旅立ち エルフ殺しの男 2
威勢よく館を飛び出したのは良かった。
だが、ナナを追う手がかりが何もなかったのだ。
「一体どうすれば・・・」
途方に暮れた烈の鼻に、前と同じようなあの血の
匂いが漂ってきた。
エルフ殺しの男を探すという最初の任務を思いだし、慌てて血の匂いを辿った。
行き着いたのは小さな宿屋。
外から見てもわかるおびただしい量の血。
中にエルフ殺しの男がいるかはわからないが、
入ってみないことにはわからない。
ギィィ・・・
すぐに剣に手をかけて体勢をとる。
だが、ここにはもう何もいないようだった。
「ふぅ。ん?」
体の力を抜いて、奥の部屋を見たときだ。
黄緑色の長い髪がチラッと見えた気がした。
警戒はしなかったが、一応剣に手をかけたまま先に進む。
その部屋に入ってすぐ、確かに人の気配を感じた。
「誰かいるの!?・・・わっ」
突如視界いっぱいに羽が広がった。
そしてその直後、人の気配は消えてしまっていた。
「弱い小さな魔獣でもいたのかな」
宿屋を出ると、また別の場所から血の匂いがしたので、羽のことなど忘れて走り出した。
けれど、今回は匂いが四方からしてきて場所を特定できない。
焦りだけが烈を急かしていた。
「どこだろ、エルフ殺しの男もナナも・・・」
「あなた、見ない顔ですね」
「!?」
後を振り向くと、そこには長い銀髪をくねらせた、
くせ毛の青年がいた。
いつからいたのだろうか。
服装はこの氷に似合わない紫の半袖半ズボン、
烈よりも軽装かもしれない。
そしてもう一つ気になること、それが、
彼の耳の長さだ、まるで今まで出会ったエルフの
ように・・・。
「まぁ、いいでしょう。人間は殺せとの命令です、
あなたに恨みはあらませんが、死んでいただきましょうか」
「は、はあぁ!?」
青年は大剣を抜くと、いきなり間合いを詰めてきた。
「な、ちょっと、まっ!」
咄嗟に剣を抜いたが、相手は大剣だけあって威力が大きすぎる。
剣は易々と払われ、大剣が振りかぶられる!
ギャンッ
目を瞑った烈だが、なかなか大剣が振られないことを疑問に思い、目を開いた。
「お、お前は、エルフ殺しの男!」
フードで顔を隠した男が、大きな鎌を振り上げて
青年の大剣を払ったらしい。
大剣は主の手から離れて地面に突き刺さっている。
烈がお礼を言おうかエルフ殺しの男として捕まえようか迷っていたとき、ボソッとフードから声が聞こえたきた。
「坊っちゃんを頼む、と頼んだはずだが?」
「!?まさか、お前が、」
「何の話ですか?逃げる相談ならやめてほしいです、見苦しいので、ね!」
青年がすさまじい速さで大剣を取り戻すと、フードの男の顔を目掛けて攻撃を繰り出した。
難なく避けていたが、フードが大剣にかすり、
大剣が上着ごとフードを剥ぎ取った。
鎌をズシッと地面に立て、烈を見下ろしていたのは
紛れもないナナだった。
「え?な、ナナ?」
「いいから行け!お前には坊っちゃんを任せたはずだろうが!」
怒鳴られ、館を指差された。
烈は「わかった」と一言言うときた道を戻った。
「わざといかせたのか?」
「まぁ、どうせ完成する作戦に手出しは無用ですからね」
クスクスっと笑う青年は余裕たっぷりに大剣を鞘に戻すが、そのせいでナナの怒りは増えるばかりだ。
「昔から食えない野郎だ、本当に」
「そうですか?とりあえず、私はあなたに戻ってきてもらいたいだけなんですけど」
「この俺が素直に帰ると思うか?」
「ですよね、困りました~。マイアちゃん、
そうゆうことなので壊してくださいね」
「まさか、お前」
「既に館には私の部下を配備してますよ」
「き、貴様っ」
走り出そうとするナナに、青年は微笑んだ。
「また大切なものを守れない、クスクス」
ナナは拳を血が出るほど強く握りしめ、
歯を食い縛った。
忘れることのできない人物が、頭の中をよぎる。
「烈が行ってくれた。俺はお前を倒してそのあとを追う」
鎌を頭上で大きく回転させ、銀髪の青年に
