第4章 ヤマト朝廷の成立
一
ワレはカハチ(河内)の百姓でございま。父は大人で、母はノの国(奴国)から売られてきた下戸でおま。父の父はイヨの島(四国)からやってきた武士団のひとりやったそうですが、顔は知りまへん。聞いたところでは、この地にやってきて王家をつくったゆうことですが、その王家は滅亡しよったそうです。 ちなみに、その祖父の王家を滅亡させよったのもイヨの島からやってきた武士団やったそうで、その武士団がつくった王家はまだ残っておます。
せやけど、王家と言いましても大層貧乏な王家なようで、屋敷なんかはワレんとことなんも変わらしまへん。ちいとばかし大きよってなんぼか見栄えはしてますが、しょせんは藁でふいた屋根だけの屋敷でおま。柱かて細い細い。
その王さんは、
「ワレはカハチ王や」
ゆうてますけど、そのカハチゆうのんはワレの母親の出身地でおます。ノの国(奴国)にある村の名前やそうで、母親がここに売られて来よってから勝手に自分んとこの村の名前をつけよったんですわ。
それまでは皆、
ヤマト
いうてたそうですが、ヤマトいうたらそこらじゅうみんなヤマトやさかい、だれかに場所を訊かれて「うちはヤマトや」言いましてもヤマトのどこやらわからしまへん。そんで、「うちはヤマトのカハチや」ゆうてたそうです。そうしましたらみんなここをカハチて言うようになったそうです。
カハチいう土地は湖に面しとりまして、川筋をたどれば海にも出られます。海に出ればアフツ(淡路島)が目と鼻の先やし、アフツを超えたらアフ(阿波)に渡れますし、ウチウミ(瀬戸内海)をずうっと行けばキピ(吉備)にも通じとりま。
せやからカハチ王は貧乏やけど、あちこちの国に仲間や親戚を持っとりまして、鉄も手に入ります。
鉄はツクシ(九州)の方からも来ますんが、アフツ(淡路島)でもつくっておま。
カハチ王の何代か前はその鉄をつくる職人やったらしいです。
アフツに来るまえは、ずうっと遠くのクノ国ゆうところにおったそうで、そのまえはツクシの北のカの国(夏国)ゆうところの王家の者やったと言うてはります。
そのカハチ王の名前ですけどな、
イバレ、
言うそうです。
ひとり息子だす。兄弟はおまへん。
二
イバレ王が嫁はんをもろたんは、五年まえのことだす。嫁はんは湖の東側で鍛冶屋を営んでおった家の娘だす。
イソゾ、
ゆう名前ですわ。
ここらへんでは鉄の入った砂はとれんさかい、イソゾの家は鉄のかたまりをアフツ(淡路島)から取り寄せておりました。イバレ王の何代か前のもんはそのアフツの鉄職人をやってたらしいので、そのすじの縁がありましたんやろな。
ちなみに、イソゾの父親の名前は、なんぼ聞いても思い出せまへん。けったいな名前だす。せやけど、働き者で朝から晩までタタラを踏んどりま。
あるとき、イバレ王は、
「鉄の鋤・鍬つこて、もっと田を増やすべし」
て、言わはりました。
カハチでは、鉄は貴重品やさかい、農作業にはみんな木でつくった道具をつこてます。
せやから、鉄の鋤・鍬をつこて、なんて話はまともに聞いとりまへんでした。せやけど、しばらくするとイバレ王はワレの村に鉄の鋤や鍬を5本ずつ置いていかはりました。隣の村にも配ったそうだす。
女房の実家につくらせたんでしょうな。
貧乏な王さんやのに、えらいこっちゃと思いまして、それからみんな開墾作業に励みましたわ。
そうして米がぎょうさんでけるようなりましたらな、どこからともなく強盗団がやって来よりました。
人数は20人ほどやったんですが、みんな怖いので黙っとりました。
言葉がワテらとはちごうてましてな、何言うとるんかわからしまへん。着てるもんはえろう高価な絹織物みたいなもんを着とりまして、持ってる武具も高価なもんなんですわ。
せやけど顔が怖い。それに、おなごを見ると犯します。腹にすえかねて、やめや、ゆうたら殺されます。
えらいことになりました。
そうすると、イバレ王が出て来はりましてな、
「皆で戦うぞ」
言いますねん。
王には手下になる武士が5名ほどおったんですが、それだけでは足らんので、ワレら百姓も戦え、ゆうんですわ。ワレなんかは怖いもんでぐずぐずしとりました。そうすると、
「ワレ何さらしとんねん!」
言われましてな。しゃあないからワレも武士団に入りました。
せやけど、百姓には槍も矛もあらしまへん。
王さんにもろた鉄の鋤や鍬があるだけですがな。
そうしましたら、イバレ王は、
「そんでええから、やれ」
言わはるんですわ。
そうするうちに人数がけっこう集まりましてな、
みんなで囲んで盗賊団を叩き殺しました。
ただ、イバレ王は盗賊団の統領だけは生かしておきましてな、
「あちこちで盗んだ金品を出せ。出せば殺しはせん」
言わはりました。
強盗団の統領はなんとなく言葉がわかったらしく、宝の隠し場所を吐きよりました。
それで、その隠し場所からぎょうさんいろんなもんをみつけました。
せやけど、イバレ王は、まだもっとあるはずや、言わはりましてな、
「別の隠し場所についても言え」
言わはるんですわ。
しかし、盗賊団の統領はシラをきりよりました。
「他にはない」
みたいなことを言いよりました。
そうしましたらイバレ王は鍋に湯をぐらぐら沸かしよりまして、その鍋のなかに石を落としまして、
「拾え」
言わはるんですわ。
「拾ろたら信じたる」
いうことですわ。
隠し場所をゆうたら殺さん、ってゆうてしもうたさかい、殺すぞ、とは言われんもんで、それで石を拾え、ゆうことになったんですな。
せやけど、ぐらぐら沸いた鍋の石なんぞよう拾いませんがな。
だいたい、そげな拷問は初めて見ました。みんな驚きましたわ。
統領は結局、もうひとつの隠し場所を吐きよりました。
そこにはけっこうな銭がありましてな。ツクシの先の大陸から持ってきたもんのようでした。
それで、貧乏やったイバレ王はけっこうなカネ持ちになりよりました。
そうしましたらな、イバレ王はまた鉄の鋤や鍬を皆に配りましてな。おかげで、カハチの田はしばらくすると3倍ほどに増えました。
ほいで、みんな人手が足らんようになりましてな、ツクシの方やらキピの方やらあちこちから下戸を買うてきましたわ。
カハチは人の数も増えて、田も増えて、えろう大きな国になりよりました。
しばらくすると、カハチ王はヤマト王と名乗りを変えまして、カハチの奥のカシハラゆうとこに都をつくりはりました。こんときも現地の者と小競り合いがあったようです。




