ラグルスの娘と共に、いざポルトゥスへ
ギルドにマグヌス領を治めるラグルス・ラジール本人が現れ、自分の娘ルシーダのポルトゥスへの護衛を直接依頼された。
ラグルスの思惑はなんだろう。
そして、ポルトゥスで美味い魚は食えるのか?
◇ ◇ ◇
そして、次の日の朝。というか…
実はギルドで契約が終わったあとも色々はあったのだが。私やムジカは魔法が使えるので特に武器や防具も必要ないのだが、アルドの場合、初依頼で、初冒険ということもあり、多少の装備は必要だろうと言うことで、私とムジカで見繕った武器と防具を贈ってやることにしたのだ。
まだ非力なアルドにも扱えるショートソードと、防具は重くてまだ着れないような感じなので、物理攻撃とある程度の精神攻撃に耐えれる腕輪を買ってやった。冒険者デビュー祝いみたいなものだ。
そして、そのあとにいつも行くギルドの横の居酒屋で、私とムジカとアルドの3人で旅の前祝いということで飲みに行ったのだ。これがいけなかった。
結果を言うと、ムジカが飲み過ぎた。あまり普段感情をそこまで表に出さないようなムジカが、割とアルドのことになると変わるようで、もちろんだいぶ飲んでいたこともあるのだが、アルドの将来について語り出して、止まらなくなったのだ。そういうところがたまにジジ臭いとこがあるのがムジカなのだ。
まぁ…私とアルドは美味しいものを食べることができて、それで満足なんだがな。
ということがあっての次の日の朝だった。私とアルド、そしてムジカでギルドの前に集まり、マグヌス卿の馬車を待った。
「ねぇねぇグラちゃん。馬車って僕初めてなんだけど、グラちゃんは乗ったことある?楽しそうだよね〜?」
アルドはギルドの時もそうだったが、初めてのことや新しいことに対して色々興味があるようだ。もしかするとそれは父親譲りなのかもしれないが、良い性質なのかなと私は思った。
「うん、馬車はそうだな…馬が車をひいて歩くのだが、そんなに早くはない。あとは馬車の性能によって凄く乗り心地が悪いやつもあるな。私はだいたい乗り物に乗るときは寝ているからいいが、キョロキョロしていると酔うぞ」
「え、そうなの…僕、乗り物って乗ったことないんだけどな…小さい頃にお父さんに肩車とかしてもらったくらいかも。あれは乗り物じゃないか」
アルドと話しているうちに、向こうのほうから馬車がこちらに向かってゆっくりとやってきた。おそらくラジール家の馬車だろう。馬車は乗り合い馬車のような大型のものより少し小ぶりの、2頭立ての確かダブルブロアムという名前で呼ばれている馬車だった。御者は2人いて、馬車本体は白塗りの綺麗な箱型をしており、窓ガラスから中にいるラグルスの娘が手を上げているのが見えた。
「わっ、ルーシーちゃんだいぶ大きくなったね〜!僕が見たのって確か10歳になるもっと前だから、もうこんな小さい時だったもんね。たしか僕が初めて会った頃の、8歳の時のアルドより小さかったんじゃないかな?」
ムジカも中のルシーダに手を振る。私は正直言うと、この娘のことは全く覚えていない。というより色々な種類の種族と接していると、誰が誰とか覚えているほうが凄いと思う。これは記憶力とかの問題ではないと思うのだ、うむ。
馬車が停まり、御者の1人が馬車の横側の扉を開けた。すると中からそのルシーダが颯爽と出てきた。
「お久しぶりです、ムジカ様、グラティア様。そして、はじめまして、アルド様。私はマグヌス領、ラグルス・ラジールの娘、ルシーダ・ラジールと申します」
ルシーダはとても整った顔をしており、もう一つ言うと私よりも背が高かった。あと女性らしい体型をしていると感じた。アルドは少し緊張をした顔をしていたが、ルシーダの前で頭を下げる。
「はじめまして、ルシーダさん。僕はアルドと言います。冒険者として登録したのはつい最近なのですが、こちらのムジカさん、グラティアさんに教えてもらいながらきっちりと護衛をさせていただきます」
お、ちゃんと言うときは言うのだな。まぁそれはそうか、私が認めた人族なのだから当然と言えば当然か。ルシーダは無言でアルドに会釈を返す。
「久しぶり〜、大きくなってびっくりしたよ。僕とグラティアの方はずっと変わらないから何も変わり映えしないけど、人族の年月に対する成長の早さは凄いね。少し前に赤ん坊だったルーシーちゃんが、もうこんな立派なレディになってるんだからさ」
