まさかの?
何時だったか、もう思い出す事は無いけれど、鮮明に覚えているものが確かに存在する。
いつも暇な時には見上げては、今日も一日平和だね。と思い見上げていたあの空。
その時見た空の色はとても蒼く鮮明に見えた。
その記憶しかないけれど、何故こんな事を思うのかはきっと、私が私じゃないからだろう。
キューイと共に樹海を歩き続けた私はふとその場に立ち止り、空を見上げた。
こちらの空の色はあちらと同じく蒼く観える。
でも、私が今見ているこの空の蒼さはまるで...まるで涙の様に悲しみを含み、水の様に透明にも見える。
(あぁ...私は本当に別の世界に居るんだな...。)
家族も、友も此方にはいない。
ましてや知人なども居ない。
私はこの世界で、一人の者になったのだ。
ここが死後の世界ならばまだ安心感もあっただろう。
ここが夢の世界と言うのならば一番それが楽だっただろう。
しかし、ここは紛れもなく生きた世界。
そんな中、私は一人なのだ。
「マスター?如何しました?空でも見上げて何かありましたか?」
私の先頭を歩いていたキューイが心配そうにこちらの顔を伺う。
恐らく長い間空を見上げていたのだろう。
余計な心配をかけさせてしまったな。今度からは感傷に浸る時は時と場合を選ぼうと私は誓うのだった。
「ごめんごめん何でも無いよ。ただ空の色が気になっただけだから心配しないで良いよ。立ち止まったりしてごめんな。さ、行こうか。」
恐るべき殺人植物が徘徊するこの樹海で立ち止まったりしたら危険極まりない行動だ。
もう私は私ではないのだからしっかりしなければならない。
この体の本来の持ち主もきっと前を向くはずだろう。
それこそが、人である証明なのだから。
「本当にそれだけですか?マスターは何かと考えやすいんですからもっと気楽に流しましょう!」
「......うわー。まさかキューイの口からそんな言葉が出て来るなんて思ってもみなかったよ。」
「わ、私とて流す時もありますよ!」
「じゃあその時が来るのを楽しみにしておくよ。」
「......は、はい。」
キューイの意外な一面が見れて本当に有りがたいです。
もしも私がキューイと出会わなければ即バッドエンドでしょうね。
それこそ本当に死後の世界に突入するようにな!
キューイと楽しい会話をしながら樹海を突き進んでいく。
私は本当に女に生まれてよかったと思ったことはこれ以上ないだろうね。
まぁ、実際は男ですがそこは流していただきたいな。
樹海を突き進むんでいたが、驚くべきことに一度もモンスターらしい生き物は出てこなかった。
殺人植物が徘徊しているのだからもっとちがうエリアボス的な奴がいるのかと身構えたが、、、そんな奴はいない!
もしかしたら、これは私の頭の上ですやすや眠りこけているひy...じゃなくてピコのヤキトリのお陰だと思う。
だってこいつ精霊石(?)から出てきたしな!
一見ただのHIYOKOだけどな!黄色じゃなくてそれも緑色のな!
「と言うか、思った以上に食料ってあるものなんだね。ちょっと感心した、って言うか私の知識が偏り過ぎなんだろうな。」
「マスターが驚くのも無理はありませんよね。私も驚いています。」
「だよねぇ~、あちこちに木の実や飲み水があるんだもん。こんなに沢山あって良いのかって思うよね~」
「そうですね。300年前はこんなに緑や食料は溢れてはいませんでしたから。」
「ヌーマの涙の影響って本当に強大だね。」
「えぇ、ですからマスターは兎に角私の傍からなるべく離れないで下さいね。私が知っている時代でもありませんから...。」
「キューイ...。」
彼女が時折見せる悲しみと不安が入り混じった表情。
それは故国を救えなかった自身からなのか、それとも別の何かか。
まぁ、キューイの心配はきっと年越し苦労になる事だけは保証しよう。
何度も言うかもしれないが、私は
「今この世界でもっとも死亡フラグが高い人間なんだよ、私は?そんな人間が君みたいな可愛い娘から離れて見なよ?直ぐに死ぬ。だからさ、キューイ、絶対とは言わないけど安心してよ。君からなら兎も角、私から君の傍を離れることは無い。これくらいなら約束できるよ?」
「......!」
キューイの顔がほんのり赤みを帯びる。
いや、別に深い意味は無いんだよ?
この世界ってある意味恐怖の宝箱だし、何が出て来ても笑えない。
さっきの殺人植物だって、どこかのゲームに出てきそうだし。
「まぁ弱弱しい私が言った所で、何の気休めにもならない。」
「い...!い、いえそんな、私は別にマスターが弱弱しいだなんて思ってはいません!貴方様は私を、あの深い水の底から救い上げて下さった、ただ一人の方です!私はそんな貴方の...全てに成りたいのです。」
「お、ぉお?」
「ですが......約束をしていただけるのならばお願いしてもよろしいですか?」
上眼遣いでお願い...しかもかなりの美少女。
...これは、アレだな。
うん。まぁ、その、あれだ。
いやぁ、私は別に深い意味は全く決してないんだけども、、、。
何でかな?もしかしてこの世界もどこかのゲームで、お、女の子を口説き落とすゲームなんですかね?
私もやった事はあるけど、、、正直恥ずかしかった。
何がって?主人公の台詞が非常に恥ずかしかった...。
あぁ、思い出しただけでむず痒くなってきた!
そんな感覚に、今私は襲われています...誰か助けて!!!
「マスター?」
「はっ!?いかん、意識が飛びかけた。」
「大丈夫ですか?もしやお身体に何か異常が?」
「いや大丈夫、体に異常があっても私以上に異常な者は居ないよ。」
「其れなら...良いのですが。」
「ははは、心配してくれてありがとうキューイ。」
「当然の事までです。」
「いやいや、本当にありがとう。君の優しさだけで私は生きて行けるよ...。」
そう言って私はキューイの頭を撫でる。
あ、そう言えば私(身体が)男だった...。
これってセクハラになるの?な、ならないよね?
ちょっと頭を撫でてるだけだし、、、だ、駄目かなぁ?キュ、キューイさん?
「八ッ!?な、何か!?」
「これって、、、セクハラになりますか?な、なりませんよねぇ?」
「セクハラ?何ですかそれ?マスターの世界の言葉ですか?」
「えっ!?ま、まぁそんなところかな?ところでキューイは...私がこんな風に撫でたら...ふ、不快に感じますか?」
こ、声が上擦る。
これでもしもキューイが嫌がったら、私は終わる。
第二の人生幕を閉じる、、、完
みたいに終わる。
「......ぃ。」
「い?」
運命の瞬間?
ビックバン?
宇宙の誕生?
否、これこそが私の分岐点。
決して避けて通れぬ道があると言うものだ。
もしもここで、いや、が出ても私はこっそり泣こう。
「......ゃ、じゃないです。」
「そ、ソウカ......アリガトウ。」
顔を真っ赤にしながら答えはまさかのNO。
これが驚かずに何という?
何と言うか、攻略キャラクターに、逆に攻略されてる気分だ...。
キューイは嫌がってないし、可愛いし。
何だろこれ?