皆で行く酒場もなかなか良いな
フィデリスと、その仲間フロース、アリシアと合流し、酒場の中に入る、グラティアとアルド。
そこで、エルフであり吟遊詩人の、ムジカを見かけた。
「それでは、皆さんの健康を祝して…ヴィゴール!!」
「「「「ヴィゴール!!」」」」
ヴィゴールとは直接の意味は元気とか、活気とか、活力とかいう意味だが、ルミノースにおいては、酒を飲むときのかけ声としてよく使われている。まぁたまにあるがお店の宣伝だったり、この店にヴィゴールと言いにいこう、みたいな経済戦略とかもきっとあるに違いない。なぜなら100年以上前にはそんなかけ声はなかったからだ。こういうのは仕掛け人みたいなのがいると、私は思う。まぁ楽しければいいのだがな。
「で。お前はなぜこの席に座っているのだ?ムジカ」
カウンターに座っていた、吟遊詩人のムジカがそのまま私達の席に座っていた。
「まぁまぁ。グラティアと会ったのは何十年ぶりというくらいなんだから、たまにはいいんじゃない?ダメですか?」
このムジカという吟遊詩人は、私と同じエルフ族なのだが、なんというか…軽い。エルフだからこうしていないと、という決まりはもちろんないのだが、私もムジカのことは言えないくらいこのルミノースに馴染んでいるけども、ムジカの場合は軽いだけでなく、一種の図々しさがあるのだ。それをキャラで補っているような感じだな。
「この方はグラティア様のお知り合いなんですか?なかなかハイエルフの方達と飲む機会も少ないですし、みんなが嫌でなければご一緒しましょう?」
フィデリスは2人の仲間も含めて、リーダー的な存在のようだ。おそらく色んな場面でも指示をしたり、決断を下したり、複数の中で仲裁をしたり、場を上手くまとめることができるような、それを感じる。フロースもアリシアも特に異論はないようだし、まぁ私も賑やかなのは嫌いではない。ん?アルドだけがムジカに対して、なんとなく敵意を持ってるような感じだ。
「まぁ、私はどっちでもいいよ。その代わりムジカ、半分出せ」
「あはは、グラティアはそういうところはしっかりしてるというか、人族っぽい考えしてるよね。うんうん、いいよ。あ、皆さんよかったら飲みながら自己紹介でもしませんか」
ムジカは相変わらずちびちびとエールを飲みながら話す。はじめに取った皿の他には、ルミノース牛のローストビーフ、新鮮野菜とゆで卵の盛り合わせ、山盛りポテトフライのマスタードソースがけ、厚切りベーコンたっぷりのふわふわオムレツを注文していた。ルミノース牛のローストビーフは、岩塩を少しだけかけて食べるのだが、とても薄くスライスしてあって、柔らかくて美味い。結局自己紹介はムジカからすることになったみたいだ。
「じゃあ、僕からしよう。僕の名前はムジカ。エルフ族で、年齢は一応312歳になるかな。吟遊詩人という肩書きではあるけど、グラティアと同じで特に何をするでもなくふらふらしてるよ。あ、でも色んな国を放浪してるから、ルミノース以外の国の知識も多少だけどあるかも。そんなに詳しくはないけどね。次はグラティア、どうぞ」
ムジカが話す時は、なんか歌うような話し方というか、変に間があったり、聞いてるとむずむずする。それがいいという者もいるかもしれないが、私はどちらかというと苦手だ。しかも一生懸命食べてる私を指名するな。
「グラティアだ。248歳。そこにいるムジカとは知り合いというだけで仲良くはない。アルドとは今日友達になった」
「あの〜、グラティア様は、どのような魔法を使えるのですか〜??すみません、失礼な質問かもしれませんが…」
ハーフエルフのアリシアが聞いてきた。
「んー、どのようなと聞かれると困るが。精霊を介して使える魔法なら、たぶん全部じゃないかな。これが使える、これが使えないとか、気にしたことないからな…」
「えっ!全部…ですか。すっごいですね〜!私は補助魔法、治療魔法、ほんの少し攻撃魔法くらいです〜。あっ、しゃべったついでに自己紹介もしておきます。アリシアです、ハーフエルフです。82歳です。フィデリスとは組んでから8年くらいかな?でーす」
アリシアは、はじめの印象どおりおっとりした感じだが、明るくてエルフとしてはまだ幼い感じだな。でも、話してても嫌な感じがしないし、好感が持てる。
「あっ、じゃあ僕もついでに。フロースです、28歳です。パーティの雑用係です。フィデリスのパーティになったのは6年前です」
「俺はフィデリス。このパーティの一応リーダーをしています。3人だけだからリーダーも何もないですけどね。あ、38歳です。こいつは俺の息子のアルドです、アルド、なんか自分で喋るか?」
アルドが立ち上がった。
