birthday・time・online
「…………」
えーっと、今の状況は……。
考えようと思った時、あのプレイヤーがこちらに突進してくる。少し赤く光っているナイフ……。多分あれがあのプレイヤーの武器なのだろう。もしかしたら能力なのかもしれない。僕は女の子の姿になっていると言ったが、服も変わっている。僕が落ちていた時は、現実と同じ上下ジャージだったはずなんだ。でも今は、ゴスロリと呼べるような感じの服になっていた。上が黒、下が白、頭についているのは赤いリボンだ。髪は肩ぐらいまでの先っぽが紫がかった白い髪だ。身長は140ぐらい。僕の元々の身長は170に届くか届かないかなので、かなり縮んでいる。
あのプレイヤー……いや、よく見ると頭の上に「ブラッドナイフ」と書かれている。まぁ、略してブラッドとしておこう。ブラッドは、赤のスーツに黒のシャツ、所々に白い文字で「kill・kiru」と書かれた青いネクタイで、身長は大体180cm、グラサンを掛け、髪はオールバックにしてある。迷いもなく、ブラッドは、僕をナイフで突き刺そうとこちらに突進した。
その時だ。
一瞬何が起こったのかが分からないようなことが起きた。
(スカル・フレイム。)
頭の中で、こんな機械質な音声が響いた。
それと同時に、ブラッドの体が、紫の炎で向こう側に吹っ飛んでいた。ブラッドのHPが減少している。しかし、ブラッドのHPは地平線が見えるほど長かった。
それ以降、ただただ攻撃を繰り返す。
何回も僕の姿は変わる。
説明するのすら追いつかない。
覚えている機械質な音声を書いておく。
(狐の大斬)
(フルメタル・スパイク。)
(絶叫デスメタル。)
(木の葉ハリケーン)
(デス・スプレッド)
とそれ以外にも攻撃はしている。
自分で自分を動かしていると思えないほど、速く、強く、美しくブラッドのHPを削る。
ブラッドは、「キルキル」とか「イキキル」、「キザムキル」などと叫んでいるが、ブラッドの攻撃は、一回も僕に届かない。もう何時間たったのだろうか?
最後、堕天使のようでもあり、天使でもあるような姿で、ブラッドにとどめをさしていた。
(最期の審判。)
そして、ブラッドは、HPがゼロになった。
僕は、体の自由を取り戻した。自分の姿を確認すると、現実の自分と同じで、プロフィールも男になっていた。そして、ログアウトしようと思ったが、やり方が分からない。
とおもっていると、「ミチヅレキル」
とかすれた声が聞こえた。
「あ……れ……?」
気がつくと、あのプレイヤーのように、赤と黒の四角が自分の体にできる。ブラッドの方を見ると、彼は青白い小さな光の玉となって、「ペナルティー」と音がしただけだった。
自分のHPはゼロになっていた。そして、僕は、気を失った。
目を開けると、自分の部屋だった。バイザーを外す。そして、ゆっくりと深呼吸した。自分で体感して無いため詳しく書いてなかったが、あのブラッドの持つナイフが赤く染まった時、僕は、押さえきれそうにない恐怖を感じていた。死ぬかもしれない。解放された今、その事がどっと自分の体にのしかかった。そのため、右手首に付けていた装置を取るのが遅くなった。取ろうとしたとき、胸のあたりがズキリとし、そのままベッドに倒れ込んだ。
気がつくと、僕はベッドで普通に眠っていた。
起き上がると、何かおかしい気がした。
「………。ここ………僕の部屋だよね………。」
自分の通学用の鞄は、勉強机の椅子にかけてある。
勉強机の下には、マイナーだけど好きだからと苦労して買っているマンガ達が並べてある。やっぱり自分の部屋だよなーと安心したとき、一つだけおかしな物が目に入る。
僕が通っているK県立湾沖高校の女子の制服だった。
白とオレンジの二色で構成されたセーラー服で、リボンの色は学年ごとに違うのだが、学年ごとに何種類かある。2年生になったばかりなのか、寒色系の青やら紺色、深い緑などのリボンがセーラー服の近くにかけてある。ちなみに1年は暖色系、3年は白か黒、灰色のどれかだ。
なんで女子用の制服があるのだろうか?自分が前まで着ていた中学から使っている学ランはどこにあるのだろうか?
