洗礼
叙任式を終えたミリアとリキは、謁見の間へと通された。玉座に腰掛ける国王・王妃と、その娘である王女。王女が2人に向かって小さく手を振るのを見ると、年若い新人騎士達は肩の力を抜いた。
「……街で娘を助けてくれた御人というのが其方等か。礼を言う」
「助けた…というほど、大層なことはしておりません。私共が成すべきことをしたのみです。寧ろ、このように身分の知れない者を拾い上げて下さったこと、感謝しております」
「オr……自分もシーノも、命の限り王国と民を守ると誓います」
「うむ…期待しておるぞ」
柔らかく微笑む国王に最高敬礼をするミリアとリキ。その様子を、王妃は優しく見つめていた。
「…して、ミリア・シーノとやら」
「?」
「我が国の女騎士は其方が初めてだ。男臭いむさ苦しい環境に、其方のような女子が身一つで入ることの意味は…分かるな?」
「……」
パチクリと瞬きをし、ミリアが国王の顔を見返した。小さく笑って、言葉を返す。
「…『貞操の保障はない』、ですね」
「その通りだ。それだけではない。古参から中堅の兵士を敵に回す可能性もある。このような条件でも、騎士団に入りたいと思うか?」
「はい」
ミリアの自信に溢れた眼差し。それを一身に受けた国王は、一言「良かろう」と呟くと、傍らにいた男の騎士に声を掛けた。
「この者達を騎士団の元へ。」
「御意。………行くぞ」
頬に小さな傷痕の残る騎士に連れられて、ミリアとリキは謁見の間を後にした。
「…カナよ…本当に良いのか?青年の方は兎も角、女子の方は頼りなさそうに見えるのだが…」
「ミリアなら大丈夫だよ!すっごく強いんだから」
「しかしなぁ……」
「大丈夫。信じようよ」
3人が去った後の謁見の間で心配そうに眉間に皺を寄せる父親に、娘が笑いかけた。
静かな回廊を進む。
3人の間に会話はなく、ただ足音がコツコツと響くばかりだ。
「…」
「……」
「………」
重く伸し掛るような沈黙の中、リキがおずおずと口を開いた。
「貴方は、誰ですか」
「お前達の前に入団した一兵士だよ」
「…改めて、よろしくお願いします」
「…」
ジャキッ
「「!!」」
「へぇ………よく避けたな?」
ニヤニヤとした顔で構えた剣先を振る先輩騎士。挑発的な視線には、侮蔑の色も滲んでいた。
「女で騎士を志すなんて酔狂な奴が来たとは思ったが……コイツは驚きだ。組み敷いて犯すのも骨が折れそうだ」
「おかッ……!?」
「何で君が赤面するのさ」
「何でお前は平然としてんだよ!?」
「うるせぇよ」
下卑た笑みを浮かべた先輩騎士が、ボロボロの扉の前で止まった。恐らく、この扉の向こうに王国を守るべく東奔西走する騎士達がいるのだろう。先に入るように促されたミリアが部屋の扉に手を掛けて開くと、先輩騎士が彼女の背を押した。「あれ?」と思ったのも束の間。背後で聞こえた、扉の閉じる音。
ミリアは、1人で部屋の中に押し込まれたのだ。
「!?シーノ!?おい!!!!大丈夫か!?」
『大丈夫だよー』
「〜〜ッッアンタは一体何してんだよ!?俺達に剣を向けたり、シーノを閉じ込めたり!!めちゃくちゃじゃねぇか!!!!」