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 あれから弘美の右手が発見されたという報道はない。おそらく犯人が隠し持っているか処分された後なのだろう。

 

 岡島さんは弘美といた男について知らないと嘘を吐いた一方で、男が弘美の彼氏である事実を否定していた。

 ぼくがその男に危害を加えるとか、そういう風に考えているとすれば納得がいくものの、後者に関してはどうも本気で驚いていたようにしか見えない。


 だが実際にぼくは弘美に振られ、彼女は男と仲良さげにいた。岡島さんが何を言おうとこれは覆らない。


 つまりぼくが彼女から得た有益な情報は何一つとしてなかったことになる。


 暗澹たる気分で窓の外をうかがう。グレーの車はない。どうやら四六時中はりついてるというわけではなさそうだ。

 ノック音がして、玄関を振り返る。


 また警察か? それとも報道関係者か?


 内心うんざりする。無視してもこちらの立場が余計に悪くなるだけだろう。嫌々ながら玄関に向かう。


 「……どちら様?」


 誰何する声が我ながら不機嫌そうだと感じる。


 「岡島よ。岡島明奈」


 意外な人物にぼくの思考は一時的に停止してしまった。

 何しろ岡島さんがぼくをたずねる理由が何も存在しない。だいたい彼女はぼくが弘美を殺したと思い込んで警戒していたはずだ。


 岡島さんがここを訪れた訳が気になり、鍵をあけて扉を開く。


 「いきなりで悪いわね。会わせたい人がいるんだけど、いい?」


 「?」


 首を捻りながらも了承する。そのままサンダルをつっかけると岡島さんが制した。


 「ちょっと。その格好で外に出るつもり?」


 「ん? ああ、そうか……」


 今の僕の服装は寝巻代わりにしてるスウェット姿だ。おまけに起きてから顔も洗わず髪型も整えてない。

 いったんドアを閉めて簡単に身支度を整えて部屋を後にする。


 「それで? 会わせたい人っていうのは?」


 「会えば分かるわ」


 互いに交わした会話はそれきりで、後は無言だった。



 そうして連れてこられたのは近所の公園だった。大きな池には二三羽の白鳥が見える。

 その池から少し離れたところの休憩所に、一人の男が座っていた。ぼくたちの姿を認めるとその腰を浮かせる。

 小麦色の肌に体格のいい男――それはかつて弘美といたのと同一人物だった。


 「来ていただいてありがとうございます」


 ぼくが言葉を失っていると男はそんなことを言った。

 その腰の低さは以前とはまるで違う。どう対応するべきかこちらとしては戸惑うばかりだ。


 「ええと……どういうことですか?」


 ぼくはそう訊ねるのがやっとだった。


 「まず初めに言っておかなくてはいけないですね。ぼくは弘美の彼氏ではありません」


 男は断言する。それでも弘美を下の名前で呼んでいるのはひっかかる。

 だがそれも男の次に発した言葉で解消された。


 「ぼくは吾妻啓介……弘美の兄です」

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