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第1章 帥升の朝貢



     一


 私の父は漢人であった。大陸で暮らす武人だったらしい。が、合戦に負けて奴隷となり、洛陽でウガヤさまに買われたそうだ。

 母は、この地に最初に奴隷として連れて来られた者たちの子孫だそうだが、その祖先の地がどこなのかはわからない。ただ、ングワム(黄河)のあたりにあった太古の昔の王朝の民だったと聞いている。

 ちなみに、それらの者たちは百姓をするために買われてきたが、米のつくりかたは知らなかったらしい。水田のつくりかたを百姓に教えたのは大人だいじんさまだったようだ。

 ちなみに、奴隷としてこの地に来て、代々百姓をしている者たちのことを下戸かこという。

 下戸たちを統治しているのは大人だいじんさまである。大人さまたちは太古の昔からこの地で暮らしており、肌の色がちがうし、髪の毛はちぢれている。

 下戸の肌は大人さまのように黒くない。髪は直毛である。


 私の母は美しかったゆえに少女時代はウガヤさまの妾であった。が、やがて父に払い下げられた。私はその二人の間の次男である。

 ゆえに、私は黒い肌の王族ではなく、田に生きる百姓でもない。弓や釣り糸を引く力は持たぬし、泥のなかを漕いで進む力もない。

 が、父に教わった漢語が使える。数字も読める。ウガヤさまが村々を巡るときは書き付けを取り、祭祀や収穫の段取りを記す。


 ウガヤさまのクニは、大陸の国のように大きくはない。千人ほどの村が3つ、さらに海を渡った半島に2つの村がある。

 村々は稲を植える百姓たちで満ちていたが、大人さまたちは別の暮らしをしていた。

 かつては川上に別の集落を構えていたと聞く。

 だが今は、百姓の村の中央に柵で囲んだ一郭を築き、その中に住まう。柵の中に下戸が足を踏み入れることは許されない。


 大人さまは狩りや祭祀をして百姓たちに命令を下す。  

 米づくりは百姓の務めと定められていた。


 我々はイヌを飼う。これは肉を得るためである。子犬は成犬になると屠られ、食卓にのぼった。それは百姓にとって当たり前の糧であったが、大人さまたちはそれを卑しいと見下している。大人さまたちにとっての肉は山や海のものであり、小屋の中で育てるものではない。


 私には皆に隠れて逢瀬する娘がいる。名をアヤという。

アヤは大人の娘である。黒い顔には刺青があり、髪はちぢれている。手足は長く、乳や尻には張りがあった。声には気品があるが、怒ると怖ろしい。

 アヤには私以外にも男がある。が、私といるときが一番楽しいらしい。


 今朝のことである。

「今日は石神さまの後ろの森よ」

 とアヤは言った。私は勇んで森に出かけた。


 そこには大きな石がある。遠い昔に海の向こうから運んで来たものだと大人さまたちは言っているが、私は信じていない。どんなに多くの人手を集めたとしても、人の力で運べるような石ではない。しかも、その石はひとつではない。


