?」

「こ、こら! 初対面の相手に失礼でしょう!」


 戸惑う二人に対して俺は、


「おじさん!」


 謎の人物に、普通に手を振っていた。


 そんな俺に、目を丸くさせながらカイトは尋ねてくる。


「お、おじさん? ゼン、お前の親戚なのか?」

「いや、全然知らない人」

「ええっ!?」

「がはは。相変わらずキレッキレだな嬢ちゃん」


 おじさんは高らかに笑った後、すぐに顔を元に戻した。


「話は聞かせてもらったぜ。なら悠長に山を登っている時間はねえな」


 そう言い、ビルディックの外壁の横。崖を隔てた先にある続きの大地の方向を指差す。


「飛べ、嬢ちゃん」

「は、はぁ!?」


 疑問の声を上げたのは、カイトだった。


「ンなもん無理に決まってるだろ……です! そんなことができたらみんなやってるッスよ!」

「だろうな」


 冷静におじさんは答えた。

 そして、そのまま俺の顔を見つめて、


「だがな、嬢ちゃんならできる。俺の見込んだ女だ。不可能を可能にする力を持っているはず」

「……いや、彼は男の子なんですが」

「女は黙ってろやァ!!」

「ええっ!?」


 そんな騒ぎを余所に、俺は思考を巡らせていた。


 ……確かに、普通のルートを戻るのはダメだ。時間がかかり過ぎる。かといって飛ぶなんてこと……。


 考えながら、何気なく山の方向を見る。


 見れば外側は急な斜面になっていた。……外側はこうなっているのか。馬車の中から見ている時は全然気づかなかったなぁ。


 まるで、ちゃんとしたルートを通ってこい、と言っているようなものだ。あれじゃ派手に滑り落ちて地面に激突してしまうだろうし……。


「……すべ、る?」


 そこで、


「……ッ!」


 俺の思考に、電流が走った。


 素早く背中のバッグパックを手に持ち替え、おじさんに見せつける。


「ん? どうした嬢ちゃん。デメリットは多いが絶対に壊れないという耐久性を誇るその道具がどうかしたのか?」

「なるほど。ありがとう!」


 聞く前に知りたいことを教えてくれたおじさんに感謝すると、俺は駆け足で登山を始めた。



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