全力で振り上げた。
その頃、烈は館にたどり着いたのだが、
カイトが見当たらないことに気が付いた。
広い館だが、あの子が一人でうろちょろするような
楽しい場所はないだろうし、
朝一緒にいた寝室に行ってみたが、ご飯はそのままで、布団も畳まれていない。
「早く探し出さないと、ナナが・・・
エルフ殺しの男って、ナナだったんだ」
ひどく鼻に残る人間の血の匂いを思いだし、
振り払うように頭を左右に激しく振った。
「理由はわからないけど、ナナ頑張ってるもんな」
気持ちを切り替えて、部屋を一つ一つ調べることにした。
キッチン、書斎、風呂場、寝室、トイレ、
どの部屋にも、カイトはいなかった。
それ以前に、いた痕跡すら残されていない。
「どこに行っちゃったのかな、あれ?カイト!」
いつの間にか烈の隣にはカイトが立っていた。
「どこに行ってたの?心配した・・・」
カイトは無言で天井を指差した。
烈はその無感情さが気にもなったが、そこまで気にはしなかった。
天井を見上げると、そこにはなんと・・・
「か、カイト!?」
「レツ、助けてー!」
天井に縛り付けられたカイトは、泣きながら助けを求めていた・・・直後、背後から殺気を感じ、
剣を抜いた。
さっきまでカイトの姿をしていた物が、羽となって烈を襲ってきたのだ。
「な、なんなんだ!?」
まるでナイフのような羽を剣でかわしながらも、
数の減らない羽の対処法がなかなか思い浮かばず
苦戦を強いられた。
「どうすれば!」
「レツ!黄緑に光る羽をねらって!」
「黄緑に光る羽?」
目をこらすと、一枚の羽だけが黄緑の淡い光を発していた。
「そこだっ!!」
その羽目掛けて剣を振り上げた。
だが、剣を振り上げた風のせいで羽が飛ばされて
剣が当たらない。
「兄ちゃんがやってたみたいに青い光で戦えたらな、剣じゃ的が小さすぎる・・・」
天井ではカイトが烈の勝利を願っている。
「よし、見よう見まね!
汝、・・・あれ?なんだっけ、ってうおわっ!」
またもや羽に襲われ、攻撃をすることができない。
それに、翼が使っていた技も忘れてしまっている。
思い出している時間もない。
「こうなったら・・・」
「レツ!避けてー!」
羽が烈目掛けて襲ってきたが、今度は避けなかった。
カイトは目を瞑る。
「うぐっ!?」
おそるおそるカイトが目を開くと、そこには
身体中に羽が刺さった烈がいた。
「れ、レ・・・」
「捕まえたよ、黄緑の羽!」
「え!?」
烈の手には、確かに羽が握られていた。
羽が逃げ出そうともがく度、手からは血が流れる。
「逃がさない!!」
そう羽を握りつぶそうとしたそのとき。
羽が声を出した。
「ご、ごめんなさい!殺さないで!」
ビックリして手から羽を放すと、羽はみるみるうちに姿を変えていき、やがて人形になった。
黄緑の綺麗な長い髪に、申し訳なさそうな瞳。
更には肩には羽が生えている。
「ごめんなさい!レイ様には逆らえなくて・・・
でも、あなたたちを殺さなきゃ、私」
オロオロとしながら話す彼女は、可愛らしかった。
ただ気になったのは、その可愛らしい顔から
殺すという単語が出てきたことだが。
「君は、一体・・・?」
「は、話せません。だから、死んでください!」
「えっ!?」
支離滅裂な彼女の発言と同時、館は炎に包まれた。
「い、いきなりなんなんだ!?ねぇ、待ってよ!」
「ごめんなさい」
その言葉を残し、彼女は羽となって消えてしまった。
(あれは、前にも見たことがある。確か宿屋で)
「レツ、降ろして」
「あ、あぁ!早く逃げるぞ!」
カイトを縛る紐をほどいていると、部屋に数人の
人間が入ってきた。
だが、よく見るとそれは人間ではなく・・・
(耳が・・・ちっ、エルフか!)
烈は紐をほどくのを諦めると、カイトには悪いが
剣を使わせてもらった。
落ちてきたカイトを受け止めると、片手に剣を構えた。
「こい!」
エルフたちは一斉に襲いかかってきた。