パーティ名|町の便利屋さん
翌々日の朝。僕たちは組合へと足を運んでいった。今日ははじめての依頼を受注するのだ。
掲示板には、真新しい純白の依頼書から、黄ばんで端がめくれかけたものまで、雑多に貼られている。紙の匂いとインクの酸っぱい香りが鼻をかすめ、緊張が胸を締めつけた。
目当ては、自分たちが受注できる「銅翼」の印。条件を満たす依頼書を探し、視線を走らせる。
「ラプトロスの駆除とかは?」
リシアが一枚の紙を指差す。
僕は首を横に振りながら、「銀翼」と押された印を示す。
「うーん。ルルは何がいいとかある」
困りかねて、リシアはルフィーナに振った。
「私ですか……。そうですね……」
彼女は頬に手を当て、眉間にしわを寄せて唸る。
特にこれと言って意見がなさそうな2人の会話を聞き流しつつ、僕は隅々まで見回す。だが、なかなか条件に合う依頼は見つからない。
「たとえばですが、薬草の採取が目的になっているものだと、ついでに別の薬草も採れて、稼ぎやすいかもしれません」
ルフィーナは考え込むように、唇を口の中へと隠した。
「薬草か――」
確かに悪くない。僕もリシアも、薬草ならそれなりの知識もある。
「薬草に詳しい人は、修道院や教会に行ってしまうことが多いので、冒険者の組合にくる依頼は放置されてしまうことも多いみたいで」
ルフィーナはそう言いつつ、一枚のやや黄ばみ始めている紙を指差す。
「なるほどね――。いや……これ結構な量。受ける人がいないわけだ」
リシアが依頼内容を見つつ、愕然とする。
「まあ、最初はそのあたりからやってみてもいいんじゃない?」
僕はそう言いながら依頼書を手に取った。
――止まっていても進まない。動き出してから働きを修正したほうが良いだろう。
受付に行くと、まず身分証明の提示を求められた。。
「今回の依頼は、依頼人の都合で報酬額が訂正されています。デナリス銀貨三枚になりますが、よろしいですか」
よほど人が集まらなかったのだろう。報酬が上がっている。僕がうなずくと、受付の女性が紙を差し出してきた。
「では、こちらにパーティ名をご記入ください。まだ登録がお済みでなかったようですので」
パーティ名――。
ちらりとリシアを見ると、小声で「任せるよ」と言う。ルフィーナも後ろで小さく頷いた。
こんな大切なものを思いつきで決めていいのだろうかと、戸惑いつつ、少し思案して記入した。
三本杖――。
「絶妙にセンスがないわね」
リシアが即座に斬り捨てる。
「他にいい考えある? 加護三柱とかにしようか」
「それは……ちょっと――」
ヤケになった僕のアイデアに、さすがに嫌なのか、ルフィーナも口を出してきた。
ならばと、ヤケ気味にいくつか出す。
「じゃあ――。旅人の舟、空飛ぶ白衣、境なき加護、常闇の探求者」
自分でも、頭を捻ってしまうセンスの無さである。
どれも決まらない。受付の若い女性が、くすりと笑って助言をくれた。
「今後、名前が知られたときに直接、依頼が来ると言うこともありますから、名前から得意な依頼内容などがわかると良いですよ」
顎に手を当てて、考え込む。
得意なのは、回復、支援、生活魔法――。
「町の便利屋さん、魔法便利屋、お助け三人衆……」
「町の便利屋さん!いいじゃない」
リシアが目を輝かせる。ルフィーナも同意するように頷いた。
「え、もっと格好いいのが……」
僕の抗議は最後まで言えなかった。リシアがピシャリと言い放つ。
「わかりやすいのが一番。なんとか三剣士とか、なんちゃらの集いとか、何ができるのかわかんないのが多いじゃん」
不服そうな僕をよそに、受付の女性も加勢する。
「わかりやすさは大切です。こちらとしても、依頼人へ紹介しやすいですし、お声もかかりやすいですよ」
こうなると、もう勝ち目はない――。
「では、紹介文はいかがいたしますか?」
受付の女性も心得たもので、すっかり主導権を握ったリシアに聞く。
「そうですね――」
リシアは目を瞑って絞り出すようにして答える。
「強みとしては自然治癒を大切にした回復魔法、栄養満点の食事づくり、人生相談など――」
僕も溜息を吐きながら、付け加える。
「生活魔法も全般的に得意です。掃除とか古着の仕立て直しとか」
受付の女性は感心したようにうなづきながら書き留める。
「あの――。料理も魔法でできるのですか」
興味津々といった様子で受付の女性が聞いてくる。
「いえ、実家が教会と宿屋を兼ねてたので、料理は得意なんです」
リシアを軽く示すと、後ろからルフィーナの感嘆が漏れる。
その後、いくつかの質問に答えて、無事に登録となった。
「回復魔法、生活魔法、悩み相談なら町の便利屋さんへ!」という案内文と共に、僕らの名は町の掲示に張り出された。
……冒険者パーティの紹介かどうか、頭を抱えるほどの妙な看板で。
――ちなみに、薬草採取の最中に秘密兵器を披露することになった。
金属筒を持ち手とした、高圧の水を循環させてブレードを形成する魔法刃。
光のビームも試したが、魔法で極限まで高圧をかけた水の方が切れ味は上。
この感動を伝えようとしたが、水で物を切ると言うことが2人にはしっくりこないらしい。
どうにか魅力を伝えようと、思わず圧力を弱めると、掃除にも使えることを喋ったら、そっちの方がピンときたらしい。
結果――リシアの手で「高圧洗浄でお家ピカピカ」の文字が紹介文に追記されたのだった。