ピヨ?
新しい者の匂いがする。
柔らかく、森のような優しい匂い。
どんな人だろう?どこからやって来たのだろう?
あぁ、では会いに行こう。
きっとすぐに会える...。
自然を汚すと己に帰ってくる。
お婆ちゃんが昔言っていたのを思い出し、地面を踏みつけるのを止めた。
報復されるとか洒落にならない。
今の私は、何もできない役立たず。
むやみやたらと喧嘩を売ったら、私は確実に死ぬ。自然を大切にしよう。うん、緑化運動でも始めようかな?
「あ、ところでキューイ。君に見て欲しい物があるんだ。」
「私に?」
「うん。前の私が所持していた荷物なんだけど、意味不明な物が多くて困ってるんだ。キューイが分かるものでいいから教えて欲しい。」
そう言って腰に巻いていたポシェット型の鞄から荷物を取り出す。
意味不明な形をした翠色の石。
カラのビン。
鳥の形をした小さな水晶。
布が2枚。
そして...メジャー。
生前のこの身体よ、お前はなんでこんなもの持ってたの?
どうやって活用してたの?使い方があるんならメモでも残しておいて欲しかった。
キューイの目の前に並べるとキューイは驚いた顔でそれを見た。
「マスター...これは。まさかここでこんな物に出会えるなんて...。」
「え?なに?これってそんなにも珍しいの?」
「珍しいのどころではありません。寧ろ伝説にもなってます。」
「______は?」
「私も見るのは初めてですが、これは紛れもなく、精霊石です。」
精霊石、と呼ばれるのは勿論、この意味不明な形をした翠色の石である。
随分と大層な名前ですこと...てかなんで伝説になってる物持ってたの私?
「精霊石って売ったら幾らするかな?」
半分冗談で聞いて見た。
「........大陸一つくらいは容易いでしょう。」
「........そんなに価値あるの?!大陸一つは大袈裟でしょ?」
想像以上の物でした。
まじで生前の私、どうやって手にいれたの?
どこかに売るつもりでした?大陸を買うなんて、もはや買い物の領域を超えている。
「いいえ。大袈裟ではありませんよ。精霊石とは精霊の力が凝縮された奇跡の石。それさえあれば、魔力持ちではない者も容易く魔法を使えるのです。」
「壊そう!こんな物騒なもの直ちにぶっ壊そう!」
もしもどこかでぽろっと落としたらアウト!
大陸一つが犠牲になりそうだ...。
精霊石を鷲掴み、思いっきり近くにあった岩に投げる。
「せい.....やっ!!!」
ヒュッ!ドゴォオ!!!
岩と共に精霊石粉砕!やったね!これで大陸の恐怖は過ぎ去った!
「ふぅ〜。これでよし。あ、でもキューイはどうしてあの意味不明な形をした石が精霊石だって分かったんだ?翠色の石は珍しいかもしれないけど、それだけだろ?」
地球にいたころも翠色の石なんて見たことがなかった。
苔まみれの石なら何度も見たことがあるけど、くすんではいたが鮮やかな翠色をした石は初めて見た。
磨けばもしやエメラルドグリーンだったかもしれない。
「確かに、翠色の石はこの世界にとって珍しい部類の物ですが、それよりも魔力が溢れているのが何よりの証拠ですから、きっと誰が見ても分かりますよ。例えそれが、魔力持ちでは無かったとしても...。」
「壊して良かった!そんなあぶねぇ石持ってたなんて思い出しただけでも怖いわ!」
チラッと精霊石を投げた方へ目を向けると、なんと!砕けた精霊石が元の形に戻っていくではないか!
「ッ...マスター!お下がりください!」
私を守るようにキューイが背中を私に向ける。本当なら立場は逆だけど、私が出たら帰って危険になってしまう。
ここはキューイに頼るしかない。
「任せるよキューイ。」
「仰せのままに我が主。」
そして、精霊石に警戒するが、キューイはみたところ武器を所持してはいない。
だけど、武器を持っていなくてもキューイは強いってオーラが語ってる気がする。
精霊石はと言えば、なんか意味不明な形が君の悪い形になったりしていた。
「なんか...気色が悪いなアレ。本当に精霊石か?伸びたり縮んだりしてるけど?」
「私も見るのは初めてなので何と言えばいいのか...!マスター!」
「ん?って眩しっ!!!」
突然光に襲われ、思わず目をつむる。
恐らく精霊石が原因だろうが、見えない!
目を開けると失明するぞ!って本能が警報出してる。
「くっ...!」
「キューイ!目は開けるなよ!この光は目に強すぎる!」
「はい...!」
光はたった数秒だけだったが、私にとっては永遠に続くかと思う程苦痛だった。特に目な。
「あ、キューイ。まだ目を開けるなよ。」
「はい。」
一瞬とはいえ強烈な光を見てしまったのだ。
今暫く目を落ち着かさせなければ逆に危ない。影があれば大分落ち着くが、今動けば何が
起きるか分からない。じっとしているのがまだマシだろう。
しかし........何故だろうな?頭に違和感を感じるのは?
なにか...こう...鳥の巣にされてるって感じがする。
しかもモゾモゾ動いてるよな?
恐る恐る手を頭に伸ばすと...。
暖かいものが...いったぁああああああ!