 アヤはその石の後ろにいるはずだった。だが、そこに立っていたのはウガヤさまだった。

 「オマエ、ここで何をしている?」

 とウガヤさまは言った。

 私は正直にアヤの名を口にした。嘘をつく勇気はなかった。

 すると、ウガヤさまはニッコリ微笑まれた。私は一瞬、安堵した。が、それですむはずがなかった。


 その晩、私は柵の内へ呼び出された。

 焚き火が揺れる中、大鍋がぐらぐらと煮え立っていた。鍋の底には丸石が沈められていた。


 「拾え」

 ウガヤさまは静かに命じられた。


 神の心にしたがう者は火傷しないと言われていたが、湯のなかに手を入れて火傷を負わなかった者を見たことがない。だが、私は膝をつき、腕を湯の中へ突っ込んだ。 

 生きるためにはそれをしないわけにはいかなかった。

 瞬間、腕は刺すような痛みに包まれた。

 急いで石をつかんだが、これも熱かった。

 呻き声をあげながら石を鍋の外に置いたとき、手のひらの皮が剥けていた。


 なお、私はそれだけのことでゆるされた。

 ウガヤさまには私が必要だったのだ。

 だが、アヤはゆるされなかったらしい。

 その後、アヤの姿を見た者はいない。

 人々の口伝では、彼女はイヌの餌にされたという。が、私は信じていない。アヤは遠いクニの大人のもとへ送られたのだと思う。



     二


 ウガヤさまはイノシシを捕る。浅瀬にクジラやイルカを追い込んで捕ることもある。着飾ったウガヤさまが獲物を配下の者に担がせて村に戻ってくるときは、何があっても皆でひれ伏した。


 年に2回、稲刈りが終わるとウガヤさまは丸木舟の船団を率いて村々を巡った。

 百姓たちは収穫した米を袋に詰めて船団に積み込む。

 私はその袋の数を記録する。


 あるとき、その私の記録と倉庫内の袋の数が合わないことがあった。大問題になった。

 しかし、しばらくすると犯人が判明した。


 山の中で発見された倉の中には百をこえる米袋があった。

 ずらりと並ぶ米袋を見て、私は思わず息を呑んだ。これだけの米を隠し持てば、2百人ほどが冬を越せる。

 犯人はひとりではなかった。

 首謀者の名はタルといった。


 縄で縛られたタルはウガヤさまの前に引き出されて膝をつかされた。

 タルは30年前に大陸から連れてこられた鉄の職人の子であった。鍛冶場を受け継ぎ、鉄を打ち、刃物や鍬や鋤を作り、村々の田を広げてきた。その功績は疑いようもない。実際、ここ10年でウガヤさまの水田は2倍に広がった。


 「鉄があったからこそ田が広がった。もはやワシの働きなくしてウガヤさまのクニは成り立たない」

 タルはウガヤさまの前で言った。そして、自らが三つの村のどれかの長になるべきだと、何度もウガヤさまに訴えていたことを申し述べた。


 ウガヤさまは、しかし、ニッコリ微笑んだだけだった。


 タルは密かに隣のクニの王と通じていた。

 そのクニの名は、「ノ国(奴国)」という。


 そのノ国の王の曾祖父は漢王朝から金印をさずけられており、代々その威光をもって多数の兵士を配下に置いていた。

 タルは、その兵を借りようと考えていた。

 今回見つかった米袋は、借りた兵士への報酬となるはずだった。


 村人たちの前で、タルは縄に縛られながらも声を張り上げた。

「ワシはただ正当に報いられたかったのだ!」


 広場にざわめきが走った。多くの百姓はタルの鍬を使って田を耕してきたのだ。誰もがその功績を知っていた。 

 しかし同時に、タルの裏切りが身の程知らずなことであるとも感じていた。


 やがてウガヤさまは立ち上がり、松明に照らされた黒い顔で一同を見回しながら言い放たれた。

「タルよ、ワシに刃向かうとは愚かなことだ」


 沈黙が降りた。


 その後の裁定は苛烈であった。タルは大きな甕棺かめかんに生きたまま入れられて埋められることとなった。タルの手下となった者、運び手、見張り、帳簿の木簡を改ざんした者などからは合わせて160人が選ばれた。

 彼らは「生口」として漢(後漢)の皇帝へ献上されることになった。


 ウガヤさまには考えがあった。

 ノ国王は金印をもらって漢の皇帝の手下となっている。そのノ国王と通じた者たちも漢の皇帝の手下だということになる。ならば漢の地に帰るべきだと・・・・・・。


 出立の日、160人は縄で繋がれ、船へと押し込まれた。別れを惜しむ女のすすり泣き、子の叫び、男の呻きが波に吸い込まれていった。それらの声が土中のタルの耳に入ったかどうかはわからない。