「まぁ、ムジカ様。色々な人族の女性にそうやって声をかけていることはお父様からもよく聞いてますわ。さぁ、まずは狭いですが馬車の中に乗っていただいて。道中でお話をしましょ」
狭いとは言ったが、ラグルスの馬車の中は、対面式の座席になっていたが、3人ずつくらい座れるような感じで、結構広かった。アルドは馬車から見える外の景色をワクワクしながら見ていた。初めての馬車を楽しんでいるようだ。
「さて、ルーシーちゃん。パパからは一応今回の依頼の内容は聞いてるけども、ポルトゥスの視察およびルーシーちゃんの見聞を広める、っていう目的は完全に表向きなんだよね?」
ムジカがさっそくルシーダに聞いた。
「あら、ムジカ様はやはりよくわかっておりますわね。私はあまり秘密が嫌いなほうでして、お父様は色々とそういうことを隠しながらするのがお好きなようですけども、率直に言うと私の花婿探しと、エルフ族との交流を深めるためと聞いてますわ」
花婿探し…エルフ族の交流…その2つに今回の旅がどう関係しているのかよくわからない。まぁラグルスは食えない性格というのはわかった。
「あ、やっぱり違う目的だったんだ。うんうん、どうせわかるんだから初めから言ってくれていたほうがこっちも余計な詮索しなくていいからいいよ。別に悪巧みしてるわけじゃないのは知ってるからさ。ルーシーちゃんの花婿探しというのはポルトゥスでってことかな?それともアルド?まぁ、アルドと仲良くなったら自然と僕らとも繋がりは深くなると思うから、それはそれで良いかもだけどね」
あ、そういうことか。やはりムジカは鋭い。まぁそれが合っているかはわからんが。
「まぁだいたいそんなことですかね。もちろんムジカ様やグラティア様との交流はとても大事であることは承知しています。でも、私。お坊っちゃんはタイプではないので…」
「お坊っちゃん!!」
自分のことを言われてるのに気づいたアルドが声を出した。
「あら、すみません。可愛らしい男の子は嫌いではないですよ。でも、恋愛対象として。更に先を言うとラジール家の跡取りとして。と、考えますと少し違いますわね」
まぁまぁズケズケと物を言う女だなこいつは。というかアルドは私の…ん、いや、どうなんだろう。
「貴族のお嬢様というのはとても理想が高いのですね。今回の旅で良い男性と巡り会えることを僕も願っています。ちなみに僕も、あなたのことは特に興味はありませんから。僕が興味があるのはこちらにいるグラちゃんだけです」
アルドがはっきりとルシーダに言う。
なんだか初めて他の女性の前で、私の事を言うアルドを見て、少し男らしいなと感じてしまった。これはどういう感情なのか。
馬車に乗って現れたラグルスの娘、ルシーダ。18歳とは思えぬ、いや、18歳だからこその物怖じせぬ様子に、アルドもその場で言い返していた。
ポルトゥスへの旅は、はじめから前途多難?
旅路の途中に危険はあるのかな?
まぁムジカとグラティアの最強コンビがいれば問題ないのだろうが…
◯登場人物
グラティア(慈愛):エルフ族の女性、256歳。ルミノース国生まれ、ルミノース育ち。精霊魔法を使える。街中で出会った人族のアルドに興味を示し、行動を共にする。
アルド(情熱):人族の男性、16歳。2人暮らしだった父フィデリスは不慮の事故で亡くなる。グラティアに好意を寄せるが…。
ムジカ(音楽):エルフ族の男性、320歳。吟遊詩人。
色々な国や、世界を巡りながら、詩を綴る。グラティアとアルドの2人のことを気に入っている。女たらしだがグラティアのことは口説こうとしない。
マグヌス伯爵ラグルス・ラジール:人族の男性、42歳。マグヌス領を治める貴族。思慮深く、温和だが、したたかである。クラルス(清潔)
ルシーダ・ラジール:人族、18歳。ラグルス・ラジールの娘。母親は亡くなっており、ラグルスの考えでムジカやグラティアとの繋がりを作る意図もあってグラティア達3人に依頼を頼んだ。ルシーダ(明るい)
◯ラジール家プチ情報
前回のエピソードの後書きにも書いたが、ラグルス・ラジールには子供が2人おり、上がルシーダ18歳、下がウィルトゥース10歳である。ルシーダ本人も言ってたように今回の旅は婿探しと語っているがそれも結局建前で、実際跡継ぎのほうは弟のウィルトゥースが継ぐことがほぼほぼ決まっているので、ルシーダは特にそのあたりには関心はない。




