アルドとお洒落な店「ラ・メーラ」に行く
マグヌスを見渡せる丘の上で、ムジカはアルドと私に歌を歌ってくれた。
それはとても心地よく、流れる風のようにすっと、私の心へ入ってくる。
そのあと3人で食事をするため、マグヌスへと向かう。
「あはは、そんなことないって〜。まぁとりあえず街に戻ろうよ。僕、お腹空いちゃった」
ムジカがせっかくの歌を台無しにするような言葉を放つ。まぁそれもムジカなのか。
「ムジカさん、ホントに歌よかったです!ちょっと余韻に浸りたい気分なんですけど…実は僕もお腹空いてきてたんです」
「アルドも空いていたのか。まぁそれなら仕方ないな。ムジカも歌を披露してくれたことだし、今回は私がおごってやろう」
言いながら、自分のお腹がくぅと鳴っていたのをごまかした。前にも話したが、ここルミノース王国は多種族国家であり、エルフ族、魔族、人族、獣人族が入り乱れている。そのため種族によっての生活スタイルの違いもあるし、食に関しても様々な違いがある。街によっていずれかの種族に偏った街もあるにはあるが、ここ中央都市マグヌスはルミノースの中央にあるだけあって、多種多様な店がならんでいる。その様々な店から、自分の好みにあった店を選んで入るというわけだ。
「あっ、僕久しぶりにラ・メーラに行きたいなぁ〜。あのふわふわの卵で包んだ、味のついたご飯と具材が美味しいんだよね〜。ソースも色々選べるし」
「また、洒落た店を選ぶやつだな。私もたまには行くが、あそこはあの卵くるみご飯だけしかメニューがないから、つまらんのだがな…」
3人でマグヌスに向かいながらムジカと私が会話しているのを聞き、アルドが興味ありそうな様子だ。
「えっ、僕そのお店行ったことないかも!というかグラちゃん今まで連れていってくれたことないですよね?隠してたんですか?」
「隠してたわけではない。ただ、私がそんなに好みではないだけだ」
ムジカが旅に出ている間は、店は私とアルドの2人で行くことがほとんどだったし、フィデリスやその仲間達と共に食事をする時も、あの酒場に行くことが多かったからな。というか、洒落た店はあまり合わないのだ、私に。
「えっ、アルドはまだ行ったことないんだ?じゃあ行こうよ〜!絶対気に入ると思うよ。あっ、そういえばその今から行くラ・メーラって、僕が行ってた、インスラー皇国から伝わった料理らしいよ。色々アレンジはしてるみたいだけど…確かオムライスって言ってたかな、あっちでは」
「あまり私は他国からのものは好かんのだがな…」
「えっ、僕は行ってみたいな〜。ムジカさんの説明聞くだけで美味しそうじゃないですか」
まぁ仕方ないか。しぶしぶムジカのリクエストの卵くるみご飯の店に行くことにする。私がそこを苦手な理由を思い起こしてみたのだが、料理そのものよりも、共に行った相手がダメだったのだ。もう名前も忘れてしまったが、マグヌスを治める伯爵だか子爵だか、貴族の連中と行ったのがその店だった。貴族というのは上下関係で言うと上になり、支配階級ということになるが、もちろん管理の必要性はわかる。多くを束ねたり、秩序を保つには統制が必要だからだ。ただ、貴族の連中は何かと気取っている。それがあまり好かんのだろうな。まぁそんなことを2人に話したところで、なんとなく返ってくる言葉も想像できるし、言う必要もない。
「味は覚えてないんだが…まずくはなかった、と思う」
「えっ!絶対美味しいって。グラティアは好き嫌いとかはないんだよね?まぁラ・メーラ意外にもハムとか肉系のサイドメニューもあったんじゃないかな」
3人で話している間に、マグヌスに着いた。ラ・メーラがある場所は、よく行くギルドの近くの酒場や、丸焼きの魚を売っているところとは、反対側の区画にある。そのあたりは特に決められているわけではないが、主に金持ちのための店というのが多い。
ラ・メーラはシンプルな石造りの店構えだが、綺麗な白色に塗装されていて、入り口のドアを開くと、ドアについていたベルが優しく鳴った。
「いらっしゃいませ。3名様ですか?」
店員に案内され席につく。イスがふかふかだ。
「本日のオススメのラ・メーラは魚介たっぷりのあっさりシーフードラ・メーラでございます」
む。魚介の言葉に反応をしてしまった。私は魚が好きだ。肉も好きだが、魚はもっと好きだ。
「私はそのオススメにしよう。ムジカとアルドはどうする?」
「え〜、せっかくだからメニューも見てから選びたいよ。アルドもそうだよね?」
「はいっ、僕も色々見て選びたいです」
こういう時に、なぜか気があう2人。私はメニューを見てあれこれ選びだすと、結局何が食べたいかわからなくなるので、直感で選ぶことにしている。食べたいものを食べる。まぁ、たまにしか来ないところだからいいか。ゆっくり選ばせてやろう。
