表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Browin'The Wind

掲載日:2015/09/26

太宰の「彼は昔の彼ならず」の一節、He is not what he wasを繰り返し呟きながら彼は自分の過去に追憶を馳せていた。新宿、伊勢丹の屋上でスモッグと車塵で薄汚れた新宿の摩天楼を眺めながら。ゴールデンバットを口にくわえる。紙が唾で濡れる。フィルターがないため葉が唇に引っ付く。火をつけ煙を肺一杯に入れる。ほのかなラム酒の匂いとともに強い苦みが舌を刺す。ゴールデンバットを吸っているのは敬愛する太宰が愛飲していたからだ。

最初のうちはヤニクラを起こして、吐くほど酷かったが、徐々に濃厚な煙が心地よく感じられ、両切りにも慣れた。肺いっぱいまで煙を入れる。煙が肺胞を通じ、血に染まる。ニコチンが全身を駆け巡る。目が虚ろになるのを感じながら、それを愛おしく感じながら、孤独にふけながから。タバコを吸うという行為は、嫌ながらも自分の肉体と向け合わなければならない。ニコチンとタールが体を縛り付ける。人にはこれが見えない。人はタバコを吸うということは、ただ単に体がニコチンを欲している、つまりニコチンによる禁断症状として求めるものと決めつけている。しかしそれは違う。タバコを吸う行為は単純に孤独になりたいからだ。だから人と話すときは彼はいつもタバコを咥えていた。

伊勢丹から見下ろす景色の中には、都市生活に洗練された人々が、それが、彼を滅入らせる。

イヤホンを耳に入れRadioheadのLet downにチューンした。

Transport, motorways and tramlines

Starting and then stopping

Taking off and landing

The emptiest of feelings

Disappointed people clinging on to bottles

And when it comes it's so so disappointing


輸送船、高速道路、線路

動き出し、また止まる

離陸し、また地面に戻っていく

心の空虚さ

絶望した人々が瓶に群がって登っている

そうなった時は、本当に最悪なんだ


彼はまさに、心の空虚さに、瓶に群がって絶望していた。ニヒリズム。空虚さは彼の心を蝕んで打ちのめされていた。


Let down and hanging around

Crushed like a bug in the ground

Let down and hanging around


打ちのめされて、はいずりまわって

虫のように地面につぶされて

打ちのめされて、はいずりまわって


かつてはそうではなかったのに。かつてはそうではなかったのに。かつてはそうではなかったのに…


かつての彼。毎朝が希望に満ち満ち朝日が彼の顔に降り注いでいた、He was what he was.

今の彼にはこの掠れた新宿が似合いだ。ボヤけて灰色の新宿。仮面の街。誰が誰だか分からない他人の顔。

太宰が「彼は昔の彼ならず」で表現したことは、人間の多角性であった。しかし、今の彼は…

吸い殻を屋上から投げ捨てる。吸い殻は地面に届くまでに分散して風に運ばれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