国は王、王は民
オールバックの髪形をして、焦げ茶色の髪の色で、何故か半裸の格好で浅瀬の海を迷っていたダーギストの国王を拾いました。
「いっやぁ~俺は運がいいなぁ~!あっはっはっはっは!!!」
豪快だ...何もかもが豪快だ。
キューイの言う通り、ダーギストがお祭り好きなのはきっとこの王様あってのお祭り大国だろう。
というか、本当に王様がなんで外に出てんだよ?せめて護衛を付けて出歩けよ、あんた目見えてないだろうが!
「おいおい、坊主。俺だってちゃんと護衛くらい付けてたんだぜ?だけどあいつ等...俺がちょぉっと目を離したら居なくなりやがったんだ。全く仕方のねぇ奴らだ」
「いや...それ絶対にあんたが逸れたんだよ。と言うか俺の何を読んだ?」
「おっ!分かるのか?!嬉しいねぇ...」
「マスター?」
キューイは分からないようだが、目の前の王様はニヤニヤと私を見る。
好奇心と、喜びと、期待の眼差しを込めて...
「ダーギストは王を民の中から選ぶんだ」
「民の中から?王族からではないのか?」
「はっはっは!まぁ普通はそうだな。だが、300年前の天変地異の影響が、後天的に出た国の一つなんだ」
「? どういう事だ?お祭り大陸じゃないのか?」
「いやそれは変わらん国のルールみたいなもんだ。あの天変地異はな、民に影響は出なかったが王に影響が出たんだ」
「「!?」」
国にとって王は象徴であり、証であり、誇るべき者。
王は国であり、支えであり、盾でもある。
そんな王に支障が出てしまえば国はどうなる?
支えを失った土台など、直ぐに崩れ落ちる。
「そう。あの天変地異はこの世界に広がり、300年たってもその傷は癒える事無く今も残り続けている。ここまでは知ってるだろ?」
「あ、あぁ勿論」
本当はキューイに聞いただけなんですけどね。
「あの天変地異が収まって暫く経つと、各大陸の王に異変が起き始めた。」
「お...王だけですか?」
「あぁ、不思議な事にな。お前ら、あの天変地異の本質は知ってんのか?」
「・・・・拒絶、だろ?」
「おぉ!流石だな!そうだ、拒絶だ。それが各王に出はじめたんだ」
何らかの拒絶が王に発症し始め、各王はそれぞれ何かを拒絶された。
じゃあ、この王は...
「ダーギストの王は、光を見る事を拒絶された。」
それはもう、永遠に光を見る事は出来ない。
それに、一生を暗闇で過ごす事になる。
これが...ヌーマの涙の拒絶。
一切の光をも遮断する。
即ち、目を奪う、という事。
「まぁ『この情報は極秘中の極秘だから誰にも何一つ喋んな』って言われてたっけな?まぁいっか!!!あっはっはっはっは!!!」
思わずずっこけそうになった身体を踏ん張った。
この人嘘はつけそうにないだろうな...寧ろなんじゃ其れ?ダーッ八ッハッハ!って言いそうだ。
いや間違いなく言うだろう。この王様あってのダーギスト...あぁ、今更ながら行くのが怖くなった。
「ダーギスト王よ、一つ聞きたいことがあります」
「ん?なんだ嬢ちゃん?何でも聞いてくれ!」
おい、王よ...それでいいのか?それで?
あんたの部下の溜息が聞こえた気がするぞ?
「...クワィトルツェの...いえ、やはり何でもありません。先ほどの言葉は流してください」
「......はいよ。可愛い嬢ちゃんの頼みだ。流してやろう」
「ありがとうございます。ではピルトの準備にかかりますので私は失礼します」
キューイはそう言うと、踵を返しピルトが飛び立つ準備をし始めた。
その後姿をターギスト王は興味深そうに見つめるのだった。
「あんた、気づいてんだろ?」
「はて?何に気付くって?」
「キューイの正体に」
「ふっ、かっかっか!あぁ、気づいているさ。あんな嬢ちゃんに出会えるなんてな、シャバはやはりいい!抜け出してもいいくらいだ!」
「王様だろ...」
「なに、王とて人に変わりはない。祭りを上げても俺は王。観戦することしか出来なんだ」
「それは...目が見えないからか?」
「いいや、ただの線引さ。王は人だが、同時に国でもある。坊主、ダーギストの王は民から生まれる、と俺は言ったな?」
「ん?そう言えばそんな事言ってたな...あんたも普通の出から王になったのか?」
「そうだ、坊主には言っておいてやろう。ダーギストはな、300年前に一度滅んだんだ」
............は?
何だって?良く聞こえなかったな?
「悪いけど...もう一回言ってくんね?良く聞こえなかったわ」
「ダーギストは一度滅んだ」
やはり良く聞こえなかったな...
この王様何言った?
ほろ、、、ホロー?
「だから、ダーギストは滅んだんだ」
「......。」
開いた口が塞がらない。
ましてや声も出ない。
なにこれ?どゆことですか?
「滅んだ...って...え?」
「300年前のあの天変地異で、ダーギストの王や王族は皆死んじまった。それで国が崩壊したのさ」
「はぁ?!だったら何で?!」
「王が死んだ事は、民には知らせなかった。最悪の事態を防ぐ為にな」
「......意味が分からん」
「まぁ俺も難しい事は知らん。と言うか聞いてなかった!」
「聞いとけよっ!?大事、大事な部分だから!本当に大事だから!」
「がっはっは!詳しい内容は城に居る俺の部下に聞いてくれ!」
......なんだろう。
美味しい部分をお預けされた気分だ。
それに...クワィトルツェ以外にも滅んだ国はあったのか...
いや、滅んだのは内政だけで、王が死んだことを隠したのは、新しい王を決める為の時間稼ぎか?
分からない事だが折角だ、城に行っていろいろ聞くのも悪くは無いだろう...
「マスター、準備が整いました。いつでも行けます」
「分かった...行こう。ダーギストに...」
再び大空へ飛翔するピルトの背には、新たな客人が一人、追加されるのだった。
次回からダーギスト編に突入