迎え待ち
三題噺もどき―きゅうひゃくごじゅうご。
冷たい風が通り過ぎる。
今月も残り一週間という所になってきた。
今月末には世間の賑やかな人たちが楽しみにしているハロウィンがある。
まぁ、土曜日なので普通の学校があるのだけど。
「……」
また、風が通り過ぎていく。
春風のような温もりはなく、ただただ冷たい風が吹いている。
けれど冬の刺すような冷たさとは違う、若干の柔らかさを持った風。
秋とは本来こういうモノではなかっただろうか。
「……」
周囲には、そんな風には興味もないとでもいうように、お喋りに夢中になっている制服姿がちらほらと立っている。
スマホに夢中になっている人も居る。ここ数日はインターネットの何かがどうこうなって情報流出がどうのと……言っている気がするけれど。どこまで治まっているのかよく分からない。そもそも、治まるという事があるのかどうか。
「……」
私もまぁ、さすがに言われた当日は控えていたけれど。
次の日には普通にSNSを眺めていた。ゲームも問題はないと公式の方が出していたから普通にしていた。デジタルデトックスとかいうやつをするいい機会かなと思ったけど。
そんなにするほどスマホに依存はしていない……つもりなのでしなくてもいいってことだろう。
「……」
いつもなら私もスマホをいじりながら待っているのだけど、今日は生憎、雨が降っているので濡れると困る。
そんな些細なことで壊れるようなスマホは今のご時世ないだろうが、なんとなく自分が嫌なのであまり触らない。眺めていると徐々に画面に水滴がつくのがあまり好きではない。
「……」
あぁ、何を待っているかと言うと、迎えを待っているのだ。
今日は母が休みで、朝から雨が降っていて、珍しく送ろうかと言ってくれたので、お言葉に甘えて送ってもらった。
なんとなく帰る時間は伝えてはあるが、どうしても前後するので連絡してから来てと伝えてある。その連絡が、少々遅くなったのでまだ来ないだろう。
「……」
文化祭も終わり、もう部活に行くこともないので、帰宅部と同じくらいの時間には帰れるようになっている。いつもなら、放課後に軽く面接と小論文の練習と勉強をしてから帰るのだけど。今日はどちらの先生も予定があるとかで休みになったのだ。
「……」
つい先ほどまでは、あの子も一緒に迎えを待っていた。
今日は残らないのかと聞いてみたが、何かの配信があるとかで元々帰る予定だったらしい。
昼休みにそんな話をしていたから、一緒に待つという事ができた。
「……」
一応、ベンチというか屋根付きの場所はあるのだけど、そこは早々に女子が占拠していた。
ので、2人で私の大き目の傘をさして話していた。
つまりは、相合傘をしていたというわけだ。大き目の傘なんて邪魔だからいらないと思っていたけど、今日はこの傘でよかったと思っている。
「……」
どうやら、昨日家族で水族館に行ったらしいあの子は、その時の写真を見せてくれた。
昼休みにもその話をしたのに、足りなかったらしい。そういうところが可愛らしいと思う。
その時に、お土産も貰った。お揃いのキーホルダー。
あの子の物と向き合うようになっているイルカのキーホルダー。ハートの形になるらしい。
最近は、セットの物が売っているから買うのに困らなくていい。
「……」
様々な魚が泳ぐ前で、楽しそうに写真に写っているあの子。
少し肌寒かったのか、薄い水色のカーディガンを着ていた。
長い髪はハーフアップにして、大きなシュシュがまとめている。
「……」
細身のパンツにシンプルなシャツを着ていて、こういうのも着るんだなぁと思った。
スカートのイメージしか沸いたことがなかったから、意外だったが、普通に何を着ても似合うか……と変に納得してしまった。体育のジャージでも似合うと思ってしまうから。
「……」
あの子が撮った水族館の写真は、可愛いものだけじゃなくて。
ちょっと、世間ではキモイと言われそうな魚から、小さなカラフルなものまで。
目に付いたもの全部撮ったのかと思うくらい、たくさんの写真を撮っていた。
どれも私が撮る写真とは違っていて、楽しそうで嬉しそうで明るくて。
「……」
「……」
「……」
「……、」
見覚えのある車が、歩道をえぐるように作られた停車スペースに止まる。
車のナンバーを確認し、運転手の顔を確認し、母だと確認する。
傘を閉じながら、車へと向かう。
帰ったら勉強しないとなぁ。
お題:春風・雨・水族館