湾沖高校の男子の制服は学ランだ。ボタンさえ高校の物に変えてしまえば、中学1年からのボロボロのものを使っていても文句を言われない。ちなみに僕の学ランは中学2年の冬から使っている。正確には3学期から。理由はぱっと見力士の体の父の上司が、父さんが小道具として僕の学ランを持って行ったのを、無理矢理きてボタンが弾け、背中の部分がビリビリに裂け、使い物にならなくなってしまった。その次の物はそのまま使っていたのだけど……。
僕は肩まで伸びた髪を、少しくるくるしながら……。
すぐに自分がおかしな事をしているのに気づいた。
前髪は、僕の髪……。一般的な男子なら可能だ。しかし、後ろの髪は、長くないとやることは出来ないはずだ。伸びたわけではない。だってほんの数日前に床屋に行き、短くしてもらったばかりだ。
「何なんだろ……?」
声を出すと少し声が高くなっている気がする。
自分の姿を確認しようと、体を起こす。少しだけ胸が重い。
よく見ると、服装はやはりジャージから漫画ではネグリジェと呼ばれていたようなパジャマを着ていた。
何かおかしい………。
顔を下ろすと、胸にやや大きい山ができていた。
少し不安になりながら、今日は日曜日だったのを確認し、少し安心してから自分の部屋のある2階から降りて、洗面所の鏡を見る。
「う……うそ……。」
そこには、昨日ゲームで最初にその姿に変化した女の子の顔だった。ゲームの中では見えなかったけれど、赤と青のオッドアイの瞳だった。きっとゲームの中だけならば、一応受け入れられた。
しかし、現実となると……。
僕はひどく落ち込んだ。確かに不細工にならなかったけど。
たとえ美人でも美少女でも、いきなり性別が変わるのはこんなにも落ち込むものかと思ってしまう。
最後の頼みも、さっき覗き込んだら最初から無かったかのように無くなり、変わりに最初からこうだったとも言うように股の間も女の子になってしまっていた。
今はもう一度あのゲームをプレイすれば元に戻るかもしれないと思って落ち着いた。
腹が減っていたので、トーストを焼く。冷蔵庫からマーガリンと牛乳、親には邪道と言われあまり買ってもらえなかったチョコホイップを取り出す。親がいないと少し寂しく感じるので、毎朝テレビを付けてニュースを見る。いつものようにテレビをつけた。
//まさか!!大人気ゲームbirthday・time運営停止!!//
このテロップに僕は、トーストをおとしかけた。
驚愕する僕に構わず(当たり前だが。)アナウンサーは説明をする。
「このゲームに、人を殺せるような機能が入っており、開発責任者である尾産 司他、彼の部下2名が昨年の心筋梗塞で亡くなった計23名の殺害をこのゲームでやったと昨日亡くなった同社の副社長である真田 信二さんの遺書から判明し問い詰めたところこのゲームでの殺害をしたと自供。彼らの裁判は明日行われる予定で、社長はこのゲームの運営停止をし、再開する真意はなしとしています。」
副社長は、僕が1年前に会ったおっさんだった。
あんな人が副社長だったのかと思っていると、どうやらあのゲームで出世したらしい。
アナウンサーはまだ続けている。
「このゲームでの殺害は一般プレイヤーでは不可能だったのですが、発覚し、悪用しようとプログラミングされるのを避けるためらしいです。」
場面が変わり、都内の風景になり、レポーターの人がゲームの運営停止について聞いていた。
「残念ですね。まだまだやりこめたと思っていたのに………。」
「あれは本当の現実のようなものだっので、管理側が厳重に管理してもう一回やれることを祈っています。」
「よーやく第35のボス戦だったのに………。なんでだ!!」
とかなりやり込んでいる人の悔しさが見えた。
最後にアナウンサーも自分は第55のボスまで倒したという。どれだけやりこんでたんだ。
ニュースがもう少しで始まるオリンピックについての話題に変わった。
「ずーっとこのままかもしれない………。はぁ………。」
トーストを食べ終え、僕はため息をついた。
買った後プレイするのに1年かかったゲームの最後は大人達の都合で呆気なく幕を閉じた。
なんとも後味の悪い最初で最後のプレイだった。
これから生きてゆくかというとんでもない問題を残したまま僕はテレビの電源を切った。どうせ見ないから。オリンピック。