9話
ククリは森を歩いていた。
水晶で見た道なき道、三日三晩と探し回り、漸く見つけたそれは生贄の祭壇への最短距離に当る場所だった。
「くそ、マジか…」
キューラが村長宅から姿を消した日のこと。
必死に彼女を探していた村人二人組の会話を聞いた。
『病気の内蔵は夜に治るって話だったんだろう? 』
『村長はそう言ってた筈だけど…』
『聞き違えたんかねぇ』
『あの方がそんな事するとは思えないけど、まあとにかく探すっきゃないよ』
『だねぇ』
彼等はキューラの回復する時を知っていた。内容からして、あの日の会話は村長に盗み聞かれていたのだろうとククリは勘づいた。
そこからは彼の勝手な想像だ。
キューラは六日後にライラがこの世からなくなると言った。あの日から数えて六日後とは、ククリの誕生日であり… それだけではなかった。
かつて魔女の為に生贄を捧げる祭りが催されていた日にして、両親が森で変死した日に当る。
その死に様を最初に見つけたのはククリだった。
あまりにも帰りの遅い両親を待ちきれず、父に習って装備を整え、ライラに留守番を任せて、誕生日のお菓子作りの材料を探しに森へ向かった二人を迎えに行った。
決して森を軽視していた訳では無かったが、慣れないことをしたククリは迷いに迷い…
魔女の悪戯なのかもしれないとククリは思った。
何かに導かれるように進んだ先、開けた場所に出た。
そこは生贄を捧げる祭壇のある聖地だった。
何度か来た事のある場所に辿り着き、安堵に胸をなで下ろしたのも束の間のこと。
石造りの精巧な祭壇、その中心で。
腹を開かれ、内蔵と血液を抜かれ、グチャグチャに歪んだ表情をして、父と母は手を繋ぎながら、死んでいた。
ククリが覚えているのはそこまでだ。
叫び、喚き、吐いて、気絶したから。
その後は祭事の為にと祭壇に訪れた村人に助けられたらしい。
両親の死は獣の所為だと結論付けられた。
森には熊や狼が棲息している為、村近くまでやって来た獣の何れかと不幸にも出会し、食い荒らされたのだろうと。
だが、ククリはその結論をずっと納得出来ずにいた。
森を誰よりも知っている筈の父が獣に襲われるような下手を打つだろうか。
其れに獣が食い漁ったにしては、死体が綺麗過ぎるようにも思えたのだ。
子供ながらに抱えた疑問が再度浮上する。
あくまで仮定の話、あれが人の手によるもの… それも魔女に信心深い村人の行いで、両親が生贄として魔女に捧げられていたのだとしたら。
魔女の弟子の弟子 キューラ・プローメスが同様に、祭事の生贄として捧げられる事になっていて… それを予知していたから、誤認させる情報を伝えて逃げたのだったら。
彼女はライラが祭事の日になくなると言っていた。
彼女はライラを他人事には思えないと言っていた。
あぁ、ならば、次に狙われるのは…
「───村を出よう。今すぐに」
念の為を思い、身支度は仕事部屋にて済ませていた。
森で水晶の道を探しながらも当分の薬草、茸を集めて纏まった薬を作っていた。
後はライラを連れて、村を出るだけだ。
ククリは森を駆ける。
早くライラを迎えに行かねばと、一抹の焦燥を胸して。