「はいっ、アルド、8歳です!大きくなったら父のような立派な冒険者になって、色んな国を旅して回りたいです。あっ、あと、グラちゃんとはお友達です!」
大人が多くて少し緊張気味のようだ。2人きりの時のほうが自然に話している気がするな。
「そういやアルド。グラティア様とはなんで友達になれたんだ?何かきっかけがあったのか?」
「街中で僕が声をかけたんだよ、お友達になってください、って。そしたらグラちゃんがオッケーしてくれたんだ」
お友達はオッケーしたが、その呼び方はオッケーしていない。フィデリスがエールを一口飲んでから口をひらく。
「グラティア様、あまり子供をからかわないでくださいね。アルドは歳は若いですが、結構真面目なので、冗談とかは通用しないんで…」
「ん?からかってないし、冗談で付き合ってはいないぞ。正直に言うが、人族や獣人族は短命なこともあり、あまり関わらないし、そもそも記憶にも残りにくいのだが、アルドは私が知ってる人族のイメージよりは随分しっかりとしているし、面白いと思う」
横でムジカが笑っている。
「へぇ、グラティア。なんか君が人族の子供を気に入るなんて珍しいね。まぁすぐに飽きるんだろうけど…」
ムジカの言葉を聞いて、アルドがむっとした態度になった。
「む、む、ムジカさん!僕は今日グラちゃんにお魚をごちそうになりました。とても美味しかったです。あと、僕が大きくなったら、お魚のお礼をするって約束したんです!」
「へぇ…そうなんだ。うん、うん。それはごめんね。僕もグラティアのことを詳しく知ってるわけじゃないからね。僕の勝手な推測で話してしまって悪かったよ」
ムジカはすぐにアルドに謝った。私はこのムジカという男のことはあまり知らないが、まぁ悪いやつではないのだろう。つかみどころがない感じはするが。
「あっ、お魚といえば、ここでも確か日によりますが、新鮮な魚を生で食べる料理があるらしいですよ。普段の食事では高くて頼めませんが、今日はせっかくみんなで集まれたことですし、頼んでみませんか?」
フィデリスが提案する。アリシアが横で顔をしかめた。
「えぇ〜!お魚を生でなんて、ちょっと臭そう…煮魚なら好きだけど…」
「生のやつと、煮魚と両方頼んだらいいんじゃない?これだけ人数いるし、適当に分けようよ」
ムジカも魚料理は好きなようで、結局店員を呼んで、今日のおすすめの魚の刺身の盛り合わせと、白身魚の煮付けを頼んだ。ついでに酒のおかわりも頼む。
◇ ◇ ◇
結局そのあと4〜5杯くらい飲んで、お開きになった。アリシアとフロースが帰る。
「今日は楽しかったよ。アルド、また会おうね。君がもう少し大きくなって、まだグラティアと一緒にいたとしたら、君に僕から歌をプレゼントしよう」
「えっ!ほんとですか?ありがとうございます、ムジカさん。楽しみにしてます」
ムジカも帰っていった。結局店の代金は私とムジカで支払った。フィデリスは少しほろ酔いのようで、ほんのり頬が赤くなっていた。
「すみません、グラティア様。結局お金出してもらってしまって。ごちそうさまでした!アルドもよかったな、美味しいものいっぱい食べれたな」
「うんっ!すっごく美味しかった。グラちゃんごちそうさまでした」
「うんうん、いいよ。私も楽しかった。たまにはこうやってみんなで食卓を囲むのも悪くないな。では、またなアルド」
フィデリスとアルドも帰っていった。私はひとりになった。うん、たまには何人かでの食事も悪くない。かといって毎回は騒がしい。たまにするから楽しいのかな。
単なる興味本位で人族のアルドと友達になったが、まぁもう少しの間、続けてみることにしよう。どっちにしても人族との付き合いは50年くらいのことだ。人族はあっという間に死ぬ。とてもあっけない生き物だ。
まだこの時は。これから8年後に起こることを、私は予想もしていなかった。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、248歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。
アルド(情熱):人族の男性、8歳。街中でグラティアを見かけ、声をかける。冒険者の父親と2人暮らし。
フィデリス(忠実):人族、アルドの父親、38歳。冒険者をしている、戦士。2人の仲間とパーティを組んでいる
フロース(花):人族、男、28歳。フィデリスとパーティを組む冒険者、剣士。おとなしい性格。
アリシア(誠実):ハーフエルフ、女、82歳。フィデリスとパーティを組む冒険者、魔法使い。おっとりとした性格。
ムジカ(音楽):エルフ、男、312歳。色々な国を旅して回る吟遊詩人。