    三


 海へ漕ぎ出した船団は、秋の北風に押されるように半島を目指した。

 航路は数千年まえから同じらしい。

 まずはイキ島(壱岐島)を目指し、次にはツマ島(対馬)を目指し、大陸の半島の海岸が見えたら西に沿って進み、さらに海岸に沿って北に進み、ラクロ(楽浪)と呼ばれる半島に突き当たったらそこから西に進み、マラードン(山東)という半島の北側に渡る。そこから北上してングワム(黄河)に入る。


 船はすべて丸木舟であった。各艇には7名から10名が乗った。小さなマストがあり、ムシロのような帆があったが、それで得られる推進力はわずかであった。なので、縄で繋がれた生口たちは沖に出ると縄をとかれ、櫂を漕がされた。


 ウガヤさまが乗った先頭の艇には中央部に小さなやぐらがあり、そこに銅でできた太鼓が吊り下げられてある。これを叩くとかん高い音が海面から深海にまで染みこんだ。その音を聴くとイルカやクジラは逃げ散った。


 ウガヤさまは先頭の艇の船首に腰をおろし、胸を反らせて微動だにしなかった。その黒い顔は波の飛沫に濡れて光り、海を切り裂く岩のように見えた。


 ウガヤさまはノ国王と漢の皇帝との関係をなんとかしたいと考えているようだった。だが、具体的にどうしたいのかまではわからなかった。


「自分も金印をもらうつもりなのだろう」

 と、皆は語っていた。生口を多数献上するのはそのためだと言う者が多かった。だが、私にはそうは思えなかった。ウガヤさまはだれかの機嫌をとって獲物を得る人ではなかった。

 


 航海は順調ではなかった。

 日照りの翌日には突風が吹き、いくつもの艇が転覆した。これによって積荷の多くが失われた。しかし、死人は出なかった。

 漢やノ国は大きな船を使うが、大きな船は転覆すると沈む。しかし、我らの艇は転覆しても沈まない。


 ングワム(黄河)に入って数日が過ぎると洛陽の港に着いた。


 石を積んだ白壁の建物、帆を下ろした異国の船、そして城門を守る兵士たちの鉄兜。

 それらの光景は遠くから観ているぶんには夢か幻のようだった。だが、上陸すると港はいつもごったがえしている。汚物がそこらじゅうに散乱しており、ネズミが走りまわっており、病人や死人がそのへんに放置されていた。市ではイヌの肉と人間の肉が一緒くたに売られている。


 港から道に入ると荒涼たる景色になった。

 生口たちは縄でつながれ、砂塵にまみれて進んだ。彼らの目には恨みと絶望が入り混じっていた。

 その列の最後尾を見やりながら、私は胸の奥で思った。

 ……生口たちはこの地で何年生きられるのだろう?

 

 洛陽の城門に近づくと、すでに別の異国の隊列が到着していた。

 金色の冠をいただいた男が鮮やかな絹の衣をまとって輿のうえであぐらをかいていた。10人ほどの兵士が交代でその輿を担いでいた。その背後には、槍をたずさえた兵士たちが10人ほどいて、多数の荷車を押す者がつづいていた。


