教導依頼開始
森を抜け街道を数時間歩くと高い塀が見えて来る。
塀の近くには街の兵士が検問として立っており、商人の馬車や旅人から入門料を徴収している。
トリパーニ王国の商業都市イレンテ。交易都市としての立場を確立しており、ペレテ運河に隣接した立地から船での交易で財を得ている。
「冒険者ならタグを見せろ」
検問所の兵士に声をかけられ私は首にかけているタグを取り出して兵士に見せる。
「イレンテギルド所属のロックだ」
「確認した。通ってよし」
兵士はタグを確認するとそのまま都市の門へ通してくれる。
冒険者は冒険者ギルドへの所属が義務付けられており、冒険者ギルドから認められたものはタグの着用が義務付けられている。
商業都市イレンテは冒険者の入門料を免除しているので都市を入出の際にはタグを見せれば無料で都市に入ることが出来る。
なお、このタグは国と各都市公認の紋様があしらわれているらしく、勝手な複製や無断での所持は斬首とのことらしい。
年に数回、入門料を節約したい人物が偽物のタグを持ち込んで入門料の代わりに自分の首をこの都市に落とす事になっている。
門を潜ると広く整備された石畳の道が広がっており、馬車と人の往来が忙しない。
なるべく周りの邪魔にならないように道の端を歩いて冒険者ギルドへと向かう。
人の喧騒を躱すように歩くと冒険者ギルドにたどり着く。
ギルドは商業、林業、農耕、漁業など様々なギルドがあるが冒険者ギルドの建物はそのどれよりも大きかった。
冒険者とは有事の際には徴兵され、戦う事が義務付けられる。
冒険者ギルドは都市を攻め入られた時の防衛拠点の一つであり、市民たちの避難所でもあるが故に建物が大きいのだ。
冒険者ギルドの隣、解体場へと向かう。
解体場はほとんど野晒しでところどころ簡素な机や屋根があるだけだった。
地面は血でところどころ汚れており、モンスターや獣の解体をしている。
解体場の奥に居る人物の元へ向い声をかける。
この人物がこの解体場の主であり、忙しく周りの人間に指示を出していた。
「討伐依頼から戻った。この麻袋に討伐の証の鼻が入っている。こっちが依頼書だ。確認してくれ」
「っと、ロックか。確認するから待っててくれ…。ゴブリンの討伐依頼だな……ヨシッ、コイツを受付嬢に渡してくれ」
男は依頼書を一瞥し、討伐の証であるゴブリンの鼻を確認すると依頼書に自分のサインを記入しそれをロックに返した。
ロックは軽く礼を言い、解体場の隣の冒険者ギルドの建物の中に入る。
冒険者ギルドは酒場も兼業しており、まだ日が落ちていない時間だと言うのに少なくない人数が酒を楽しんでいた。
ロックは真っ直ぐ部屋の奥に居る受付嬢へ声をかける。
「依頼を達成したから報酬を頼む」
「ロックさん、お疲れ様です。依頼書の確認をさせて頂きますね。……はいゴブリンの討伐と森林調査ですね。 何か森で気になる点などはありましたか?」
ロックはゴブリンが持っていた石器を幾つか受付嬢の目の前に差し出す。
「ゴブリンの石器の質がいい。これだけの物を複数揃えるならば相応の時間と手間が必要だ。今回討伐した者の殆どがこれを所持していた事からゴブリンのコロニーが出来てるかもしれない」
「コロニー…ですか」
コロニー。 ゴブリンなどの知能が高いモンスターは同種同士で集まり群れを形成する。
群れを形成すると繁殖数が増え、知能が高い個体、特殊能力を持った個体などのイレギュラー個体が発生しやすくなる。
「村や街道の近くでは見つからなかったが万が一がある。腕のいい狩人に調べてもらったほうがいいかもしれない」
「そうですか…ありがとうございます。こちらでロックさんの情報を吟味して調査依頼を出すか決めますね……因みにロックさんがもっと詳しく調べてもらう事って出来ませんか?」
「してやりたいのは山々なんだが……私の魔法はモンスターがその場にいるかどうかを判別するものだからこういう調査系は専門家に頼んで欲しい」
「ハハハ、すみません無理言って。ロックさん真面目だからつい……」
魔法には属性が有り、火、水、風、土、雷、光、闇の七つの属性がある。
私は風の魔法をメインで扱っており、そのうちの一つにソナーの魔法を覚えている。
前世の知識からソナー探知機の存在と簡単な原理を知っていたので、それを魔法で再現したのだ。
具体的な方法は周りの空気に魔力を流し込み、ソナーの音波を再現し、物体大きさと形、自分と周りの物体の距離を常に把握することが出来る。
この魔法をモンスターの探知に使っている。
なお、モンスターの足跡などの痕跡などは小さ過ぎる物には反応しないため先程受付嬢が言ったコロニーの有無の調査には向いていないのだ。
コロニーがあるかどうかはモンスターの痕跡を追って探す必要がある。
自分はこの痕跡を探すのが苦手なのだ。
何度か狩人と依頼を受けたことがあるが、地面を一目見ただけで足跡かよくわからない窪みを指さして「これは3日前の足跡で地面のすり減り具合や歩幅から察するに走っていたようだ」とか彼らは言い出すのだ。
何度か師事を受けたが僅かな痕跡から情報を得るどころか、その痕跡を見つけることが全然出来ない。