「私の頼んだ分だけ先に作っておいてもらっていいか」
「かしこまりました」
テーブルの4人席にムジカとアルド、対面に私が座る。メニューを見ながらあれこれと楽しそうにしているのが見ていて面白い。
「ねぇねぇ、アルド。これ美味しそうじゃない?僕は割と普段はノーマルなのを頼むんだけど、変わり種のも少し惹かれるんだよね〜」
「あっ、ムジカさんもそうなんですね!僕もどちらかと言うと定番モノに安心するタイプなんですけど、でも新しいものにも、惹かれちゃいますよね〜。このゴールデンスペシャルラ・メーラか、定番ふわふわラ・メーラにチーズソースを添えて、この2つで悩んでるんですよ〜!」
「あっ、じゃあさ。2つ頼んで、半分こずつしようよ。僕もどっちも食べてみたいし。あと、サラダとスープと飲み物も付けてセットにしようね。グラティアもセット付けとく?」
なんだか、2人の関係が親子に見えてきた。
「もちろん付ける。私は半熟卵のサラダと、チキンスープ、あと飲み物はエールはないのか?」
「わかった。エールもあるけどせっかくこういう店だし、葡萄酒にしない?ラ・メーラの料理にも合うと思うよ」
ムジカに誘導されてばかりな気がするが、確かにそんな気もしたので、ムジカに適当におすすめを頼んでもらうことにした。
「たまにはこういうところもオシャレでいいですよね〜。ムジカさんここって結構高いんじゃないですか?」
ムジカがアルドに耳打ちする。
「えっ!!そんなにするんですか!?メニューに値段が書いてないのって、そういう意味合いもあるんですかね…」
アルドが驚くのも無理はない。ここの料理はだいたい5000ルミー単位の値段設定だ。まぁ貴族がよく使う店だけあって、多少値段をつり上げていることもあるかもしれない。先日食べた魚の丸焼きが値上がりしても10000ルミー、金貨1枚で10本買えることを考えると、普通の庶民の暮らしでは、気軽に入れる店ではない。
「まぁ、今日はなんかグラティアが出してくれるって言うし、そういうことは気にしない気にしない。僕デザートも見とこうかな〜」
「そういえばムジカ。アルドにやたらと冒険を勧めていたが、何かあるのか?」
先程の丘の上で話していたことだ。アルドはギルドに登録したものの、まだ依頼を受けるまではしていない。至急で金を稼ぐ必要がないのも依頼を受けていない理由のひとつだ。
「ん〜、まぁグラティアも思っている通り、すぐに生活のためのお金を稼ぐ必要はないんだけどね。一番はアルド、君のためだよ」
「えっ…僕のため、ですか」
「うん、うん。アルドは僕が知っている限り、このマグヌスからほとんど出たことがないよね。もちろんそれもいいとは思う。この街はなんでも揃っているからね。でも、君の知見を広げるために、一番手っ取り早いのは冒険なんだ。僕やグラティアの話であったり、本から得る知識ももちろん良いよ。ただ、直接に見る。直接に感じる景色や、モノや、情報はすべてに勝る」
ムジカの言っていることは一理ある。聞いた話、読んだ話はあくまで知識としてはあるが、その先というのはあくまでも自分自身の想像になるからだ。話し手がいくら饒舌に巧みに説明をしても、受け取り手によって内容が変わることもある。
「アルド。君はお父さんのフィデリスのようになりたいんでしょ。だったら冒険をしなさい。男だったら旅をしなさい。あ、これは男女関係ないね、ごめんね。グラティア、君もアルドのことを考えてあげるなら、ただ一緒にいるだけでなく、アルドの短き生涯をどう過ごすかを、考えてあげてもいいと思うよ」
アルドは聞きながら少し考えていた。
「あっ、とりあえず料理来たみたいだし、難しい話はあとにしよう!おーい、こっちだよ〜」
料理を運ぶ店員に手招きして催促するムジカ。
運ばれてきたラ・メーラは想像以上のものであった。
ラ・メーラのお料理楽しみですね。次回は実食です。
ちなみに、ラメーラは薄い板という意味を持っています。薄焼き卵で色々な味をつけたお米をくるんだ料理、現代でいうオムライスですね。それの専門店のため、店名もそのまま「ラ・メーラ」となっています。
◯ラ・メーラプチ情報
アルドが驚いていたように、ラ・メーラの料理は貴族が主に利用することもありますが、まぁまぁ高めの値段設定です。作中でグラティアは5000ルミー単位と言っていましたが、実際は金貨1枚=10000ルミー=2万円単位くらいです。グラティアがはじめに頼んだ「魚介たっぷりのあっさりシーフード ラ・メーラ」は20000ルミーに、サラダとスープとドリンクを付けると5000ルミー追加となります。魚介が少し高めのマグヌスなので、より高くなりますね。セットで5万円ということです。




