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白ウサギのVRMMO世界旅  作者:
【第一章】白ウサギと打上花火
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9.緑消の洞穴①

会話パートです。

 両親は仕事の都合で遅くなることが多いため、晩御飯はよく俺が作っている。


 ……とは言っても、それほど料理が上手いわけではないので簡単な物しかできないけど。


 とりあえず今日はパスタを茹でて、あとはサラダでも作ろう。


 出来上がった料理を一人分の量を皿に盛りつけ、余りを両親用に取っておく。


『お仕事、お疲れさま』


 そうラップの上にメモを貼りつけて完了。


 他の作業を終えてシャワーを浴び、寝巻きに着替えると駆け足で自分の部屋に向かう。


 飛び込むようにしてベッドの上に身体を預けると、VRマシンを装着した。





 背中の感触が、ゴツゴツと硬く変わった。


 ……そうだ。高台に背中を預けてログアウトしたんだっけ。


 ゆっくり立ち上がり、上体をぐぐっと伸ばす。


 現実世界と仮想世界では、身体の重みや動きに違和感がある――といっても、些細なものだ。すぐに慣れると説明があった。


 何度か屈伸をしたり、足踏みをしたりして違和感をかき消していく。


「……よし」


 やがて慣れたところで、アイテムポーチに収納していたバッグパックを出現させる。そして、背負いながら歩き出した。


 現在のゲーム内時刻は昼。真上から降り注ぐ日光によって、気持ち良いほどに遠くまで景色が見渡せる。


『俺の獲物ォ!』

『わたしが先よッ!』

『邪魔すんなああああッ!』


 暴れ回るプレイヤーの姿がなければ、本当に良い景色なんだけど。……でも、お陰でスムーズにフィールドを歩くことができる。


 とりあえず、辺りを一周(柵は超えない範囲で)してみる。


……うーん、特に面白味はないな。柵の向こう側を見つめても、始まりの大地の時のように建物があったりもしなかった。本当にただの草原だ。


「先に進むか」


 俺は、次の都市に向かうことに決めた。


 武器を振り回すプレイヤーたちの脇を超え、先へ先へと歩いていく。


 MOBと遭遇することなく、都市との距離がみるみるうちに縮まっていき……あと十メートルほどだろうというところで、


 俺の足は、止まった。


「これじゃ……進めないな」


 そう呟いたのには、訳がある。


 何故ならば、目の前に道がなかったからだ。


 俺が立つ場所から都市の外壁までの間に何もなく、恐る恐る下を覗いてみたが底は見えなかった。一体どれだけの高さがあるのだろう。


 ……まさか広大な草原の端に崖があるなんて。


 でも、どうやって向こう側まで渡るんだろう? ジャンプして届く位置じゃないし……。


「お困りのようじゃねえか。運命に愛されし小娘よ」


 悩んでいると、一人のプレイヤーがこちらに歩み寄ってきた。


 まだ振り向いていないが、その人物の正体を理解できた。この変な言い回しと野太い声は、あの人物に間違いない。


「……おじさん」

「夕方ぶりだな嬢ちゃん。見たところ、次の都市への向かい方が分からねえようだな」


 おじさんはそう言うと、丸太のような腕を持ち上げ始めた。


「安心しろ。カギはあそこにある」


 ブゥン! と、迫力のある動作でおじさんが指差した先。都市を真っ直ぐに見る形から左を向くと、プレイヤーの集団があった。


 背中姿である彼らに歩み寄ると、その視線の先には洞穴があった。


 この存在を高台で見渡した時に気づかなかったのは、平坦な草地に平行する形で穴が作られていたからだ。


「この奥に、向こうの洞穴と繋がるワープゾーンがある」


 少しして追いついたおじさんは、細かく説明をしてくれた。


「ここは『緑消の洞穴』。ソロなら武器のスキルレベルが7以上あれば、なんとか突破できるかもしれん。だが、それ以下か……いや、以上でもPTは組んだ方が良い。序盤にしては中々厳しいダンジョンに設定されているからよ」


 ……PT、か。


 そういえば、まだ誰かと共に戦った経験がない。それに……組んでもらえるかどうかも心配だ。ブーメランだなんて物を武器に使う俺を。


 ちょっとプレイヤーたちの言葉に耳を傾けてみようか。


『武器スキルのレベルが7以上の人いるー!?』

『初期装備は悪いが受け入れられない』

『最低百回ぐらいは戦闘経験を積んで欲しい』


 うん、見事にどれも当てはまらない。

 それほど厳しいダンジョンなのかな……。


「ちなみにだが嬢ちゃん、このダンジョンは1パーティごとに異なるサーバーが用意されている」

「それって、つまり……」

「ああ。プレイヤーたちのお陰でここまで来た嬢ちゃんには非常に厳しい場所だな」


 ……どうしてそれを知っているのか謎だけど、まぁ気にしないでおこう。


 おじさんの言う通りなら、確かに厳しい。俺は戦闘経験が少ないし、武具もスキルも貧弱だ。ソロで挑むのは無謀に等しい。


(……でも)


 だからといって、戻ってレベル上げをしようとしても、膨大なプレイヤーの数に加え時間的にも全く戦えないだろう。十時以降になるとさらにプレイヤーの数が増えるのだ。


 それに明日は学校だ。両親に顔を見せたいし、十二時前には落ちなければならない。……それなら、試しにダンジョンの様子見をした方が効率が良い気がする。


「ふふ、その目……行く気だな?」

「はい。……あ、おじさんも一緒にどうです?」

「悪いが俺はまだその時じゃない。ここで嬢ちゃんの無事を祈っておくぜ。アディオス」

「はい。アディオス」


 俺は手を振って答え、その場から歩き始めた。


 洞穴の前にたどり着くと、ソロのためか周囲がザワつき始めたけど、気にしない気にしない。


 俺はそのまま、ぴょんっ、と洞穴に飛び込んだ。



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