街の外れの丘の上で、アルドに精霊について教えてやった
アルドの父親、フィデリスの突然の死。
息子アルドや、フィデリスの仲間フロースとアリシア。
そして、グラティアはそれぞれにフィデリスの死を受け入れる。
アルドの父親、フィデリスが亡くなってから数日が経った。ルミノース王国は多種族国家のため、亡くなった者を弔うやり方も様々である。エルフ族の場合は、元々仲間同士で群れることもあまりないからか、同族や親族を看取ること自体が少ない。特に以前に言っていたような生きる気力を無くしたエルフが死ぬ場合などは、どこか山の奥であったり、海の果てだったり、人目につかない所へ行った上で孤独に死ぬことが多いため、葬儀という習慣自体がない。
魔族に至っては、もちろん種族にもよるが人族のように肉体と魂が別々ではなく、魂そのものが具現化しているような個体もあるので、死というかその存在が消滅する時は、文字通り消えてしまうことが多い。獣人族や人族にそのまま取り憑いてしまうパターンもあるし、そうでなければ無に帰すだけなのだ。
獣人族と人族は寿命や姿形を除けば生活自体も似通っていることもあり、亡くなったあとの弔いに関しても割と近いものがある。火葬か土葬である。ただし、種族やそれによって何を信心するかも違うので、生まれ変わりを強く信じるものは土葬が多い。これはあくまでもイメージだと思うが、火葬にした場合肉体を滅ぼしてしまうような、自然に還る土葬とは少し違う感覚になるからであろう。まぁ、私にしたら転生をした者の体験談などを聞いたわけではないし、私自身、当たり前だが死んだことがないのでわからない。
フィデリスはマグヌスの街から出て少し離れた小高い丘に、葬った。私が今いるのは、そこから少し離れた、マグヌスの街全体を見渡せる丘の上の草原である。
「アルド、少しは落ち着いたか?」
「うん。大丈夫だよ、グラちゃん。見てみて、今日はとてもいい天気だよ」
丘の上は見晴らしも良く、今日はアルドの言うように天気もよくて、気持ちのよい風が吹いていた。私はこの丘の草原で時間を過ごすことはあまりなかったのだが、アルドはここがお気に入りのようである。父親のフィデリスが、アルドの小さな頃によく連れてきてくれたという理由を前に聞いたような気がする。
「そうだな、実に良い天気だ。こんな日は風の精霊ウェントゥスや、草木の精霊ヘルバが喜んでいるぞ」
「そういえば、グラちゃんって精霊と会話ができるんだっけ?前に教えてくれた魔法を使う時も、色んな精霊の力を借りているんだよね?」
「まぁ、会話と言ってもアルドと話してるように話すわけではなくて、感じるという程度のことだがな。うんうん、魔法は基本的に精霊の力を借りて、何か物質に作用させたり、自然現象を大きくしたり、逆に小さくしたり、そんな感じかな。たまに魔法を使えない者が勘違いしてるのは、なんでもアリのような言い方をしている時があるが、実はそうではない。魔法は便利だが万能ではない」
アルドはわかってるのかわかっていないのか、何度も頷いているが、なんだか私の顔を見ているばかりで、話を聞いてるのかと思ってしまう。
「グラちゃんってさ、すごい色んなこと知っていて、すごく強いし、お金持ちなのに、偉そうにしていないよね?エルフ族がみんなそうってわけじゃないんだろうけど、なんか不思議」
「アルドはたまに変なことを言うな。知識や、力。財力、魔法など、それの有無でその生き物の価値が決まるのか?まぁ…確かに人族や獣人族は金や力を持っているものが偉そうにしていることが多いかもしれないが。あぁ、たまにエルフ族や魔族でもそういうのもいるな…種族は関係ないな。それこそアルドは短命である人族の中では、聡明であると私は思うぞ。決して私がそうだとは言わないが」