自分にそっちの才能は無いのだろう。
「おい、アレ白魔術師じゃねぇか」
「ッチ、酒が不味くなる。俺が殴り倒して追い出してやろうか」
「やめとけ、前にそう言って絡んだ奴が腕一本砕かれた。放っておけば良いんだよ」
後ろで酒を飲んでいる人物がこちらを見ながら話している。
明らかな侮蔑の意思を込めてだ。
同業者の彼らが私を嫌う理由は自分の容姿が問題だった。
白髪に病的なほど青白い肌をしている私はこの国では非常に目立つ容姿をしていた。
私は前世の記憶からアルビノという事例を知っていたし、色々と配慮が必要な世論を浴びて来たので今世のこの容姿を割と直ぐに受け入れられたが、周りの人物はそうでは無い。
自分とは違うと言うのはそれだけで排除する理由になるのだ。
容姿や思想などのマイノリティが受け入れられるには余裕がいる。
この世界にそこまでの余裕は無いのだ。
とは言っても彼らが私を嫌っている理由はそれだけでは無い事を私は知っているしその状況をどうにかしようとも思っていなかった。
「あの、ロックさん。実は新人の教導依頼がありまして……。宜しければロックさんお願いできませんか?」
「またか……。私では無く、もっと相応しい人がいると思うのだが」
「他に受けてくれる方が居なくてですね……。才能がある子達なので事故で死んで欲しく無いですし、今は一人でも多くの冒険者が欲しいんですよ」
「……南方の国境線沿いの件か?」
「はい、南方のアカスキ国で中流貴族の大量除名を行うという話が出てまして……此方にも影響があるんじゃ無いかってピリピリしてるんですよ」
「わかった。ただ今回の依頼を達成したらしばらく教導は勘弁して欲しい。私もそこまで余裕があるわけじゃ無いから」
「ありがとうございます! 新人の子達を早速ご紹介しますのでそこで待っててください」
受付嬢は忙しそうに新人達の元へ駆け寄って二言三言話して此方に引き連れてくる。
「此方、ロックさんと言って皆さんの教導依頼を受けてくれる方です。さっ、皆さん自己紹介して下さい」
目の前に二人の成人していない男女が受付嬢に自己紹介を促されていた。
一人目は女性の剣士。
装備は革の鎧に身を包んでおり、剣士としては軽装の部類に入るだろう。
まだ話してないのに表情が溌剌としており、明るい性格だと感じ取れる。
二人目は男性の狩人。
ショートボウを肩に掛けており、腰には幾つかの小さな麻袋とナイフとナタを下げている。
此方は隣の女性とは違い、不安そうに此方を見ている。
「初めまして! リーベ村出身のハルです! 剣で戦うのが得意です! 今日はギルドの人に言われて来ました! よろしくお願いします!」
剣士の女の子、ハルは元気に自己紹介をする。
元気を通り越して少しうるさく感じる。
「トゥーリ村から来ました。ロベルトです。弓が使えます」
狩人の男の子、ロベルトは短く自己紹介をした。
見た目からハルよりは歳が上なのだろうがそれでもかなり若い。
ハルは分からないがロベルトは十中八九、訳ありなのだろう。
村という狭いコミュニティで弓の扱いを覚えられるのは森番くらいなものだ。
森番は村の周りの森を見張り、密猟を防ぐ役割がある。
更には森に入って来たのが貴族かただの密猟者かを判別するために近隣や有名な貴族の家紋を覚える必要があり、村では知識人として扱われ、村長やその村を納めている家族とも繋がりがある。
村出身のものが弓の扱いを覚えられるのは森番のみ。
そして村や貴族は森番を手放すことはあり得ない。
ロベルトには何かがある。
「自己紹介ありがとう。君たち二人の面倒を見ることになったロックだ。私は」
「おいおい! 何なんだこの真っ白な奴は! モンスターだと思ってぶっ殺しそうになったぜ!」
私の声を遮り、一人の男が声を荒げながら此方に近づいてくる。
身なりは貧相で仕切りに受付嬢とハルの方へ視線を向けている。
女の前で良いところを見せたいのだろうか?
「何だ?アイツ?誰か知ってるか?」
「知らん、最近この街に流れ着いた奴じゃねぇか?」
周りで酒を飲んでいる人達も身なりの貧相な彼の事を知らないようだった。
チラリと受付嬢の方に目をやると受付嬢は何も言わずに笑顔で此方を見る。
それを許可の合図と自分は受け取った。
「おい、真っ白やろう! 調子に……っ!?」
男が自分の肩に掴み掛かろうとした瞬間、左の拳をボクシングのジャブの要領で相手の鼻っ柱に叩き込む。
突然の痛みに男は反射的に前屈みになりながら鼻を手で抑える。
男が前屈みになった事により頭の位置が下がったのを見逃さず、鼻を押さえてる手諸共、頭に足蹴りをぶち当てる。
そのまま足を振り抜くと男の身体が吹っ飛び地面に転がる。
男がその後立ち上がることは無かった。
「さて、改めて自己紹介をしようか。私の名前はロック。魔術師をしている。よろしく頼むよ」
「す、すごーい! ふわって浮いてドシーンってなって……わー!」
「え? 魔術師? え?」
何故かはしゃいでいるハルと困惑しているロベルトを私はテーブルへ座るように促す。
これからの事を話すために。




