魚の好みと、貴族に対する偏見は変える必要があった
ポルトゥスへの旅は始まった。
グラティアも馬車に揺られ昼寝をし、アルドはいつもの耳なでなでを楽しんでいた。
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。街中で出会った人族のアルドに興味を示し、行動を共にする。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。二人暮らしだった父フィデリスは不慮の事故で亡くなる。グラティアに好意を寄せるが……。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの二人のことを気に入っている。女たらしだがグラティアのことは口説こうとしない。
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。ラグルス・ラジールの娘。母親は亡くなっており、ラグルスの考えでムジカやグラティアとの繋がりを作る意図もあってグラティア達3人に依頼を頼んだ。ルシーダ(明るい)
ポルトゥスへの道のりはあと半分くらいのようだ。
「わかったわ。皆さん、そこで私達も外に少し出て空気を吸いましょうか」
ルシーダが皆に言う。
「グラちゃんは、ほとんどお昼寝してたから休憩はいらなそうだよね〜」
アルドは気づいてなかったのか。半分は起きていたのだが。
ポルトゥスまではあと半分くらいのようだな。
「あ、そういえばマーズが言ってた採ってきてほしい素材って、なんて言ってたんだっけ?」
ムジカがルシーダに聞いた。
「えーと……メモで貰っているのでわかりますわ。ポルトゥスの沿岸の海底にあると思われる虹珊瑚と、これはなかなか難しいかもですけども、バタフライシャークの卵と書かれておりますね」
「え。海底とか行かないでしょ……もう無視しとこうよ、こんなの。バタフライシャークとか、普通に沖まで行かないとそもそも泳いでないと思うし」
あまり私は素材のことはそんなに詳しくないが(なぜかというと、ただやっつけたり破壊するほうの専門なので)恐らく高値で取引きされる希少素材なのだろう。ルミノース王国でも、どこにでもある植物や素材もあれば、場所が限定されるものもある。
「そろそろ出れますよ〜」
御者の声に反応し、また再び馬車に乗る。今度はムジカは私とアルドの方を向いて話した。
「ポルトゥスに着いたらさ〜、まず何食べる〜? お刺身? 焼き魚? 煮魚? カルパッチョ? 淡水魚ももちろん美味いんだけど、やっぱ広い海を泳いで育った海水魚だよね〜!!」
「おぉ、私はあれだな、前に居酒屋で食べた身の赤いやつが美味かったな。色は少し派手だが、少し白い線が入っていたものがトロっとしていて柔らかかった。あとは火を入れたものなら、甘辛く煮込んでいた、トロトロの白身の魚が好きだな」
「もう二人ともお魚の話ばっかりだね〜! でも、美味しそうだよね。僕はやっぱりグラちゃんと初めて食べた魚の丸焼きが一番美味しかったな〜。あ、でもあれって淡水魚になるのかな?」
三人とも食いしん坊なので、こういう時の話はだいたい盛り上がる。
「皆さんお魚の料理がお好きなんですね。私は丸焼きは食べたことはないのですが、普段食べるもので言うと、ムニエルと言って白身魚などにホワイトパウダーをまぶして、バターで炒めて味付けをしたものをよくいただきますね」
ルシーダも食の話は嫌いではないようだ。
「ルシーダ、お前は普段どのような食生活をしているのだ? なんとなく私のイメージだと、貴族は毎日パーティーをしているイメージだが」
「グラティア様、それは違いますね。貴族はいつも贅沢をしている。そういうイメージは、一部の貴族についてはそうかもしれません。ただ、私共ラジール家や、中央都市マグヌス周辺、ギルドや商店、飲食店を管理している子爵達に関しては、日々の生活や食事も、意外と質素なものですよ」
そうなのか。確かに実際に見たわけではないし、たまに会食に誘われて伺うだけで、その貴族の全てがわかるわけではないものな。こうやって直接話して初めてわかることも、あるかもしれないと、私は思った。
「うん、うん。そうだよグラティア。マーズがギルドで言っていたような、月に金貨二百枚くらいの生活費……と大げさに言っていたのは、使用人だったりの給金や必要経費が大半で、決して贅沢三昧というわけではないよ。ま、人にもよるんだろうけどね」
「そうですね、ムジカ様。グラティア様にもアルド様にもせっかくなのでお話しますと、貴族というのはただただ偉そうに振る舞うだとか、何もせずにお金持ちになっているとか、そういう者ではございません」
ルシーダは誰の方を見るでもなく話す。
「中には暴利を貪り、果たすべき責務を見失っている者もいるかもしれません。ですが、基本的に貴族というのは、いえ高貴な身分に生まれたもの全てというべきかもしれませんが、それに伴う義務であったり、責任が伴うという考えのもとに生きております」
全ては私にはわからない。ただ、この年若いルシーダでさえも、自分が生まれた家柄を、ラジール家を子供ながらに背負っているのだと感じた。それに対してアルドが言う。
「ルシーダさん。そうやってきちんと僕達にも話してくれてありがとうございます。なかなかすぐには分かりあうことは難しいかもしれませんが、貴族の皆さんが、僕達が普段ちゃんと生活をできるように努力してくれていることは解るようにします」
ルシーダは、少しだけ微笑んだ。
「ありがとう、アルド。私から提案なんだけど……この旅をしている間は……この四人は仲間だと思うの。歳も立場も違うんだけど、せめてこの旅の間はお互いに呼び捨てでいきましょう。どうですか?」
アルドも同じく微笑む。
「わかりました……いえ、わかったよ、ルシーダ」
「ということでいいですか? みなさん?」
「私は元々みんなに呼び捨てだから、全然構わないぞ」
「うんっ、もちろん僕もオッケーだよ〜。せっかくの旅だし、楽しむにこしたことはない。おっ、ちょうどポルトゥスの街が向こうのほうに見えてきたよ!」
ついに、港町ポルトゥスに着いた。
さぁ、美味しい魚を食べることができるのか? それとも……?
魚の話に華が咲く一同。
そして、少しではあるが貴族に対する考えをグラティア自身、見直したような気がする。
さぁ、いよいよ港町ポルトゥスだ。




