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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
13/94

12.新たな大地へ

 ふわり、と柔らかな風が頬を撫でる。


「……ん」


 目を開けると、そこには小さな星々が瞬く綺麗な夜空があった。どうやら寝転んでいるらしい。


「おおっ! ソロで突破したのか!」


 そこから視線を横に移動させると、プレイヤーたちの姿があった。


 よっこいしょ、と俺は上体を起こす。


 周囲を見渡してみると、ここがどこかの山頂だということが分かった。始まりの大地とは違い木々や岩などがフィールドに存在している。


『嬢ちゃんやるな! どんな手を使ったんだ?』

『武器スキルのレベルを上げてゴリ押し?』

『いや、ブーメランを持ってるぞ……あんな武器で複数のモンスターを相手にできるわけがない』


 ざわざわと盛り上がりを見せるプレイヤーたち。


 ここでようやく理解した。緑消の洞穴をクリアしたということを。最後の最後で致命傷を負ったと思ったけど、HPはギリギリ保たれていた。


 ……それにしても、やっぱりブーメランって貧弱そうに見られてるのか。頼りになるのになぁ。


「それで、どんな手を使ったんだ!?」


 そう尋ねてきたのは、最初に声を上げた若い青年だった。


 俺と同じ初期装備を身につけている。


「……あはは、たまたま運が良かっただけです。ずっと逃げ回ってましたし」


 笑ってそう返すと、青年は首を強く横に振った。


「それでも凄いよ! 僕なんか何回もPTを組み直してやっとクリアしたってのに……ここにいるほとんどがそうだよ。MOBが多いし強いし……」


 その出来事を思い出したのか、青年は深くため息を吐いた。


 確かに、あのダンジョンを真正面から突破しようものなら複数のMOBと戦わなければならない。一本道だから逃げ場もないし……。


 それを乗り越えて、あのダンジョンをクリアした彼らの方が凄いのに。


「そういえば、ずっと気になってたんだけどさ」


 青年はそう言うと、俺を指差した。


「それは?」


 俺は一瞬質問の意味が分からずキョトンとしていたが、すぐに理解した。


 膝に感じる、確かな重みを。


 下を向いてみると、そこには一つの箱が置かれていた。俺の頭二つ分くらいあるその物体は『宝箱』と呼べるだろう代物だった。


「あ、持ってきちゃったんだ……」


 ――というか、宝箱だったんだ。

 ――というか、ダンジョンの外に持ち運びできるんだ。


 色々な考えが浮かぶけど、とりあえず宝箱本来の使い方をしてみよう。


 周囲から期待感のある視線を受けながら、俺は蓋を開けた。突如、眩い光が宝箱の中から放たれて――



【コーヒーメーカー】ランク:F

効果

①粉末飲料を使用することができる。

②通常時はお湯が出る。入れ物があればアイテムポーチに追加できる。



 全くダンジョンと関係ない代物が出現した。


『……コーヒーメーカー?』

『こ、これは可哀想にもほどがある。普通ここは武器や防具だろ』

『むしろ現実で欲しい』


 先ほどとは違う意味でザワつくプレイヤーたち。


 俺もまた、今の気持ちを言葉に出していた。


「やったー!」


 と。


 どよめくプレイヤーたち。


 対照的に、俺は嬉しくて堪らなかった。……だって、旅といえばコーヒーだ!


 よく旅番組を見ていたけど、いつも締めに景色を眺めながらコーヒーを一杯やっていた。その姿に憧れて、いつかやってみたいと思っていた。

 だから再現ができるとなると、本当に嬉しい。


『お、おいお前……嬉しいか?』

『現実なら……いや、でもあそこまでは』

『素敵な笑顔だ。結婚したい』


 何やら盛り上がるプレイヤーたち。


 俺は彼らの会話をよそに、コーヒーメーカーをアイテムポーチに閉まった。そして歩き出す。


「ありがとうみなさん。またどこかで!」


 振り返り、両手を振ってプレイヤーたちに別れの挨拶すると、この場から離れていった。





 緩やかな斜面を下り、進んでいく。


 やがて、現実の時刻が十一時半を超えていたのを確認すると、見晴らしの良い場所に向かう。


 そして、アイテムポーチを開いた。


 取り出した物は、皮の寝袋。


 ぽん、と地面に出現したそれのチャックを開け、俺は中に入っていく。

 下半身を全て覆ったところで、ちらりと山の外に目を向ける。


「うはぁ……!」


 瞳に映り込んだのは、建物から幻想的な光を放つ巨大な都市。規模的には始まりの街の方が大きいけど、代わりに建物が驚くほど高かった。


 都市の光で周囲が照らされ、夜だというのにフィールドがよく確認できる。


 草原とは緑の数が遥かに劣るが、緩やかな地形をした広い丘だった。所々に木々が見え、都市から離れた位置には森もあった。


「楽しみだなぁ……」


 そう呟き、俺は寝袋の中に潜り込んだ。


 すると眼前に『ログアウトしますか?』とウィンドウが表示されたので「うん」と答えた。


 このゲームは、音声認識の機能もある。


 もし仮に現実で何かしらの障害があって、指を動かせなかったりする人がいたら、この機能は便利かもしれないなぁ。


「……あ」


 障害、その言葉で俺は思い出した。

 かくんかくん、と進み辛そうに歩く美女の姿を。


 もしかしたら――


 そこで、ゆっくりと俺の瞼が閉じた。


 景色が真っ暗になり、意識が遠退いていく。


 ……また、会えるかな?


 清楚に微笑む彼女の表情を思い返しながら、俺はこの世界から静かに消えていった。



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