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第七話

何で。

何であなたが言うの。


          ☆


夢を見た。昨日と同じ、永久に続く暗闇。

またここかー。昨日限定かと思ったんだけどなー。でもここということはホタルイカがどこかに……。

「ここにいるよ。」

あ、やっぱりいた。

さわやかな声を聞いて、僕はその声がした方向を向きかけ、ぴたりと止まる。何かが違う。昨日と違う。昨日はホタルイカの声を爽やかだ、なんて思わなかった。

懐かしい、何て……それよりも、この声は。

緊張する。自分の考えている可能性はバカっぽくて、けれどそれしか考えられない。現実なら手汗で小さな水たまりを作れそうなぐらい緊張しながら、僕は、後ろを向いて。

「……し……(しゅん)……?」

そこにはホタルイカがいるはずだった。……けれど、そこにいたのは彼氏の……元彼氏の、谷久(たにひさ)隼だ。

何で……?何で、隼がここに……?昨日は名探偵コ○ンに出てきそうな黒一色で輪郭だけが光ってるホタルイカがいたはずなのに……。でもあれって考えれば考えるほど変だよなー。男子でも女子でも体格一緒だし、体のシルエットくっきりしまくりだし、やたら目立つし。

(しの)。思考が暴走してるよ?」

そんなことを考えていると、隼が苦笑しながらそう言った。それを聞いて、僕は間違いない、と確信する。僕の思考パターンは普通ではないのか、隼以外に読まれたことがない。容姿も若干きつめの顔立ちで、よっぽど緩んだ顔してない限りは何かを心に刻んで生きてるように見えるし。

「何で……何で、隼がいるの?だって、隼は……」

死んで……そう続けかけて、僕は初めて気づいた。昨日とは違う事。ホタ……もとい、隼の姿が見えているわけではない。周りの風景も、今まで暗闇だと思っていたがそうではない。そこは、かつて隼と自分がともに最も長い時間を過ごした場所である、研究室だ。今みたいにコーヒーの匂いで染められてなくて、隼が研究と彼以外に興味を持たなかった僕に、「もう少し可愛らしい趣味でも持ったら?」といって買って来た鉢植えの花の匂いがふんわり香る、かつての研究室だ。

見下ろした自分の姿も、何時ものシャツに白衣という地味な姿ではない。ほのかな桃色の生地で出来、裾のほうに小さな花の刺繍をあしらったワンピースに、今の研究目的ではなくファッションとして羽織った白衣。それは、かつての自分に嫌悪して捨ててしまった服の中にあったもので、そして、最後に隼と会った時にしていた服装だった。見れば、隼のほうもあの時の格好で、窓から窺える時間帯も……。

「神様に頼んでね。君の夢をちょっといじくってもらって、『此処』からやって来た。」

隼が電波なことを言い出した。昔な精神科行こうか?でも手遅れっぽい気もするよねぇ。とか軽く言ったけど、今のシリアスな雰囲気ではそんなこと言えない。だから、

「とうとう脳の回線イカレた?でもずいぶん持ったね。意外に丈夫だったみたい。」

「シリアスな時に何で君は己を通すかなぁ!」

「期待どうりでしょ?」

「確かにそうじゃないと君じゃないもんなぁ……。」

己を通した。ちょっとしたことで封じ込まれる意志何て、ある意味ないし。

そういって堂々と笑う私を、隼はあきれたような、でも楽しそうな笑顔で見る。よっしゃ、気分的になんか勝った!

私は小さくガッツポーズをする。隼は「何そのマイルール」と苦笑いしながらも、私に付き合って小さく両手を上げる。二度勝ち。じゃあ次は、

「でも、よかったよ。」

「……?何が?」

三度勝ちをするために何をすればいいか考えていると、隼が笑い声とともにそういった。私はその理由がわからなくて首を傾げて、

「口調。戻ってる。やっぱ篠には、無理した僕っ子口調は合わないよ。すっごく外見可愛いのに、台無しになっちゃってるから。」

「私は、そんなんじゃ……。」

とりあえず外見の煽てを否定しながら、私はしまった、と思う。あの口調も、シンプルな服装も、全て自分がしでかしたことに対する贖罪で……けれど、戻ってしまった口調はもう変えられない。それはきっと、自然すぎてスルーしかけた隼の存在もあるんだろうと思う。

テンパりすぐてぼんやりした私を隼は笑ってみて、

「きっと、ここがあの時に似てるのは僕と篠が後悔してる場所が、過去がここだから。」

「というより、」

口調のことをすべて諦めて、私は問う。この場所があの時と同じかなんてそんなの、関係ない。それよりも大事なことがある。

「何で隼はここにいるの?」

「だから、神様に……。」

「そういう意味じゃなくて。」

大事なこと。それは全ての根本に位置していて、きっと答えは身近にあって、けれど近すぎて見つけれていないこと。

「私が隼に会おうとしてたのは、隼と繋がる方法を研究してたのは隼に言わなくちゃいけないことがあったから、だよ。でも、隼はどうして……?」

私は、隼に謝るため隼と繋がるための研究をしようとしていた。けれど、隼にその理由はなくて……。

「もしかして……僕には言わなくちゃいけないことないと思ってた?」

私は頷く。だって、隼は……

「あるよ。言わなきゃいけないこと。」

隼は、笑って言う。

笑顔で、でも、突き放すみたいに。

「研究をやめてほしいって、」

言った。











「もう、僕のことなんか忘れてくれって。」

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