人間狩り 1
今回は主人公とその兄、翼のあたたかい
兄弟愛を書いたつもりです!
我々人間の住むこの世界の真ん中に、
巨大な塔がそびえ立つ。
烈が最も憎んでいる神の住みかだ。
烈だけではなく、多くの人間が神に不満を抱いているのは確かなのだが・・・
残念なことに、非力な人間の力では塔の門前に行くことすらできないのである。
そして、人間が神を憎む大きな理由が人間狩りだ。
神の中にも争いがあり、年に一度戦争が行われる。
戦争では兵が必要となるが、神たちは合成獣、
キメラを兵として使う。
キメラとは、人間と魔獣を組み合わせた醜い生き物のこと。
そのキメラを作り出すために奴らはやって来る。
これが、人間狩りだ。
烈は常に心配だった。
キメラを作り出すために連れていかれる人間は、身体能力が高いとか、特殊な能力を持っている人間だからだ。
兄の翼は、体に宿る不思議な力と剣をにより、
この村を獣の手から守ってきた。
「翼兄ちゃん、次の人間狩りはいつかな・・・」
古びた教会の中、烈の声が響いた。
翼はシチューを食べていた手を止めると、にこっと笑いながら言った。
「そんなの、僕らには関係ないだろ?神が孤児なんか選ばないよ」
「でも、兄ちゃん強いじゃん!よくわかんないけど不思議な力持ってるし!この村には兄ちゃん以上に強い人間なんて・・・」
「大丈夫大丈夫。傭兵さんのこと忘れてないか~?」
この村には確かに金で雇っている傭兵がいる。
けど、彼らは翼が影で魔獣を殺しているおかげで楽ができているだけであって、
実際はなんの役にも立っていない。
「兄ちゃん、嫌だよ・・・傭兵さんは何にもしてないよ!頑張ってるのは、いつも兄ちゃんじゃないか!村の人は、僕らが孤児だから、あんまり認めてくれないけど・・・でも!」
そこまで言うと、翼が烈の頭を撫でた。
「兄ちゃんがいなくなるのが、心配か?」
「当たり前だよ!兄ちゃんいなくなったら、誰が僕を育ててくれるの!?」
父さんと母さんのことは、烈は何も知らなかった。
烈を産んで、魔獣に殺されてしまったらしい。
「そうだなぁ・・・まだお前を一人にはできないなぁ」
と、破壊された教壇を見ながら呟いた。
その言葉が、いつかは別れてしまうように聞こえたので、烈は俯いた。
「おいおい、泣くなって!な?」
テーブルの反対側に座っている烈の隣に、翼は慌てて座った。
「どこにも、いかないでぇ・・・」
烈は、翼に強く抱きついた。
そんな小さな弟を、大きな手で優しく抱き締めた。
「おう」
翌朝、翼は魔獣狩りがあると早めに教会を出ていった。
薄暗い教会に一人は嫌だったので、外に出て遊ぶことにした。
教会は神への反発により、民が押し入った。
天窓が割れて床に飛び散り、教会には今も斧が突き刺さったままだ。
でも、そのおかげで烈たちは住みかをてに入れられたのだった。
「今日は何しようかな~・・・っいたっ!」
教会の前をうろうろしていた烈の額に、小石が飛んできた。
「やーいやーい!烈なんか死んじゃえー!」
「兄弟でいなくなれー!」
「・・・」
怒りに肩を震わせながらも、兄のためにと、その感情を抑えた。
だが、烈の反応がつまらないのであろう子供たちは、さらに言葉を続ける。
「お前の兄貴も魔獣になっちゃえー!あははは!」
近づいてきた子供たちは、烈を蹴ったり叩いたり、あるいは棒で叩きつけたり水をかぶせたりした。
たおれこんだ烈は、怒りにまかせて一人の男の子の足をおもいっきりつかんだ。
「な、何すんだよ!はなせ!」
頭を足で踏まれながらも、烈は男の子の足をつかむ手に力を込めた。
「痛い痛い!誰かはなしてよー!」
「おい!はなせよ!」
「お前ごときが抵抗するな!」
身体中がズキズキしたし、血も滲んでいた。 けど、
翼をバカにしたこいつらを、許せなかった。
「お前たちが、死んじゃえ・・・死んじゃえ、
死んじゃえぇっ!!」
次の瞬間。
ブシュッ
「アァァァァァアアッ!!」
足をつかんでいた男の子が、奇怪な悲鳴をあげた。
男の子の足が、潰れた。
烈の赤い瞳は獣のように獰猛になり、足をつかむ右手は青い光に包まれていた。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁあっ!!」
腰を抜かした子供たちは、一斉に逃げ出した。
「待って、待ってよぉー!」
足を潰された男の子は、泣きながら手を伸ばした。
その手が届くことはなかった・・・。
ほかの子供たちは既に見えなくなっていたからだ。
「そんな・・・」
