拾い者
ピルトは...
それはそれは大きな大きな...鳥っぽい巨大生物でした。
猛禽類のしっかりした鉤爪と、獲物を遠くからでも見つけられそうな眼。
そして、何よりもびっくりしたのが、嘴が雀かよっ!って言いたくなるようなのと、全身の羽毛が...
「橙色...いやオレンジ色?」
そう。全身の隅々まで橙色。
翼も橙
爪も橙
瞳も橙
全てがザ・オ~レンジで染まっている。
「うわぁ、なんだかスプラッシュ気分を味わえるよ」
「スプラッシュ気分?何ですかそれ?」
「そうだな...とても爽やかになります、って事」
「成るほど、私も覚えておきます」
「いや覚えるほどでもないと思うんだけど...まぁいいか」
キューイによると、どうやらピコはどんなに離れていても仲間のピルトを呼べるらしく、先ほどのアレは『ちょっと困ってるから誰か助けてくんろ~』の合図らしい。
どんなに離れていても助けてくれる...凄い種族だな。
それにピルトはとても人懐っこい。
現に私の顔を自らの体毛に埋めている。
フサフサしていてとても暖かいっす。
しかしギュウギュウ押し付けなくても私は逃げも隠れも出来ないんで落ち着いて欲しい。
「随分と懐かれましたねマスター」
「ふが?!ファンふぇくふふぉふぉふぉふぁくん?!!!」
訳 ウソ?!これ懐いてんの?!!!
ふかふかの羽毛で私を窒息死させる魂胆かと思ったがそうではないみたいだ。
自らの体毛を...ではなく羽毛を他者へ擦り付けるのは一種のアプローチらしい。
...私人生でこれほどフサフサなアプローチ貰ったの初めてです。
「でもこれでダーギストへ直ぐに着きますよ。」
「ぷはっ!...この子に乗せてもらうの?」
「はい。大丈夫です、騎乗はお任せを」
......なんやこの何でも出来るヒロインは?
無能の私と比べて何が楽しい?!私のSAN値を削って楽しいか?!
戦闘できる、乗り物お任せ、これで炊事が出来たら私は役立たずのレッテルを張られる。
いや、もう貼られてるかな。
「どうしましたマスター?準備が出来ましたよ?」
「あぁうん。」
キューイはピルトの背に乗り、ピルトを屈ませた。
こんな巨大鳥類に騎乗するなどゲームの中でしか味わえないかと思ったが、二度目の人生は結構色々と味わえそうだ。
私はキューイの後ろに乗った。
「あの...キューイさん。私は何処を持てばよろしいのでしょうか?」
キューイは何処から出したのか分からない手綱があるとして、私は何処を持てばいい?!
こんなフサフサな羽毛の何処を掴めとおっしゃるんですか?!
まさか美味しいシチュエーションで、キューイの横腹ですって言った奴はお父さんに殺されればいい!!!
「じゃあ肩をしっかり掴んでいて下さい」
「ラジャー!!!」
私の心配は要らなかった。
私がキューイの肩を掴むと、キューイはピルトの手綱を振るった。
大きな翼を広げ、ピルトは大空へ上る。
「うわぁ...」
その光景に私は息をのんだ。
圧巻された、と言っても良い。
光をも反射しない浅瀬が果てしなく広がっている。
こんな光景は生まれて初めて見る。
勿論、鳥の背に乗って、と言うのも初めてだ。
きょろきょろと周りを見ると、不自然な現象が起こっている所があった。
「ねぇ、キューイ。なんだか竜巻が見えるのは気のせいかい?」
「竜巻?......あぁ、あそこが300年たってなお、ヌーマの涙から縛られている国。エルドですよマスター」
「あそこが...」
距離があるのでその竜巻は小さく見えるが、実際に近づいたらその大きさは計り知れない。
多分近づいただけで吹っ飛ばされる。
テレビでも牛が飛ばされるなんてこともあったし、人なら紙のように吹き飛ばされるのだろう。
そう考えたら背筋が凍る。
「いつかエルドにも行くことがあるのかな...?」
「ふふ、どうでしょうね。でもマスターが行きたいのであれば私は竜巻になんて負けませんからご安心を」
「いやそこは安心できませんからね?!そういうのは無謀って言うんです!決して勇敢ではないからね?!」
「冗談ですよマスター。」
「君が言うと冗談を実行してしまいそうだ...」
そうですね、とキューイは笑う。
竜巻に向かって行くキューイを想像したのは言うまい。
「ぉ~ぃ......!!!」
すると何処からか小さいが声が聞こえた。
「キューイ。止まってくれ」
「はい」
キューイはピルトを上空で止まらせた。
先ほどの声はあまりにも小さくてか細かったので気のせいかと思ったが、そうでもなかった。
「お~い!ここだ~~~!!!」
今度ははっきりと聞こえた。
それは真下からの聞こえてくるものだった。
よく見ると、何と浅瀬のど真ん中に人がいるではないか!
「キューイ降りよう」
「...よろしいので?」
「ふふん!いざとなったら助けてくれよ?キューイ」
「了解しました...マスター」
若干渋ったがキューイは下降してくれた。
「いやぁ~助かった!こんなだだっ広い場所で迷っちまってよ~国に帰れなくなるところだった!」
ガハハハハ!と豪快に笑う男が居た。
しかし...上半身は、裸だ...!
腰に布一枚巻きつけたような格好で良いのか?!
この世界って裸族が蔓延ってるのか?!
それとも私の常識がおかしいのか?!
「お下がりくださいマスター。やはりこの男、危険です」
「いやいや女の子である君の方が危ないからね?!無理して庇おうとしなくていいって!?」
キューイは両足に装備していた長さが違う双剣を持ち、男を警戒...いや襲い掛からんとしている。
「なんだぁ?えらく殺気だった嬢ちゃんが居るもんだ。やっぱりシャバは面白いなぁ~!!!」
「なぁ......もしかしてあんた、見えてないのか?」
疑問に思ったのが口に出てしまった。
そう、この男、私達を一切目を合わせていない。
「ほぉ...気づく者が居るんだな。そうだ、お前の言う通り俺は見えていない。あれだ、盲目ってやつだ」
「見えていない?...ならば何故一人でこんな場所まで居る?」
「まぁそう警戒しなくていい。ただ単に城が退屈になっただけだ」
「「...城?」」
「おう!俺の城だ!そういやぁ名乗って無かったな、俺の名前はフェベール・ダーギスト。これで会ったのも何かの縁だ仲良くしようや、お二人さん?」
ダーギスト...城...まさかの国王?!
私達が拾った男は、目的地の国王だった。