 「あれはノ国の使者か……」

 と、私が呟くと隣にいた大人さまが声を潜めて私に尋ねた。

 「ウガヤさまはノ国の使者が来ていることを知っていたのだろうか?」

 私にわかるはずがなかった。


 ノ国の使者は我々を発見すると輿に乗ったまま近づいてきた。そして、こちらを見下ろし、繋がれた生口たちを見やると鼻で笑った。

 「献上品が生口ばかりだな」


 ウガヤさまは、しかし、表情を崩さなかった。

 ただ胸を張り、低く響く声で答えられた。

 「ワシは金印をもらいに来たわけではない」


 ノ国の使者の顔がひきつった。

 だが、何も言わずに自分の隊列に戻っていった。


 洛陽の街の城郭は巨大な壁である。我々はその南側の門の前に立っていた。

 門には三つの扉があり、中央の大きな扉は閉ざされていた。

 しかし、ノ国の使者が漢の兵士に金印を見せると中央の扉が開いた。


 我々は待たされた。


 日が沈んでも中には通されなかった。

 「メシを食おう」

 と、ウガヤさまが言ったので皆その場で炊事をはじめた。


 すると漢の兵士たちが寄ってきた。

 「やめろ」

 と言っていたが、ウガヤさまは返答しなかった。

 大人さまのひとりが大柄な兵士の甲冑の肩に手をかけ、ニコニコ笑いながらなにごとかを告げた。

 すると兵士は怒りだし、その大人さまの手をつかもうとした。

 だが、大人さまはその兵士の手を逆につかみ、

 「怒るな、怒るな」

 と言った。

 言葉が通じなかった。

 その大人さまは多数の兵士に囲まれた。

 私はあわを食って中に入り、

 「我々は腹が減っている」

 と漢語で何度も叫んだ。

 兵士たちは私を殴って去っていった。


 ウガヤさまはその一部始終を黙ってご覧になっておられたが、兵士たちが去ると側近を呼び、私の方に顔を向けられた。

 側近に呼ばれ、私はウガヤさまのまえにひざまづいた。

 「ご苦労だった」

 と、ウガヤさまは笑った。アヤとのことで私が鍋の石を拾ったことは覚えておられないようだった。



    四


 翌朝、漢の兵士の合図があり、我々は城壁の中に入った。中央の大扉は開かず、左側の小さな扉から入った。


 洛陽の街路は、我らの集落とはまるで異なる姿をしていた。

 道は硬く突き固められてあり、両脇には二階建ての楼閣が並び、軒先には赤や黄の布がはためいている。香辛料の匂い、家畜の糞の匂い、鉄を打つ音、人の叫び声が入り混じり、空気がざらついていた。


