第六話
「お断りします。」
僕は、それを其処から見ていた。
僕の大切な人が、院長からされた提案をいつものようにきっぱりと断る姿を。
「僕には、やらねばならないことがあるので。」
何時ものように、しなくてもいいことをしなくてはいけない、と間違い続ける姿を。
だから僕は決心した。これは、僕がせねばならぬことだ、と。
☆
君が僕を忘れないように、僕も君も忘れないから。
安心して明日に進んで。
隣は歩けない。けれど、その背中を僕はずっと見てるから。
☆
僕はそこに向かいたいと思う。
『此処』での移動手段は思うことだ。距離も何もない『此処』では、いくら歩いても目的にはたどり着けない。思うことで行動が起こせ、記憶の中ですべてが成される。
不便そうだけどこれって意外と便利だよねー。でもどうせなら『あっち』にいた時欲しかったなぁ、これ。そんなことを考えながら、そこに行きたいと、
思う。着いた。感慨も余韻も何もない。周囲の風景を見る余地もなければ、周囲の環境も移ろわない。新幹線や飛行機が一般的でなかった時代の人たちはそれらを風情がないといったらしいが、途中空からの風景や高速に流れていく景色を見れる分、この移動よりはるかに風情がある。
「というわけで、この移動方法どうにかなりませんか?」
「話飛びすぎだし、そもそもそんなこと言いに来たわけじゃないんでしょう……じゃろう?」
「その口調無理やりすぎて胡散臭いですよ、逆に。」
「むっ……無理してな……しとらんっわ!t……儂は普通に話しておるっ。」
「はいはいそうですねー。」
僕は軽く流し、目の前でRPGの村長みたいな口調で話す少女を見る。可愛いのにもったいない。そんな口調が残念度ランキングの上位に入れそうな……いや無理か。昨今のラノベのキャラの口調すごいし。○魂のチャイナ来てる娘さんの口調がなんか普通に思えてくるぐらいの人もいるし。ていうか今日火曜日じゃん。昨日ジャンプ出てるじゃん。『此処』にも集○社、ジャンプ進出すればいいのに。何もせずここにずっといる人たくさんいるから、売上すごくなると思うんだよねー。
「あん……お主、思考が脱線しとるぞ。」
ランキングでそこそこな位置に入れそうな少女(中の上当たりかね?)、もとい神様に突っ込まれた。
……そう、神様なのだ。こんな残念な奴が。あの子は『神様は剥げ』だと信じているが、ふっさふっさである。剥げた時は神様パワーで再生可能とか言ってたし、この人外見変動しないし。……この前「剥げた時は全人類剥げにして剝げという言葉を消す。」とか末恐ろしいこと言ってた気が。
「おい、また反れとる。」
また神様に諭された。でもこれは彼女と共通している部分で、確か「繋がってるねー。」とかリア充なこと言ったりしてたか。うへへへへへ。おっと、脱線してしまった。三度も神に諭されるつもりはない。
だから僕は、本題を切り出した。
「僕の規制を解いてほしいんだ。」
神はしばらくその言葉に考え込み、やがて神様っぽく威厳に満ちた雰囲気で
「それは、下ネタ発信をするためかの?」
ただ、それは全て無意味に終わってたけど。というより、
「何で!僕すごい真面目に言ったのに!何でネタにされてんの!あとあんたいつから下ネタ言うようになったんだ!僕と最初に会った時の『幼女が背伸びして頑張ってる感』どこ行った!」
「お主のせいじゃの。」
神ははぁ、とため息をつき、(つきたいのはこっちだけど。)真面目に話を始めた。
「けれど、規制を外すと貴様は今までついていた嘘を晒すことになるぞ?」
分かってる。そう言う意味を込めて、僕は頷く。言葉にしないと思いは伝わらないけど、今言葉を重ねてもそれは僕の決意を鈍らせるだけな気がしたから。
神はきっと、僕の決意を知っている。だからきっとこれは、僕の決意を高めるための質疑だ。
「嫌われるぞ?」
頷く。
「恨まれるかもしれんぞ?」
頷いた。
「それでも、構わんのか?」
僕は、それには頷かず、
「最初から、決めていたから。」
応えた。
そもそも彼女がちょっと頼んだぐらいで意思を変更してくれるわけがない。だから、最初から何時かは言うつもりでいた。決意もできてる覚悟もできてる。
彼女の道を正して嫌われるなら、本望だし。