「ってぇええ!突かれた!なんか頭にいる!私の頭になんかいる!って!突くな!禿げる!」
く...目を開けれないから何がいるのかも分からない!しかし!それよりも頭を突くな!地味に痛いよ!?
「マスター!?一体何が?!」
「頭になんかいるんだよ!やべえ、私の頭を巣にしてる?!」
私の髪が危機的状況に陥ってる!
アフロでもないよね?!
というかなんで私の頭に居るんですか?!
「マスター、私の目はもう大丈夫です。なので落ち着いてください。」
「キュ、キューイ...君って娘は本当に...。」
キューイのお父さんお母さん、キューイをこんないい娘に育ててくれてありがとうございます。
いいお嫁さんになるよキューイ...応援するからいい男をGETしろよ!
神様仏様キューイ様!私はキューイの応援団長になる!
「.............。」
あれ?なんかキューイが黙ちゃった。
どうしたんだ?
「キューイ?」
「......ハッ!」
「大丈夫か?私の頭がもしかして禿げてる?!」
「いいえ!...ま、マスターの頭には...。」
「頭には...?」
緊張感が迸る。
ゴクリと喉を鳴らす。
一体何があるというのだろうか?...私の頭に。
「その...ピコが...。」
「ピコ?」
この世界の動物だと思うが...仕方ない...目を開けるか。
ゆっくり瞼を開ける。
まだ少しクラクラするが、まだマシだ。
眼前にはキューイが困った顔で笑っている。そして、ピコの正体を知るために、頭を振る。
ベチ!
「お、やっと落ち____た?」
ピコの正体...それは、なんと...。
「ピィ〜!」
「ひよこ?しかも翠色のひよこ?!可愛いけど私が知ってるひよこじゃない!」
そう、ピコの正体はひよこだった。
しかも翠色の、ね。
品種改良でもしちゃったの?
翠は目に優しい色って言うけどさ、これは...ちょっとやり過ぎでしょ?
「マスターの頭が居心地良いのでしょうか?飛び跳ねてます。」
「いやいや、ちょっと待て。精霊石はどこ行ったよ?こいつの存在で忘れてたけど、閃光放ったあの精霊石は?さっきまであそこにあっただろ?」
精霊石は先程の閃光を放ち、その後消えた。
砕けた跡も残ってはいない。
「変...ですね。」
となると、残る答えは一つしかない。
「このひよこが精霊石だろ?翠だし、タイミングが良すぎる。」
あの閃光の後に私の頭に違和感があったし、これほど疑い深いことはない。
「マスターがそう仰るのならそうでしょうが....先程から言ってますがひよことは?」
「あ、あぁ。ピコの事を私がいた地球ではひよこと呼ばれてたんだ。鶏っていう鳥の幼少期でな、色は黄色だったな。」
「成る程...マスターの世界は興味深いですね。」
「それはお互い様だ。私にとってはこちらの世界の方がよっぽど興味深いよ。」
動き回る殺人植物。
精霊。
世界。
どれをとっても私にとって未知に溢れている。最初のは...あれだけど。
「ピィピィ〜!」
私の足元で無くひよこ...ではなくピコ。
はやく巣に帰らせろってか?
「なぁキューイ?こいつって成長したらなにになるんだ?」
「ピコですか?そうですね、ピコは成長すると大型鳥類のピルトになります。」
「に、鶏じゃないんだ....。」
「えぇ、大人を最大5人まで背に載せて飛ぶことが出来たり、家禽用・観賞用・愛玩用など様々です。」
「めちゃくちゃ活用されてんな?!」
この世界の鳥類王だな。
寧ろ鶏よりも凄くないか?!
このピコも成長したら飛ぶのか?!
「はい。大陸のほとんどにピルトは存在し、良き関係を築けてます。色や性格も様々などで楽しめますよ。」
「そ、そうなんだ。ちなみに...こいつ以外の翠色もいる?」
「います。」
即答。
「なら問題ないか。私の頭を巣にしてていいぞ『ヤキトリ』」
優しく持って頭に乗せる。
定位置に置くと、フサフサと私の髪を確かめた後、ヤキトリはそのまま眠ってしまった。
「宜しいのですか?名前まで付けて....。」
「良いんだよ。こいつが精霊石から産まれたとしても、そんな力はなさそうだし、ここで死なれても後味が悪い。それなら頭で眠ってもらった方が助かる。」
伝説の石からピコが出てきた〜、なんて誰も分からないし、信じられない。
言ったら言ったらで信じたアホ共がこいつを奪おうとするだろうし面倒だ。
「そんな勿体ないことするよりも、こいつを育ててピルトにして、背中に乗せて欲しい!と言うか、それ以外考えられない!」
「マスターの欲は健全ですね。」
「だろ?」
こうして、私の頭には精霊石から産まれたであろうピコのヤキトリが住み着くことになった。
精霊石
形・色などは不明。
どうやって出来るのかも未だに検討つかず。
分かっているのは精霊、つまり自然の力が凝縮された奇跡の石であること。
溢れ出す魔力は生命に力を与え、生命亡き者に新たな命を授けると言われるが、伝説と言われる程目撃例は無い。
ただ、奇妙な噂がある。
精霊石を持つものはこの世の者ではない。