ぽかぽかした日差しが暖かく、その中で涼しい風がちょうど心地よい。ここルミノース国の中央都市マグヌスは、大陸のほぼ真ん中あたりに位置していて、北は山脈、東は森林、西は草原と、割と気候が穏やかな要素がそろっていて、暮らしやすいと思う。おそらくだがそういう条件もあって、ここに街が出来たのもあるかもしれない。それは私の推測だが。
「僕はそんなに大層な人じゃないよ。もしグラちゃんがそう言ってくれるとしたら、きっと父さんのおかげかな。僕自身はまだまだ1人ではできること限られてるし、美味しいものは食べたいし。あとついでに言うと、限りある命だけども、できるだけ長くグラちゃんといたいって思うから。欲望だらけだよ」
「そう言って、自分の欲というのを制御できてる時点で人族の平均よりは優れていると思うぞ。あ、そういえばアルド。前にも一度話したかもしれないが、精霊についての話を少し聞かせてやろう。先ほども少し話したことの続きだがな」
アルドは頷いて、先を促す。
「この世界には、様々な精霊が存在している。そして、その精霊のおかげで生物はこうやって生活ができている。水の精霊アクア、火の精霊イグニス、風の精霊ウェントゥス、土の精霊ヒュームス、まぁいっぱいあるから名前を言うのはこのくらいにするが、自然界を司る精霊や、その他にも感情や精神を司るものもいる。まぁこの世界が存在することにはほぼ全て精霊が関わっているとも言えよう」
「うんうん、その精霊たちのおかげで僕たちが食べている野菜や果物、お肉や魚などもあるんだよね。精霊って、僕はもちろん見えないんだけど、グラちゃんは見えてるの?」
「この目で、形として見えているかという質問なら、見えていないな。だが、精霊の存在というものは常に感じている。というか、私が使っている魔法は、そういう精霊に働きかけて助けてもらっているという感じだからな。あ、これも前に言ったかもしれないが、私も元々は精霊の一種らしいぞ。精霊…というか妖精になるのかな。神の種類みたいなものらしいからな」
「すごいよね、グラちゃん。これだけ街のみんなと馴染んでる神様もそういないような。でも、グラちゃんの人柄が街のみんなも好きだから、声をかけられたり、嫌な扱いをされたりもしないんだと思う」
んー、それはどうなんだろうか。
「まぁそれはわからんが…あ、そういえばアルド。お前にこれをやろう。人族の場合は男が女に贈ることが多いらしいが、たまには女が男にあげてもいいだろう」
私は小さなそれをアルドに投げてよこした。
「わっ!急に投げないでよ!え、何これ…指輪??え、どういうこと?」
「精霊の加護が付与されている指輪だ。まぁアルドがそれを使うことはないと思うが、アクセサリーとして身につけておくといい。あまり凝った装飾のないシンプルな造りだから、アルドには似合うと思っていたのだ」
「すごい!そんな凄い指輪貰っていいの?でも、グラちゃんからの贈り物、嬉しいかも。ありがとう」
アルドはそれを左手の薬指に嵌めた。ちょうどそこがぴったりだったようだ。指輪を見てにこにこしているアルドの笑顔は、幼い時の顔によく似ていた。
「なんの精霊だったかな…幸運の精霊フェリキタスの加護だったと思うが、忘れたけどまぁいいだろう。私と一緒にいれば元々精霊の加護は受け放題だからな」
その時、2人がいた丘の上の草原の向こうから、声がした。
「あっ、こんなとこにラブラブのカップルみっけ!久しぶりだね〜!」
グラティアとアルドに急に話しかけてきた、軽い調子の声。
この軽い調子は誰だろう。
◯ルミノースプチ情報
ルミノース王国においては人族は16歳を迎えると、冒険者ギルドに登録できるようになる。あと酒場にもひとりで行けるようになる。大人という扱いというわけだ。獣人族は短命のため体の成長を見てになるが、およそ5歳くらいが人族でいう成人年齢ということになる。魔族とエルフ族は一律20歳以上が大人扱いということになっているが、年齢自体あまり確かではないことのほうが多いため、そのあたりは曖昧である。




