馬車に乗るとだいたい眠くなるのだ
ようやくポルトゥスへの旅が始まった。
だが、旅のはじまりから何か不穏な空気のルシーダとアルド。
まだまだ旅は始まったばかりなのだが…
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。街中で出会った人族のアルドに興味を示し、行動を共にする。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。2人暮らしだった父フィデリスは不慮の事故で亡くなる。グラティアに好意を寄せるが…。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの2人のことを気に入っている。女たらしだがグラティアのことは口説こうとしない。
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。ラグルス・ラジールの娘。母親は亡くなっており、ラグルスの考えでムジカやグラティアとの繋がりを作る意図もあってグラティア達3人に依頼を頼んだ。ルシーダ(明るい)
「あら、すみません。可愛らしい男の子は嫌いではないですよ。でも、恋愛対象として。更に先を言うとラジール家の跡取りとして。と、考えますと少し違いますわね」
まぁまぁズケズケとものを言う女だなこいつは。というかアルドは私の…ん、いや、どうなんだろう。
「貴族のお嬢様というのはとても理想が高いのですね。今回の旅で良い男性と巡り会えることを僕も願っています。ちなみに僕も、あなたのことは特に興味はありませんから。僕が興味があるのはこちらにいるグラちゃんだけです」
アルドがはっきりとルシーダに言う。
なんだか初めて他の女性の前で、私の事を言うアルドを見て、少し男らしいなと感じてしまった。これはどういう感情なのか。
「あら、アルドお坊ちゃま。私の理想はそこまで高くありませんよ。ただ、貴族が肩書きだけで偉いとは私も思っていませんが、あまりレディのことを馬鹿にするものではないですわ」
ん、ルシーダも割とムキになるタイプなのだな。これは若さゆえなのか、そもそもの性格なのか。うむ、まぁどちらにしてもこの争いにあまり巻き込まれないようにしよう。
「まぁまぁルーシーちゃん、せっかくの旅なんだし楽しもうよ。あ、もし知ってたらなんだけどね。ポルトゥスでここ数年で漁獲量が減ってる原因って聞いてる?お父さんからとか」
ムジカが2人をとりなして話を変えた。こういうところはやはりムジカが上手なのだと思う。
「ん〜、お父様と話をする時も、そのあたりは言ってなかったですね。ねぇねぇムジカ様、インスラー皇国に行ったお土産話を聞かせてくださいな」
「え〜、どうしようかな。まだ2人にもあまり話してないしな〜。じゃあこっちでこっそり話そうか、おいでおいで」
ムジカが馬車の自分が座ってる側の席にルシーダを呼び、2人で話しだした。まぁ…私はそのほうがゆっくりできるからいいんだがな。ふと横を見ると、アルドが私を見ていた。
「ん、どうしたのだ?」
私がアルドの方を見て問うと、アルドは急に慌てだした。
「あっ、ううん、ううん。何もないよ〜。グラちゃんはやっぱり綺麗だなって、思ってただけだよ」
あまり普段アルドが言わないことだ。もしかしたら今は言えないことで、何か思ったことがあるのかもしれない。またそのうち聞くことにしよう。それにしても、いつも馬車に乗ると眠くなるのだ…この心地よい感じの揺れというか…なんというか…
◇ ◇ ◇
知らぬ間に寝てしまっていたようだ。そして、私は完全にアルドにもたれて寝ていた。薄っすらと目を開けて見たら、ムジカとルシーダが喋りながらだが、こちらをチラチラと見ていた。そんなに人が居眠りしているのが珍しいか。
「ムジカさん、グラちゃんよく寝てるみたいだから、なるべく小さな声で話してあげてくださいね。お願いします」
そう言いながら、私の耳を優しくなでるアルド。そのクセは小さい時から変わらないな。
「わかったよ〜、それにしてもアルド。もう完全にカップルじゃん。僕が旅に行ってる間にそんなに進展したの?」
私は寝たふりをしているので見えないが、きっとアルドの顔は赤くなっているに違いない。私はその顔を想像だけしていた。
「かっ、カップルだなんて…いや、仲良くはなりましたよ。でも、進展というか…恋人ではありませんから…」
「まぁ、エルフと人族とで生きてきた年齢も違うし、そう簡単に上手くはいかないかもだよね。僕はルシーダちゃんとは上手くいきそうだけどね」
「あら、ムジカ様ったら…でもそうなったらお父様も喜びますわね」
相変わらずのムジカの女ったらしぶりは健在だった。私はもう少しまどろんでいようと、また眠りに身をまかせようとした…
「わっ!!なんだあれは?」
外の御者が急に声を出した。モンスターか。私が起き上がろうとした瞬間、ムジカのほうが先に、馬車の外を窓を通して見た。
「ルプスハウンド、オオカミの魔物だね。ルーシーちゃん、アルドとグラティアもそのまま座っといて。すぐ終わらすよ」
馬車の扉を少しだけ開け、ひらりと飛び出すムジカ。そして、片手を上にあげて、指を鳴らした。
「貫け!」
馬車の中からは良くは見えなかったが、4頭くらいいたオオカミは皆、ムジカの魔法で串刺しになった。
「ムジカさん、凄いですね〜!!」
「あぁ、すごいのは凄いが…わざわざ馬車から出る必要があったのか…」
すると、すぐに馬車の中に戻ってきたムジカが言う。
「え?いいじゃんいいじゃん。なんかそのほうがカッコいいじゃん」
そういう形にはこだわるらしい。まぁギターとかにしてもそうだったから、そのあたりはムジカらしいのかな。
「でも、思ったより魔物もあまり出ない気はするよね〜。せっかくのアルドの初冒険なのにな〜」
出た途端に瞬間でやっつけているムジカが言うセリフではないとは思う。
「きっと、ムジカさんとグラちゃんが強いから、魔物を恐れをなして近づいてこないとかもあるかもしれませんね」
アルドが言ったが、それはあながち間違いではないと思う。知性がある魔物ほど、相手の強さもわかることが多い。なので、たまに出てくるさっきみたいなオオカミとかは、知性は低いというわけだ。
「すみません、馬を休ませたいので、もう少し行ったところで、小休止にしますね」
外から御者が言った。
「わかったわ。皆さん、そこで私達も外に少し出て空気を吸いましょうか」
ルシーダが皆に言う。
「グラちゃんは、ほとんどお昼寝してたから休憩はいらなそうだよね〜」
半分は起きていたのだが。
ポルトゥスまではあと半分くらいのようだな。
乗り心地の良い馬車のおかげで、お昼寝も出来たグラティア。
魔物が出てきても、ムジカが瞬殺。
これは思ったたより楽勝な旅になりそうだ。
このままポルトゥスへも問題なく着きそうである。
◯ムジカプチ情報
ムジカもグラティアと同じく精霊の力を借りた魔法を使う。グラティアがバランス良くほぼ全ての魔法を使えるのに対して、ムジカは主に自然由来の精霊魔法や、本人が音楽が好きなこともあるが、音や精神を操る魔法を好むようだ。
今回のエピソードでオオカミを貫いた魔法は草木の精霊ヘルバの力で、草木や枝を細く鋭利な棒のように変化させ、魔物を貫くことで倒した。




