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十六章~イスカの嘴の食い違い~

 グェェェェとつんざくような声がして、はっと目覚めるとそこは、揺れるモノレールの中であった。

 落ちていない。いやしくも現代のテクノロジーが、そのような大参事につながる可能性をみすみす看過するはずがない。僕らなんかのみずもり勘定なんかと違って、文明は道を過たず、刻々と変化し続ける。失敗が生まれないよう、細心の注意を払って……神経をすり減らして。

 僕はモノレールの車内を見渡してみた――新聞を開いたり、スマートフォンを見たり、隣の人と歓談していたり……どれもこれも、ごくありふれた、朝の光景だ。何も変わらない。僕が眠る前と、眠りから醒めた後とで、日常は何も変化しない。たった一分の仮眠ともいえない須臾の間に生ずる変化といえば、せいぜい決められたルート通りに進むモノレールが分速で示される距離を消化したにすぎない。

 しかしそれでも……僕は変わっていた。分速何メートルの移動距離分の変化でしかない窓外の街並みを見て、大して変わり映えのしないそれを見て、僕がそれまでと変わっていたのを肌で感じた。

 もとよりすこぶるつきの変人ではあったが……それでも僕は、夢を見る前と後とで、変わっていたのだ。

「……ありがとう」

 僕は息詰まりのするようなモノレール内で、目前の女性に聞こえるか聞こえないかのぎりぎりの小さな声で告げた。女性は狭い中、首をねじ向けるようにしてこちらを向いた……。

「きみのおかげで、僕は助かった」

「……はい?」

 頓狂な声で、訊き返す。白いファーつきのジャンパーを着た女性は、見たこともない顔立ちだった。そりゃそうだ、と僕は思う。

 ……そもそもあの高校で図書委員を真面目にやっていたのは、僕くらいなものだったのだ。

 鳥の声は、つがいになった。折り重なり飛行する様が、眼に浮かぶ。彼らの求愛の声は、傍から聞けば、叫んでいるばかりにも思えてくるが……決して耳を潤すウグイスのような、美々しいそれではなかったが……。

 僕は美しくなれるよう……なにかを心から愛せるよう、努力しようと思った。

 モノレールは停まった。僕は踏みだした駅の名を、天国のように発音することだろう。


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