 我らは漢の兵とともに街を進んだ。

 縄で繋がれた生口たちは俯き、足を引きずりながら歩いた。

 見物人が群がり、子どもが石を投げた。着飾った女たちは袖で鼻を覆い、乞食は指をさして笑った。


 異国から来た皇帝への「献上品」は、洛陽の市民にとって見世物でしかなかった。


 やがて道は広がり、白壁の高殿が見えてきた。

 その奥に天を衝く宮殿の影がそびえていた。

 行列が進むと、楼門が見えてきた。その屋根の上には大きな扁額が掲げられており、そこには「南宮」の2文字が金色に輝いていた。

 首をのばしてそれを見上げた生口たちは足をもつれさせた。

 楼門の階上に見え隠れしていた宦官たちは頭をつるりと剃り上げ、遠くから見てもわかるほど煌びやかな衣に身を包んでいた。

 ねっとりした雰囲気が濃く漂っていた。


 また大扉があった。その左右には小扉があった。

 多数の人間が中に通されるのを待っていたが、ノ国の使者は見あたらなかった。


 我々はまたしても待たされた。


 それでも、日が沈むまえには我々に向けた太鼓が鳴った。

 左側の扉が開き、

 「次!」

 という宦官の声が響いた。


 南宮の広間に入ると、視線の先に玉座が見えた。だが、そこに皇帝の姿はなかった。黄金の冠が置かれたまま、椅子だけが虚しく輝いている。


 広間を取り仕切っていたのは宦官たちであった。

 よく見ると、その宦官たちの横にノ国の使者も腰かけていた。

 使者は黒い顔をこちらに向けて白い歯を見せていた。


 「次!」

 と、また宦官の声が鳴り、ウガヤさまは前に出られた。

 しばらくすると、ウガヤさまはこちらを向かれ、私を手招きされた。



     五


 宦官とのやりとりは要領を得なかった。

 皇帝への面会はかなわなかった。

 我々はどこぞの田舎の野蛮人のようにあつかわれた。

 ウガヤさまが砂盆に書かれた文字は「夏」ではなく「面土」と木簡に記された。



 広間を出るとウガヤさまは黙りこくった。

 そのため、皆も黙って歩いた。

 宦官たちの態度はゆるせなかったが、それ以上に皆のはらわたをえぐったものがあった。

 ノ国の使者のせせら笑いである。

 我々はたしかに漢人の城の中のことを知らなかった。事前にだれかに話を聞いておけば恥をかくこともなかったろう。我々には落ち度があった。

 が、それにしても、ノ国の使者がなにゆえ漢人の宦官たちとともに我々をあざけるのだろうか・・・・・・。

 ウガヤさまが黙りこくるのも無理はなかった。


 港に着く手前に奴隷市場があり、ウガヤさまはそこでようやくクチを開かれた。

 「漕ぎ手を百人買っていこう」


 160人の生口を献上したのはいいが、それらがいなくなると帰りの舟があまってしまう。多数の舟を置き捨てて帰るなどはあり得なかった。なので、舟を持ち帰るための漕ぎ手が必要だった。

 

 奴隷市場は、ちょっとした広場になっており、木の柵がいくつもあった。柵の内には裸同然の男女が押し込められ、買い手の目にさらされていた。

 ほとんどは下戸とおなじだったが、なかにはウガヤさまより黒い者もあり、金髪碧眼の者もあった。


 商人は声を張りあげる。

 「若い男、ひとり3千銭!」

 「若い女は千銭からだ!」

 「食用のは5百!」

 「子どもは一律6百!」

 値踏みの声に混じって、怒鳴り声や笑い声が聞こえていた。


 ウガヤさまはひとつの柵の前に立ち、腕を組んで動かなかった。

 私は商人の前に立ち、

「舟を漕げる若い男を百人欲しい」

と伝えると、商人は目を輝かせ、算盤に算木を並べて勘定をはじめた。

 「百人となると30万銭だな。銭3百貫だ!」

 そう言いながら、商人は仲間の商人を手招きして呼び集めた。

 百人の奴隷をそろえるのはひとりでは無理だったらしい。


 銭は私が預かっていた。しかし、3百貫もあるわけがない。3百貫の銭を運ぶとなると人足が20人では足りない。

 だが、我々はウルシ塗りの櫛や食器なども持参しており、それらは高値で取引されていた。また、南宮を出るときに無礼な宦官から絹や木綿や青銅の酒器などを頂戴して荷車に乗せていた。


 ウガヤさまは漕ぎ手となる男子を買うとおっしゃっておられたが、やけに厳しい人選をされた。そして、それはたんに漕ぎ手を買うということではなくて、屈強な兵士を買おうとしておられるのだとわかった。


 人選が決まると、値段の交渉はわりと早く終わった。

 ウガヤさまはだらだらと交渉するのが嫌いなため、高い買い物をした。

 それでも手元には30万銭が残った。持ってきたのは10万銭だったので20万銭の儲けになったと言える。

 が、そのとき、ウガヤさまが最初に目をつけた柵にもどられた。そこにいた女奴隷が気になっていたらしい。

 それは黒い肌の大人の娘だった。

 アヤによく似ていた。


「おまえはどこのもんだ?」

 と、ウガヤさまは娘に尋ねられた。

 娘はなにやら答えたが言葉が訛っていてわからなかった。

 だが、ウガヤさまにはわかったらしい。

 「ピエンハン(弁韓)か・・・・・」

 と、ウガヤさまは娘の髪の毛を見られた。

 たしかに髪型が雅びていた。

 

 ピエンハンには大人の村がいくつもあり、米と鉄をつくっていた。

 住人のほとんどは下戸の子孫であったが、長となる者は大人であった。

 そこでは、大人の長が死ぬと妻や奴隷が殉死させられて一緒に埋められた。

 奴隷となった娘はそのような村の生まれだったらしい。

 で、殉死させられるのがいやで逃げたらしかった。


 「この娘も連れていく」

 と、ウガヤさまは言われた。


 商人はウガヤさまの様子を見て値をつり上げ、3万銭を要求した。が、1万銭で話がついた。


 こうして我らは娘ひとりと百人の兵士を買い入れた。

 縄をつけられたまま連れてこられたそれらの目は虚ろで、遠い空を見ていたが、メシを食わせると驚くほど元気になった。私の父もこうしてウガヤさまに連れて来られたのだなと思うと涙が出た。


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