これからへ
「こちら目標を発見。殺します」
「了解、やれ」
少年は手から槍を作り、それを目標へと投げる。
投げた槍は、見るからに怪しい集団に直撃した。土煙が舞い、辺りが見えづらくなる。
「おい!全員無事か?」
リーダーらしき者が叫ぶ。
しかし誰からも返事はない。聞こえるのは、部下の戦闘音、断末魔。しかもそのすべてがものの数秒で消え失せる。
「お、おい·····、おい!」
口煙が解消され、辺りが見えるようになった。
そこで目に入るのは、部下の死体と、1つの月光に照らされる黒いシルエット。
「くそっ!どこから情報が漏れた·····」
男は、震える手で短剣を投げる。だがそれは弾かれてしまった。
しかし男の闘志は消えていない。
「死ねぇっ!」
すると弾いたはずの短剣が、少年のほうに飛んでいく。それはどうやっても防げない角度。
しかし少年は、避けもしないし、防ごうともしなかった。短剣が少年に刺さった·····はずだった。
「ガンッ!」
短剣は、何か硬いものに当たったような音を立て、弾かれた。
そこで、男は何かに気づいてしまった。
黒い軍服、腕には爪の尖った籠手がある。
そして極めつけは攻撃の通らない体·····。
「防衛隊の異常者か·····」
少年は何も言わず、男に近づく。
「くそが!」
男は4本の短剣を取り出す。2本は手に、もう2本は空中に浮いている。
男は近づく少年から目を離さない。
少年は手から剣を作り構える。
静かな時間が過ぎ、男が前に出る。
空中の短剣が、少年の頭めがけて飛ぶ。
そして懐に入ろうとした。
が、少年は飛んできた短剣をもろともせずに男を真っ二つにした。
男が最後に見た光景は、顔に黒い殻の様なもので顔を覆っている少年だった·····。
この世界には、樹力と呼ばれる、世界樹から授かるとされる能力がある。樹力は様々で、氷を出す能力や風を出す能力がある。
その中でも樹力を持った者は、6つのランクに分けられる。
一般樹力者
ただの一般的な樹力を持った者。
希少樹力者
不思議な樹力を持った者。
覚醒者
樹力を一時的ではあるが極限まで使いこなす、実力開放を行える者。
異常者
異常な思想を持ち、樹力が異常に発達した者。
超越者
異常者であり、覚醒者でもある。人知を超えた存在。
樹人
世界樹の力を持った者。その者が生きている間は、世界樹が切られても何処かでまた生えてくる。
これは、そんな世界を生きる人達の物語である。
日本樹力防衛隊、第4隊基地。
山の中にあるその基地は2つの目的の為にある。それは世界樹と樹人の守護の為。
そんな基地から1人の少年が出てきた。
名は黒神一色。15歳とまだ若いが、この2つの目的の為に日々懸命に戦っている。
どんな日も、何があろうと一色は戦う。
それには色々な事情はあるが、一番の理由は·····
「おかえり〜!」
「ワンっ!」
姉の蓮華を守るためだ。蓮華は樹人であるがゆえ、色々な者から狙われるのだ。
その脅威から一色は何としてでも守ろうとしていた。それは兄妹であるだけではない、義務のようにも感じられた。
「今日はクロと一緒に晩ごはん作ったから!たくさん食えよ!」
「おぉ、クロもありがとう」
クロがコクッと頷く。
クロは、蓮華と一色に取っての保護者の様で、ペットの様で·····。とにかくそんなところだ。
獣の耳があり、尻尾が生えている。樹力で狼の下僕を作ることができる。
口数は少ないが、しっかり面倒見を見てくれる。
そして何かの見返りには頭を撫でてもらう。
なので保護者兼ペットの様な存在だ。
「いただきます」
3人が食卓に揃い、ご飯を口に運ぶ。
「やっとね、入学式」
蓮華が喜ばしそうに言う。
「確かにやっとだな。それで正式に姉ちゃんの後輩かぁ·····」
一色が空笑いする。
「なんで嫌そうなのよ?」
蓮華が威圧的な目を向ける。
「ぜ、全然嫌じゃないって·····」
その言葉を聞いて蓮華はにこっと笑ってご飯を口に運んだ。
その光景をクロは見慣れているのか、下僕の狼にご飯を分けている。
これが黒神家の日常だ。
ご飯を完食し、全員が風呂に入り終わった。
後は布団に入って寝るだけ。
「しっかり寝て明日に備えるのよ」
蓮華が一色の部屋を開け、声を掛ける。
「分かった」
一色はパソコンとにらめっこしながら答えた。
この様子だと寝るのは遅くなるだろうと蓮華は感じていたし、早く寝る気がないのも分かっていた。
部屋のドアをそっと閉じようとした時、クロが一色の部屋に入っていった。
そしてパソコンとにらめっこする一色をひょいっと持ち上げ、お姫様抱っこした。
「ちょ·····何して」
下ろした場所はベッド。起き上がろうとする一色に無理矢理クロは布団をかけた。
「おやすみ」
そう言って一色を意地でも眠らそうとした。
観念した一色はため息をついて、おやすみと言った。
それを見た蓮華は笑って、またおやすみと答えた。
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