「お前が悪いんだ!翼兄ちゃんも僕も、何もしてない!なのにバカにした、バカにした!!」
「わ、悪かったよ・・・だから、許して」
「黙れーーー!!」
右手を男の子の首に伸ばしたとき、その真ん中に誰かがわって入った。
「烈、やめるんだ!」
「に、兄、ちゃん」
烈の右手から青い光が消えていき、目ももとに戻る。
その目に映ったのは、血まみれになった翼だった。
烈の腕は翼の脇腹を貫通して、血を滴らせている。
腕を引き抜くと、翼が倒れかかッてきた。
「翼兄ちゃん・・・」
「よかった、とま、ったか・・・」
自分でも、顔から血の気が引いていくのがわかった。
「誰か、誰か!!お医者さんを呼んで!兄ちゃんが、
兄ちゃんがあぁっ!」
男の子は、母親が連れていった。
烈は散々化け物と蔑まれ、喚かれたのだった。
そんな烈に、もはや誰も声をかけようとはしなかった。
血まみれの兄弟は、夕方になるまでずっと座っていた。
人通りはもうない。
泣く力も残ってない。
そんな烈の耳に、馬の蹄の音が聞こえた。
ゆっくり見上げると、暗くて顔はよく見えないが、
金髪の美しい少年が烈を見下ろしていた。
烈と同じぐらいの年だろう。
まだ小さな体を馬から降ろし、翼の前にしゃがむ。
「まだ、生きている」
凛とした声が聞こえた。
右手をスッと翼の脇腹に当てると、なにやら唱えはじめたのだ。
「なに、してるの?」
「黙っていろ。集中できん」
その冷たい言いぐさにムッとしたが、言うとおりにした。
翼の脇腹が次第に光に包まれていく。
そして・・・
「傷が、塞がってきてる!」
「このことはあまり広めるなよ。俺は誰ふり構わず救う人間じゃない・・・」
「へ~、でも勿体ないよ。せっかく力があるのに」
「誰しもが能力者を信用しているわけじゃねぇからな。仕方ない話だ」
金髪の少年は、もう慣れたことだという風に
やれやれと溜め息をついた。
烈はそんな少年が羨ましかった。
「強いんだね。七瀬は」
「え?」
「え?」
「俺、お前に名前、教えたか?」
「ううん、あれ?七瀬で合ってるの?」
「あぁ、俺は七瀬だが・・・すごい偶然だな」
二人はしばらく驚きあっていた。
「あはは!なんだかおかしいね」
「だな。久々に人間と話せて安心した」
少年の言葉に、烈は疑問を抱いた。
けど、烈自身翼以外と話すのははじめてだったので、嬉しくて、すぐにその疑問は消えた。
「さ、これでいいだろ」
手をはなすと光は消え、脇腹の傷は完璧に消えていた。
「うわぁ!ありがと、七瀬!七瀬はすごいんだね!」
いきなり抱きつかれて七瀬は少し戸惑ったが、おかえしに烈の頭を撫でてやった。
「もう僕には、兄ちゃんしかいないんだ・・・その兄ちゃんを自分の手で失っちゃうとこだった。
七瀬みたいな優しい能力者になりたいな」
「や、優しくねぇよ!」
少し照れながらそっぽを向いた七瀬は、今までにない不思議な感情を感じていた。
あたたかいような、くすぐったいような・・・。
烈は倒れたままの翼の脇を持つと、七瀬に呼び掛けた。
「お礼させて・・・って言ってもなんにもないけど、せめて家にきてよ!」
その誘いを、七瀬は笑顔で断った。
「そうしたいのは山々だがな、ん?烈!こっちだ!」
七瀬は狭い路地に烈と翼を押し込めると、自分は馬のほうに走り出した。
「七瀬、どこいっちゃうの!?」
「そこからしばらく出るなよ!俺は俺のいるべきところに帰る。ありがとな、じゃ!」
「なな・・・・!!」
七瀬が走り去ったあとを、奇怪な人間たちが追いかけていた。
耳の長い、人間のようで人間じゃない、武装した集団だ。
烈はしばらく恐怖で動けずにいた。
「・・・ん」
そのとき、翼が目を覚ました。
「兄ちゃん!ごめんなさい、僕のせいで・・・」
「大丈夫、あれ?傷がない」
脇腹をさすりながら翼は烈を見た。
「なんかね、すごい人がきたんだよ!七瀬っていって金髪の綺麗なね!僕くらいの男の子なの!でねでね!」
「な、七瀬だと!?」
翼が跳ね起き、烈の肩をつかんだ。
「七瀬に、会ったのか?」
「うん!あ、そういえば、お互い名前を教えてないのに呼びあえたんだよ!すごいでしょ」
「・・・・・・そうか。無愛想だったろ?」
「うん!・・・翼兄ちゃん、七瀬と知り合い?」
「い、いや、知らないよ。でも、感謝しないとな。」
「うん!うん!それと、あの・・・僕、
七瀬みたいな能力者になりたいんだ。だから、もう誰かをきずつけない、強い人間になりたい、だから、えと・・・」
なかなか言い出せない烈を見て、翼は優しく微笑んだ。
「明日から、ビシバシだな!」